第三話 現実
「彼は駄目だろうな」
ある夜。
預かっている子が寝静まったあと、一組の夫婦が話をしていた。
「はい。生まれたときからなら、まだ手立てがあったのですが…」
生まれたときからなら、多少力が弱くても手立てがある。
まだ成長しきっていないうちなら、力の使い方を、流れ方を変えることが出来るし、力のある呪具を使うにしても、早くから慣れ親しんできたほうがよい。
逆に成長しきってから目覚めると難しくなる。
固定されてしまっているのだ。
『力』が『気』が固まっているのだ。
呪具を使うにしても、余程相性のいい物に出会わないとそこそこの力しか出せない。
呪具は新しく創る事も出来るが、ほとんど代々人から人へ受け継がれるものだ。
数も段々と少なくなってきている。
その中から、相性のいい呪具を探すのは至難の業だ。
「遅咲きの花もある」
「それが開花することも…しかし…」
夫の声は諦めがあった。
妻は目を伏してしまった。
「彼は…」
「ええ…」
「咲くことも出来ないか…」
『視る』事が出来るから『見鬼』であることは判っている。
しかし、それ以上のことになると話は別だ。
『見鬼』とは『視る』ことの出来る人間のことを言う。
「蕾のまま終わるでしょう。よほどの事が無い限り」
「『力視』で開花できれば一番いいのだがね」
土壇場で開花した例は過去に、ほんの数例。
二人の見る限り彼にはその奇跡はおきないだろう。
「・・・・・・」
「無理か」
「私の視る限りでは…」
『視る』力は夫より妻のほうが上だ。
だからこそ、夫は妻に聞くのだ。
「仕方がないがの…父親に憧れていると言っていたが…」
この家に来たとき、恥ずかしそうにしながら彼が語っていた。
父と同じ場所に行きたいと。
生きて行きたいと。
「同じ場所には立てないでしょう。良くて『組織』の『協力者』…」
「まあ、ここまで『組織』のことを知ってしまったんだ。一生『組織』にかかわって生きていくしかないがね」
夫婦が彼に教えたことは、彼のこれからの人生選択を狭めてしまった。
会った時から無理だとはわかっていた。
しかし、彼の情熱が二人の口を軽くした。
いけないことだとは判っていたが、二人は彼の『万が一』を期待して知識を与え続けた。
「…はい」
「私たちが彼を『かごの鳥』にしてしまったんだね」
「…仕方の無いことです。それも、定めです」
「仕方が無い、か」
「『力』に目覚めてしまった。そして、その『力』が彼の理想には程遠かった」
妻は知識を与えたことを悔やみつつ、それを受け入れたのだ。
「手厳しいね」
「現実を見ないといけません…私たちは…」
「そうだな…彼が、諦めがつくといいのだがね」
「それは、あの子しだい。私たちに出来ることは見守ることだけ…」
二人はただ祈った。
彼が絶望しないように、と。
「ああ。そうだな…」