第一話 生まれ
俺の父親は『組織』の『術者』だ。
母親は普通の『人間』だ。
俺自身は母親に似たのかまったく視えない人間だった。
父親が居なければ『アチラ』の世界を信じなかっただろう。
しかし、父親は居た。
そういう世界に。
そのため俺は視えなくとも、『アチラ』の世界を信じ僅かながらアチラの世界の事を父親から学んだ。
十六歳を過ぎた頃だろうか…。
ある日突然視えないものが視え、聞こえないものが聞こえた。
一説によれば『そうゆう』力の節目が十六歳だと言われている。
実際俺は、十六歳を境に視える様になった。
その逆もあるそうだが…。
父は戸惑い、母は悲しんだ。
父は自分の苦労を息子である俺に体験させたく無かった。
だから、俺に全く『力』が無いことを喜んでいた。
しかし、自分の仕事を理解させる最低限の知識のみ俺に教えていた。
そして母は、父の仕事を理解し『待つ女』になっていた。
術者は時に命も危ない。
それを理解し、ただ無事を祈る『待つ女』に。
父だけで母にとっては精一杯なのだろう。
それなのに俺が『力』に目覚めてしまった。
もし、俺の『力』が術者で通用するほどならば母の心の負担はさらに大きくなる。
俺が家を出て行っても、それは同じことだ。
俺はそれを理解し、両親にそのことは黙っていた。
しかし、何時までも隠しているわけには行かない。
だから俺は、父がたまに家で『式神』と呼ばれるモノを出しているとき、大げさに驚いた。
父は俺が視えているのを瞬時に理解し、母はなぜ俺が驚いているのか分からなかった。
そして、俺は全てを打ち明けた。
父はしばらく様子を見て、俺をある家に一ヶ月ほど預けた。
そこに居たのは、俺の両親と同世代の夫婦だけであった。
その夫婦には子どもがいなく、俺のことを日常生活では、とてもかわいがってくれた。
ただ、食生活や生活習慣についてはかなり厳しかった。
粗食、早寝早起き、そのほか手伝い、学校。
そう、他人の家から学校に通わされていたのだ。
終わるのだろうか・・・