岸辺 桃花視点 2
あの事件から、ウチと暁人はすっかり仲良くなった。
週に2回は確実に遊んでいる。暁人といる時間は、本当に楽しくて居心地が良かった。
「暁人ー、誕生日おめー!」
「ういー。サンキュ」
「はい、これー。プレゼントー」
「ん……お! 香水じゃん、しかも高いやつ」
「うん!」
「俺、この匂い好きなんだよね。ありがとう。無くなるまでちゃんと使うわ」
「喜んでくれて良かったー! いっぱいそれ付けて遊ぼーね!」
⸻
そして、ウチの誕生日の日。
「誕生日おめでとう。……これ」
「え! これって…うちが気になってた香水じゃん!」
「俺の時も香水だったしな。……あと、これも」
暁人が、少し大きめの紙袋をぶっきらぼうに渡してきた。
「これもウチの好きなブランドのパーカーじゃん! めっちゃかわいー!!」
「それ着て、遊びに行こーぜ」
「行く行く! 待ってて! 今着替える!」
着替えて戻ると、暁人が少し目を見張った。
「似合う?」
「……すげー可愛い。オーバーサイズのパーカーから出てる生足が、特に」
「もー! 暁人のえっち! 足じゃなくてコーデを見てよ!」
幸せだなー……。好きな人と一緒にいられる。これ以上の幸せはない。
暁人……好き。好き。大好き。
けど……暁人には「空」という絶対的な彼女がいる。
ほしい。ほしい。ほしい。暁人が欲しい。
……挑戦せずに後悔するよりは、いいよね。
ウチは、暁人に告白する事にした。
「ねぇ……暁人」
「ん?」
「その……あの……」
「何w」
「好き! ウチと、付き合って!!」
言った……。ついに、言っちゃった……。
少しの沈黙の後、暁人は困ったように頭を掻いた。
「あー……ごめん」
「だ、だよねー……。空、いるしね……あははっ」
わかってた。わかってたけど……うう……ダメだ。涙が……。
「ご、ごめん……泣くのは違うよね……ほんとごめん……」
「………」
やばい……涙が止まらない……。どうして……。
「……うぅ……っ」
「桃花」
暁人の声に反応して顔を上げた瞬間。
チュッ
「……え」
暁人の唇が、ウチの唇に重なっていた。
「……空には、内緒な」
暁人は、少し悪びれたようにニヤリと笑って言った。
それからウチらは、最後までいく一歩手前の、えっちな事をやってしまった
「ふぅ……どうだった?」
「……良かったよ……。でも、これ空にバレたら……」
「バレなきゃ大丈夫だって。……たまにヤッてやるから、元気出せよ」
「……う、うん……そーだね……。バレなきゃ……」
空には申し訳ないけど、暁人とこんな事が出来るなら、最低な行為だとしても関係ない。
「もし空と別れたら、桃花と付き合うよ」
「ほんとに!?」
嬉しい……。嬉しすぎる。
「それまで、キープで」
「さいてーー!!」
ウチらはそれから、遊んだ後は必ず、秘密のえっちな事をする様になった。
「とーか……めっちゃ上手い……」
「ふふ……空と、どっちが良い?」
「……とーかの方が良い」
「嬉しー♡ 今日はもっと頑張っちゃお」
⸻
ある日、暁人と海沿いの公園で、ウチの地元の友達たちと飲んでいた時のこと。
「んー……トイレ行ってくるね」
「ういー」
用を足して戻ろうとした時、同じ高校のチャラい男子に声を掛けられた。
「桃花ちゃん!」
「なに」
「二人でさ、抜け出さね?」
「しね」
ウチが冷たくあしらって歩き出すと、男はしつこく食い下がってきた。
「待って! 桃花ちゃん今フリーっしょ? 俺、桃花ちゃんのこと気になっててさ」
「キモい。しね」
「おい……待てよ。下手に出てればチョーシこきやがって」
ガシッ。肩を強い力で掴まれた。
「離せよ! キモいんだよ!!」
「マジでキレーな足してるよなー、へへっ……」
「見るんじゃねぇ!!」
ウチは男に向かって平手打ちをしようとしたが、あっさりと防がれてしまった。
「あっぶな……。この……クソビッチ! 来い!」
男がウチの腕を引っ張り、人気の無い場所へ連れ込もうとしてくる。
「……はぁ。またかよ」
ドカッ!!
「ぐほっ……!」
男の身体が、いきなり横へ吹っ飛んだ。
「暁人!!」
助けてくれたのは、やっぱり暁人だった。
「桃花……お前、絡まれすぎだろ……。数ヶ月で二回も襲われるって……」
「ほんと、それ……ウチ呪われてるカモ」
「まぁ、俺がいる時は守ってやるから安心しろよ」
「うん!! 好き好き!!」
(ウチには、やっぱり暁人しかいない……!)
吹っ飛んだ男が、顔を押さえながら起き上がった。
「あ、暁人くん……。ごめん……もしかして、暁人くんの女だった?」
「あたりめーだろ」
「ご、ごめん!! 知らなくて……! でもさ……暁人くんには空ちゃんが……」
「あ? …………察しろよ」
「そ、そっか! ごめんごめん……それじゃ……戻るわ」
男は怯えきった顔で、小走りで逃げていった。
「俺が守るっつっても、毎回は無理だと思うからな。念の為、スタンガンとか催涙スプレーとか、護身用の道具持ってた方がいいかもな」
「だねー……明日買うー」
「ねぇ……暁人。二人で、抜け出そ?」
「……おけ」
その日の秘密の時間は、いつもよりずっと長くて、甘かった。
⸻
それから、かなりの月日が流れたある日。
「……バレちまった」
「え……」
「空に。……悪い、しばらく距離置こう」
「やだヤダ! そんなの無理!」
暁人と今まで通りの関係を続けられないなら、死んだ方がマシだ。
すがりつくウチに、暁人は小さな声で言った。
「……実は、空とは別れようと思ってる」
「ほんとに!! 本当だよね!?」
「今、空が荒ぶりまくっててよ……。このままじゃお前にも被害が来るから、今は少し我慢してくれ」
「わかった……我慢する……! 絶対に、別れるんだよね?」
「うん。今すぐは無理だけど、いずれな」
ウチはその言葉を信じて、辛かったけど、ずっと我慢した。
そしてその後……本当に、暁人と空が別れたという噂が流れた。ウチは狂喜乱舞した。これでやっと、暁人と堂々と付き合える!
でも――。
「悪い……。今は、そういう気分じゃないっつーか……」
「なんで!! 空と別れたんでしょ!? ならウチと!」
……はっ。そっか……空とは小学生の頃から付き合ってたらしいし……すぐには気持ちの整理、つかないよね。
「ごめん……大声出しちゃって……。今は色々、気持ちの整理つかないよね……」
「ああ……分かってくれて嬉しいわ」
「うん……わかった……待ってるからね……」
「お詫びに、なんかご飯奢るよ。高いとこ」
「やったー!覚悟してね」
(焦っちゃダメ……慎重に……。そうすればいずれは……ウチの想いも報われるはず……)
それから数ヶ月。前ほど頻繁じゃないけど、暁人と遊ぶ関係は続いた。えっちな事はあれ以来していない……。早くしたいよー。
⸻
そして、今日。
はぁー、学校だる……。来たばっかだけど早く帰りたいな……。でも暁人と会えるから、学校にはちゃんと居なきゃ。
「おい! 音村と空ちゃんが一緒に登校してるぞ!」
え……嘘……。
ガラッ。
教室のドアが開き……そこには……。
恋人繋ぎで幸せそうな笑顔を浮かべている空と、少し気まずそうにしながらも、その手を振り払おうとしない最愛の人の姿があった。
そして二人は、周りを気にせずイチャつき始めたのだ。
(はは……馬鹿みたい……)
信じてたのに……。いっぱい、我慢したのに……。
ずっと、ずっと待ってたのに……!!
結局、ウチはただの都合のいい「キープ」で、ゴミみたいに捨てられたってこと?
あはははははは……。
もーいーや。どーでも……。
ウチ……壊れちゃった。
………………。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
犯してやる……。犯しまくってやる……。
ウチの部屋に閉じ込めて、ぐちゃぐちゃに……一滴残らず、全部搾り取ってやる。
ウチをこんな風にしたのは、暁人が悪いんだからね……?
ひひっ……。




