岸辺 桃花 3
「あきと!」
教室に入ると空が、勢いよく抱きついてきた。
「心配したんだよ! 昨日ずっと連絡つかないし、どこにいたの!」
「い、いや……悠里ん家」
「……ほんと?」
「うん……」
「……そっか。次からは連絡、早めに返してほしいな」
「……ひひ」
「…ふふ」
(クソッ……ニヤつきやがって…)
このまま桃花たちに搾り取られたら死ぬ…
だから、今日ここで賭けに出る。
⸻
放課後。俺は桃花を呼び出した。
「ちゅ〜」
「いい加減にしろ。俺はもう、お前らの言いなりにはならない」
「は? 何反抗してんの?」
「空との動画、学校にバラしたければ好きにすればいい」
「……退学になってもいいの?」
「どうでもいい。お前らのおもちゃにされ続けるより、よっぽどマシだ」
俺の決死のハッタリに、桃花は少し驚いたように目を見開いた。
(これでどうだ……ダメなら、俺はもう終わりだ)
「………そっか。わかった……もーやめるよ」
「え……」
「好きな人にここまで拒絶されたら、さすがにウチも傷つくし。……今までほんとーにごめんね? PCにある画像も動画も全部消す。だから最後に、ウチの部屋でちゃんと話して、目の前でデータ消すの確認してよ」
「……わかった」
よっしゃーー!! 勝った!
これで桃花との関係は終わりだ。死なずに済んだ!
⸻
そう安堵した俺が馬鹿だった。
桃花の部屋に入り、ベッドの端に腰を下ろす。
(もーこれで、この部屋に来る事もない。データが消えるのを見届けたら、すぐ帰って寝よう……)
「飲み物持ってくるから待ってて」
「ああ」
桃花が部屋を出て、しばらくして戻ってきた。だが、その手には飲み物などなく――代わりに、見知らぬ女子が5人、ぞろぞろと部屋に入ってきたのだ。
全員、桃花とよくつるんでいるギャル連中だった。
「皆! もう出て来ていいよー!」
「は……?」
桃花が笑うと、女子たちが一斉に俺を取り囲んだ。
「うわー、マジでいんじゃん。暁人」
「あの身体、前からちょっとイジメてみたいなーって思ってたんだよねー」
「今日からウチらのおもちゃね♡」
「犯す犯す犯す」
「彼氏とどっちがいいかなー」
!…逃げなきゃ…
バチッ
「うぐっ…」
「ひひっ……ざんねーん。今回は逃がしませーん」
桃花の手の中で、護身用のスタンガンが火花を散らした。
「てめぇ……桃花! 騙しやがったな……!」
「ばーか。のこのこ部屋についてくるほーが悪いっしょ」
「それじゃ…皆…ヤっちゃって」
「やめろ…やめてくれ…」
「…………」
ニヤニヤ
ーーーー
「ただいまー!………うわっ…ヤバっw」
「気絶したー暁人ー」
そこには意識が無く身体中キスマや噛み跡、落書きや体液まみれの男が横たわっていた
「てか、クサッw!窓開けなきゃw」
「彼氏よりおっきくて良かったー」
「雄っぱいサイコー!ずっと舐めてたい!」
「確かにー!腹筋もエロすぎてずっと舐めてたー」
「けっこー暁人の事気になってたんだけどな…幻滅したわ…これじゃただの肉ディルドじゃん」
「む〜!まだ犯したりないよ〜、早く起きて〜!」
「たぶん今日はもー無理そうだね、今日はもー終わりでー」
「だねーこれ以上ヤったらたぶん死ぬでしょ」
「明日も来るからちゃんと監禁しておいてね」
「おっけー任せといてー」
「ん……ここは……いっ」
身体中が痛い…昨日と一緒…いやそれ以上だ……
「あ、起きた」
ひっ……桃花の顔を見るだけで震え上がってしまった
「すげー犯されたねー!ウチの部屋めっちゃエロい臭いしてたよ」
「明日も同じメンツ…いや…もっと増えるかも!」
「嫌だ…もう犯さないで…くれ…」
「無理w無理w諦めなー」
「あんたはもうウチらの性奴隷だから、今日からウチの部屋に監禁するからね」
そんな…そんなの嫌だ…もうえっちなんかしたくない…
「ほらっ……舐めろ…さっさと舐めねーと犯すぞ」
これ以上精子出したら死ぬ…絶対死ぬ…
「ん………もっと激しく…」
それから10分近く付き合わされた…
「はぁー…はぁー…マジで良かったよ、明日はアンタの舐めてあげるね」
俺の人生……これで終わりか……。
(悠里……ごめん……。これは、お前がいるのに他の女に流された俺への罰……だよな)
もう一度だけ、悠里に会いたい。一緒に笑い合いたかった。
でも、もう無理だ。一生この女たちの奴隷として、暗い部屋で飼い殺しにされるんだ……。誰か……誰でもいい……助けて……!
バンッ!!
「え……!?」
「何! アンタ!」
突然、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
そこに立っていたのは――一条翼だった。
「昨日から連絡がつかず、学校にも来ていない。まさかとは思ったが……」
「は!? アンタ、生徒会長だからって人の家に何勝手に入ってんの?!」
桃花がヒステリックに叫ぶが、翼は氷のような冷たい視線で一蹴した。
「黙れ。……暁人は連れて帰る」
「ふざけんな! コイツはウチのモノだ!!」
「……これを見ろ」
翼が、自分のスマホの画面を桃花の目の前に突きつけた。
「途中からだが、お前たちの脅迫と監禁の様子、すべて音声と動画で記録させてもらった」
「嘘っ……」
「私がこれを父や警察に見せたら、お前たちはどうなると思う?」
「………ッ」
桃花の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「もう二度と、暁人に関わらないと約束するなら、この件は見逃してやる」
「……チッ」
「ふんっ……。ほら、暁人。行くぞ」
⸻
夜の公園。
俺は、震える身体を翼に預けるようにして座り込んでいた。
「翼……ありがとう……。お前が来てくれなかったら、俺……」
「いや……いいよ。本当はもっと早く助けられたんだけど、徹底した証拠を撮ってアイツらを二度と近づかせないようにしようと思ったら、遅れちゃって。ごめんね」
「助けてくれただけでも、本当にありがたいよ……翼」
可愛さと凛々しさが合わさった端正な顔立ち。俺が一番絶望していた暗闇の底に、圧倒的な強さで踏み込み、救い出してくれた絶対的な光。
「翼……好きだ」
極限状態からの解放と安堵。俺の心は完全に、彼女への依存にすり替わっていた。
翼は少し驚いたような表情をした後、聖母のように優しく微笑んだ。
「私も好きだよ……大好き」
俺たちは夜の公園で、どちらからともなく唇を重ねた。
すべてを委ねるような、深くて長いキスだった。
⸻
(やった……ついに、暁人の“心”を手に入れた……)
暁人の背中に腕を回しながら、翼の口角が暗闇の中で釣り上がった。
昨日から、岸辺桃花が暁人を襲っていることは知っていた。
だからこそ、すぐに助けず、暁人の心が完全にへし折れて、誰かにすがりつきたくなるギリギリの瞬間まで「待った」のだ。
私があのタイミングで助けに入れば、暁人にとって私は『絶対的な救世主』になる。
案の定、暁人はボロボロの心で、私に完全に依存してくれた。
これで……もう、暁人は私から逃げられない。
身も、心も……そして、彼を縛り付ける『子供』という最強の材料もある。
悠里さん……空ちゃん……。
(――イタダキマス♡)
勝者の優越感に浸りながら、翼は暁人の唇を、さらに深く貪った。




