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脅され、犯され  作者: ぱぴぷ


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10/16

現在

「空ちゃんの彼氏、相変わらず怖そうだよね〜。ヤンキーって感じ」

「そーかな? 暁人はすっごく優しいんだよ?」

「えー! ウソー! あの無愛想な顔で?」

「ほんとだもん!」


明るく答えながらも、心の奥で小さくチクリと痛みが走る。

暁人は、他の女子と話すときはいつもあんな風に愛想がない。でも、それが逆に怖い。


――もし、私以外の“特別な誰か”にだけ、あんな風に笑うようになったら?

考えたくない。けれど、頭のどこかで想像してしまう。

その想像だけで喉の奥がギリギリと締め付けられ、空は必死に笑顔を作って誤魔化すしかなかった。



夜。

自分の部屋のベッドにうずくまり、空はスマホの画面を食い入るように見つめていた。

トーク画面には、暁人からのたった一言のメッセージ。


『また明日』


ただそれだけ。それでも、何度も画面を開いては、既読の文字を見つめ続ける。


(また明日、ちゃんと私のこと見てくれるかな。私のこと、まだ好きでいてくれてるかな)


不安が押し寄せて眠れない夜は、息を潜めるように彼のSNSを隅々まで覗き込んでしまう。

フォロー欄、タグ付けされた写真、いいねの履歴……。知らない女の子のアカウントを見つけただけで、心臓がバクバクと嫌な音を立てる。


(誰? この子。なんで暁人の投稿にいいねしてるの? 学校の奴? それともバイト先?)


ドス黒い疑問と嫉妬が次々に浮かび、スマホを握る指が白くなる。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。暁人は私だけのモノなのに。



翌朝。

目の下にできた薄いクマをメイクで完璧に隠し、空は暁人を起こしに行った。


「暁人!! 朝だよ! 起きてー!」

「……はぁ……ねむ」

「おはよーー!! ぐっすり寝れたよーだね!」

「まあな」

「ご飯も作ってるから、早く顔洗って!」

「……クソいい匂いするわ」

「でしょー、頑張ったもん」

「毎日助かるわ。空の飯無しじゃ生きてけねーわ」

「ふふっ……」


(ああ、幸せ。ずっとこの朝が続けばいいのに)


一緒に登校する道すがら、暁人がぽつりとこぼす。


「学校だりー」

「うん、だりーね。あのさ……」

「ん?」

「今日、えっちしたいの……いい?」

「あー、いいけど。首元とか、服着ても見える場所にキスマつけんなよ。また騒がれるから」

「努力する!」


空は嬉しそうに笑う。

だけど、笑顔の裏側では(これで今日も、暁人を私に繋ぎ止められるかな)と、必死に不安を押し殺していた。



その日の放課後。

昇降口で靴を履き替える暁人の背中に、明るい声がかかった。


「暁人〜! この前教えてもらったサプリまじ良かった!」

「おー」

「ビタミンB6とかD3とか飲むだけで肌めっちゃ綺麗になったよ! またなんか良いのあったら教えてねー」

「ん、わかった」


軽いやり取り。暁人は無表情で頷いただけだ。

それでも、少し離れた場所で見ていた空の胸は、ズキッと鋭く痛んだ。


(笑ってなかった。でも……あの子、暁人の目を見て笑ってた。暁人に話しかけてた。……嫌だ、嫌だ、殺したい)


手が勝手に震える。でも、怒れない。

ここで感情的になって束縛したら、また暁人に嫌われるかもしれない。「重い」って言われて、捨てられるかもしれない。

だから、我慢する。完璧に笑って、優しく声をかける。


「ねぇ、帰ろ?」

「……ああ」


暁人が振り向いたとき、空の表情はいつも通りの可愛らしい笑顔だった。

けれど、帰り道。暁人がふと立ち止まり、空を見た。


「空」

「ん?」

「お前……我慢してんだろ」

「え……」

「さっきから、顔に出てる」


空は一瞬、息を呑んだ。

図星だった。見透かされていた。少しの沈黙の後、ゆっくりと俯いて呟く。


「……また、振られるのやだもん」

「振らねぇよ」

「ほんとに?」

「まぁ……前みたいに異常に束縛されるのは嫌だけど」

「……」


暁人は小さくため息をつくと、無言で空の小さな手を取った。

そのまま、少しだけ力を込めて握りしめる。


「……でも、お前が無理して辛そうな顔してんのは、もっと嫌だ。もう少し、甘えてもいいぞ」


その瞬間、空の目から張り詰めていた糸が切れたように、静かに涙が落ちた。


「暁人ぉ……ありがと……ぅっ」


暁人が不器用に頭を撫でてやると、空の顔に血の気が戻り、たちまち熱を帯びていく。


「それじゃー、今日からいっぱい甘えちゃうからね!!」

「おう。遠慮はいらねー、かかってこい」


冗談めかして言った暁人だったが、空の顔を見た瞬間、ゾクッと背筋を凍らせた。


「ふーっ♡ はぁっ……ふーーっ♡♡」


空の顔は、完全に発情しきっていた。

瞳はトロンと濁り、半開きの口からは微かにヨダレが光っている。呼吸は荒く、繋いだ手から異常な熱が伝わってくる。


「おい! ここ外だから! 家まで待ってくれ!!」

「えへ♡ あきと、あきとぉ……えへへ♡」


暁人は悟った。


(……これは、明日学校は行けねーわ。俺の体力、持つのか……?)



その日の深夜。

暁人がベッドで泥のように眠る横で、空は机に向かい、日記帳を開いていた。


[今日の暁人はすごく優しかった。もっと甘えてもいいって言ってくれた。でも、学校では恥ずかしいから少し控えてほしいって言われた]


[頑張ろう]


[暁人好き。大好き。今日はいっぱい甘えちゃった。こんなラブラブえっちは久しぶり。幸せ。本当に]


ペンを走らせる音が、静かな部屋に響く。

だが、文字は次第に乱れ、筆圧が強くなっていく。


[でも、心のどこかでは怖い。私が何か間違えたら、また離れていっちゃうんじゃないかって。明日は、もっとちゃんと笑おう。暁人の前では、怖い顔を見せないようにしよう]


[でも……もし、また離れて行っちゃったら――私、どうなるかわかんない]


ペンの先が、紙をガリッと削った。

空は、ベッドで無防備に眠る暁人の愛おしい背中を見つめ、うっとりと微笑んだ。


(たぶん、暁人を殺しちゃう)

ただ殺すんじゃない。

殺した後、暁人を食べちゃう。

そうすれば、暁人は私とずっと一緒。私の胃の中で溶けて、私の血肉になって、細胞の隅々まで永遠に混ざり合うんだ。

暁人のお肉は焼いて食べて、血はワインみたいに飲んで、骨は粉々に砕いてから料理にかけよう。

あ、そうだ。暁人のお肉に、暁人の骨の粉をまぶして食べればいいんだ。

そうすれば、もっと暁人を強く感じられる。

全部食べ終わったら、私も死ぬ。

暁人で満たされたまま、死ぬ。


(あの女には、暁人の髪の毛一本、爪の先すら絶対に渡さない)

全部、全部、ぜんぶ。私のモノ。

空の笑顔は、今日も誰より可愛らしく、完璧だ。

けれどその裏では、「壊れないための必死な我慢」と、「究極の純愛」が、静かに限界点へと向かっていた。

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