第8話:生存計画
これ、使えるかな。
結菜は鉄片を手に取り、白骸の胸甲の縁にある筋肉を切り裂いた。胸甲をこじ開けると、中から拳大の、規則的な菱形六面体をした赤い結晶を掘り出し、朗の前に差し出した。
これは何だ。
朗は驚きを隠せなかった。視覚システムのX線が赤い結晶をスキャンすると、その中に澎湃たるエネルギーが秘められていることが判明した。しかも、そのエネルギーは極めて安定している。
これは、生物エネルギーか。
化学燃料でも核エネルギーでも、ましてや反物質動力でもない。怪物の死体から掘り出された以上、唯一の可能性は生物エネルギーだった。だが、一つの生物の体が、なぜこれほど強力なエネルギーの塊を宿しているというのか。
これは骸獣のエネルギー核だよ。骸獣の力の源なんだ。適合者たちはこれを使って、自分たちのエネルギーや能級を引き上げるんだ。
あんたは機械族でしょ。もともと骸獣と戦うために設計されたはずなのに、どうしてエネルギー核を知らないの。
結菜はエネルギー核を捧げ持ちながら、どこか惜しむような、切ない表情を見せた。
荒野遺民にとって、これほどのエネルギー核は間違いなく巨万の富だ。人間の都市へ行けば、裕福な暮らしを送るのに十分な価値がある。あるいは、本人が望むなら、これを使って遺伝子誘発薬と交換するチャンスさえあった。そうなれば、彼女自身が適合者となり、自らの運命を切り拓き、この過酷な荒野で泥を啜るような生活から脱却できたかもしれない。
これは間違いなく天から与えられた巨大な好機だった。
しかし彼女の脳裏に、つい先ほどこの機械の体が自分を救い出し、自らの体を盾にして守ってくれた情景がよぎった。結菜は葛藤を振り払い、エネルギー核を朗へと手渡した。
この機械の体にはデータストレージがほとんど残っておらず、朗はかつての歴史を読み取ることができなかった。
しかし、自己診断システムの結果は、結菜の言葉が正しいことを示していた。この機体は確かに骸獣との戦闘に従事した経験があり、骸獣のエネルギー核を変換するためのエネルギー変換装置が装備されていたのだ。
朗は全身をスキャンし終えると、そのエネルギー核を胸部右前方にある変換装置へと組み込んだ。
エネルギーの吸収が始まると、朗は驚喜した。機体のエネルギーが、確かな手応えとともに回復を始めたのだ。
5%、10%、15%、20%、30%……。
しかし、エネルギーが30%まで回復したところで、エネルギー核の力は尽き果てた。
もう終わりか。少なすぎる。
この旧式の機体は、エネルギーの吸収効率があまりにも低すぎた。診断によれば、変換の過程で40%ものエネルギーが虚空へと霧散してしまっていた。効率が良ければ、もっと回復できたはずなのだ。
朗の心は血の涙を流した。失われたのは単なるエネルギーではない。それは自分の命そのものなのだ。
わずかばかりのエネルギーを得たことで、朗の思考はより現実的になった。今のこの体は、いわば粗大ゴミのような有様だ。修復すべき箇所があまりにも多すぎる。
微小機械の数は決定的に不足している。作業効率を高め、既存の合金骨格を段階的に置き換えていくためには、より多くの微小機械を生成しなければならない。これは自分の命に関わる、百年にわたる大計として堅持すべき課題だ。
欠落した左腕は戦闘や行動能力に深刻な支障をきたしており、早急な復元が必要だった。
エネルギー貯蔵システムも最悪だ。蓄電能力が低く、刻一刻と自分の命を漏電させている。これも修復を急がねばならない。
エネルギー変換システムにいたっては、40%ものロスを出すなど容認できるものではない。
さらに、自分の外装は剥き出しの機械骨格だ。あまりに醜く、一目で機械族だと知れてしまう。これでは隠密性は皆無であり、今後人間の世界を歩くのにも不都合極まりない。外観の改良も必要だ。
胸部の亀裂、不安定な頭部……直すべきところを数え上げれば切りがなかった。
今のエネルギーでは、到底すべてを賄うことはできない。
朗は苦悩し、葛藤した末、まずは10%のエネルギーをエネルギーシステムのメンテナンスと改造に充てることに決めた。
さらに5%を、エネルギー変換システムのアップグレードに投入する。
これら二つは生存の保証であり、命の源だ。せっかく手に入れた貴重なエネルギーを、これ以上無駄に垂れ流すわけにはいかなかった。
戦闘やその他の面については、今はやむを得ない。目立たぬよう身を潜め(ゴウ)、着実に力を蓄えるのが先決だ。
最終的に残ったエネルギーは18%。決して多くはないが、これからの行動を維持し、突発的な危険に対処するには十分だろう。
ねえ、鉄の塊。大丈夫なの。
朗がエネルギー核を吸収したあと、しばらく沈黙したままなのを見て、結菜は不安になったのか、朗の金属の頭をコンコンと叩いた。
……ああ、少し力が出てきた。おい、叩くのはやめてくれ、首が落ちそうだ。
微小機械が少ないため、改造はすぐには終わらない。朗は焦りを感じつつも、どうすることもできなかった。
少し緩んでるみたいね。釘でも探して、打ち付けて固定してあげようか。
結菜は自分の手際を見せつけようと熱心に提案した。
しかし朗は首を振って断った。
結構だ。……ああ、そうだ。知り合って随分経つのに、まだ君の名前を聞いていなかったな。
朗は身に積もった瓦礫を跳ね除け、地面から立ち上がった。その双眸から二条の光が放たれ、地下空間を一瞬にして照らし出した。
私の名前は冬麦。わあ、ロボットの目は懐中電灯にもなるの。便利ね。……それで、ロボットにも名前があるの。
暗闇に射した光に、冬麦は驚喜した。
生まれてから今日まで、暗闇の中でこれほど鮮明な電気の光を見たのは初めてだった。光の下では、闇に沈んでいたすべてがはっきりと見えた。
神城の中は夜も更けぬほど灯火が輝いているという噂を、彼女は聞いたことがあった。
もちろん名前はある。言っただろう、俺は人間だ。
でもあんたはロボットでしょ。
冬麦は譲らなかった。
ロボットの名前は番号であるべきよ。今日からあんたのことは101(イチマルイチ)って呼ぶわ。
俺は朗だ、人間なんだ。
101。
朗だ。
101。
……。
朗は相手の名を聞いたことを少し後悔した。
目の前に転がっている、青白い肌をした不気味な死体を見つめ、朗は問いかけた。
これが君たちの言う骸獣なのか。
朗が抵抗を諦めたのを見て、冬麦は少し得意げに説明を始めた。
そう、これは骸獣の一種で、白骸っていうの。他にも、閃霊、幻霊、薊葉虫、霧隠獣、刺穿魔、荊棘蚯蚓、地獄獣……いろいろいるけど、一番数が多いのは地獄獣ね。
朗の思考が俄然活発になった。
それらの骸獣には、すべてエネルギー核があるのか。
あるよ。でも、核に含まれるエネルギーの大きさはまちまちだけどね。……あんた、骸獣を狩ってエネルギーを手に入れようとしてるの。
冬麦は聡明だった。すぐに朗の考えを読み取った。
そうだ。君の言う通り、人間が俺を見てろくなことを考えないのなら、骸獣を狩ってエネルギーを得る方が確実だ。
エネルギーを吸収している間、朗はずっと考えていた。現在の自衛能力は極めて低い。冬麦の情報に基づけば、不用意に人間の居住地へ入り込むのは死を早めるだけだ。
ならば、骸獣を狩る方が理にかなっている。姿を隠し、しばらくの間、力を蓄えればいい。自分には微小機械がある。時間をかければ、より強力に進化できるはずだ。
究極的には、自分自身を完全に微小機械の集合体へと進化させることも不可能ではない。ひとたびそうなれば、もはや不死身の存在だ。そうなれば、いつか再び人間に出会ったとしても、あるいは冬麦の言う強力な適合者に出会ったとしても、堂々と渡り合えるようになるだろう。




