003 不穏の闇、一縷の光
田中さんが出ていった後、貰ったスマホで改めて3.8災害について調べた。
写真や映像は数こそ少ないがネットに上がっていたし、テレビの密着取材もあった。
特に災害直後の様子は異常。街やインフラには何もおかしな様子はないのに、たくさんの人が倒れている。外傷もない。
しかし、大半は亡くなっている。
故郷、新潟県の写真も見た。
原発から離れた地域はなんともないようだが
災害の中心地なんかは電気すら通っておらず、人通りはなく閑散としておりもはや別世界のようだった。
人がいなくなった街には、周囲に隠れていた動物がたむろし始めており、人がいなくなった地域の田畑などは荒らされ、人がいなくなった地域からやってきた動物に襲われた例も少なくないらしい。
当時新潟にいた家族たちは無事だろうか。
いや、こんなことになっては日本中どこにいても危ない。どこかで動物や魔物に襲われていてもおかしくない。
両親、姉、弟、爺ちゃんの顔が浮かんで来る。
田中さんに貸してもらっている携帯はあるが、両親や兄弟の連絡先をわざわざ覚えている訳でもないので、未だに俺は音信不通。
実際にできるかは分からないけど、田中さんづてにスマホ通信会社から何とかしてもらえるかもしれないと思ったが、田中さんも見るからに多忙である。早くて数日から1週間はおそらくかかるのではないだろうか。
目覚めてばかりで戸惑いばかりだったが、今の状況を理解すればするほどに、だんだんと家族の安否が心配になってくる。
近年、増加していた異常気象に振り回されながらも工夫して米や野菜を育てて商売にして、懸命に俺達を育ててくれた父、風馬と母、日奈子。
いい加減な態度で無理やりパシってくるけど、家族を一番に考えていた姉、紅音。
とても人懐っこく、家族で一番俺を慕ってくれていた弟、氷牙。
元気いっぱいで衰えを知らない身体能力を持つ祖父、風斎。
みんなかけがえのない家族だ。
ふと、鏡に写った自分の姿が頭によぎる。
俺は無事生き延びることはできたが、自分の姿は変わり果て、角が生えて体格も顔も変わり昔の姿など見る影もない。そんな俺を見て家族はどう思うのだろうか。俺が五十嵐颯だと信じてもらえないかもしれない。
そもそも、家族みんな生きているのだろうか。
もしかしたら寝ている間にみんなはこの世を去っているのではないだろうか。
不安や心配がどんどん積もってくる。
そんなとき、山崎さんがやってきた。
「よぉ〜五十嵐くん調子はどーだい?」
「っ………」
言われて思わずギクッとした。一瞬、怪訝な顔になりかけたが山崎さんにバレないように必死に隠す。
「今のところ……変なところはありません」
「……そう。じゃ、これから昼の診察始めるで」
山崎さんがやってくるのは朝、昼、夜の3回。
少し多いのかもしれないが覚醒者になにか変化があったときのために少しでもデータを取っておきたいんだとか。
俺は山崎さんに家族のことを聞こうとした。
「山崎さん。」
「ん?、なんや?」
「……やっぱり、なんでもないです。」
「ふーん……。そうか、無理はすんなよ」
そう言って山崎さんは何も聞かずに出ていった。
山崎さんに返事をされたとき、急に返事が怖くなった。
家族が誰も居ないと言われるときのことを考えると怖くて耐えられる気がしなかった。
勇気を出して聞くことはできなかったが時間が何とかしてくれるだろうと思った。
しばらく経ってもこのマイナスな感情が無くならなかった。むしろ時間が経つ度に酷くなっていく。
気を紛らわせようと何度も本を読んだりスマホをいじったりもしたが全くもって意味をなさなかった。
そんなこんなでいつの間にか夕方にまでなっていた。
その頃には俺はもう不安や心配で潰れそうな気持ちになっていた。
すると、廊下から何やら騒がしい音が聞こえた。
次の瞬間、勢いよく扉が開くと、見覚えしかない二人が立っていた。
「兄さん!!!」「ハヤテ!!!」
「えっ...!!? ヒョウ....!? 姉さん....!?」
二人は俺の弟、氷牙と姉、紅音だった。
「おい、お前…颯、なの……か…?」
「にい、さん……なの?」
氷牙と紅音が不安気に問う。
顔を見られてしまった。怖い。答えるのが怖い。言葉を返すのが怖い。拒絶されるのが怖い。でも、会いたかった家族に思わず声を出さずには居られなかった。
「ただいま、ヒョウ。姉さん。」
気付かぬうちに目頭から涙が零れていた。




