002 三日見ぬ間の桜はすぐに散る
一昨日、目が覚めて自分が鬼になったと知り、監視としてきた田中隆之介さんの紹介が終わったあと、まだ疲れていたようでそのまま寝てしまった。
昨日は昨日で朝に目が覚めてから健康診断などの検査漬け。今のところ、人間としては体に異常はなかったようだ。鬼になったと思ったが内蔵など基本的な構造は人間と大差ないのでどちらかといえば鬼人という表現の方が近いそうだ。並外れた人外にならなくて良かった。ちなみに角は動物同様に頭蓋骨から生えた骨らしい。
そして今日、ようやく暇な時間ができた。
"そういえば眠ってた4ヶ月のこと話してもらう予定だっけ?"
ふと思い出したので近くにいた山崎さんに聞いてみると
「ハッ!………ごめーん☆、一昨日すぐに、五十嵐くん寝ちゃったし忘れてた☆」
謎の間があった。加えて目線は合わないし、一瞬、嫌そうな雰囲気を感じた。
「今、一瞬面倒だなとか思いましたよねぇ、ねぇ?」
「エー、ソンナコトナイヨー、でも私いちおー他に仕事あるし田中どうせ暇なんやから教えといてー、よろ〜」
と言って、山崎は田中さんに手を振りながら早歩きで出ていった。
「えっ!?、ちょっっっ、山崎マッ……逃げやがったあいつ。まぁ…暇だし教えてやるよ」
田中さんは渋々受けてくれた。
「あっ…ありがとうございます」
優しい田中さんに思わず笑みが零れそうになった。
田中さんは手元にあるタブレットを使ってニュース記事を見せながら教えてくれた。
「まず、3月8日に発生した災害、通称3.8災害は、世界各地の原子力発電所周辺や一部の山林、寺社などで同時多発的に起こった。これは偶発的な事故ではなく、広範囲にわたる同時発生だった。
国内では約180万人が被害を受け、多くの人々が医療機関に殺到した。そのうち約30万人に全身の痛みや痙攣といった重度の症状が見られ、約50万人には吐き気やめまいなどの軽度の症状が確認された。これら80万人は時間をかけて療養し、最終的には社会復帰を果たしている。
しかし一方で、自力で動けない被災者も多数存在した。自衛隊が全国各地に出動し救助活動を行いつつ、災害によって医療がひっ迫している地域の医療体制を整えたものの、災害直後に原因不明のショック死を遂げた人が多く、結果として残りの約100万人の命を救うことはできなかった。
また、災害当時には「紫の稲妻」の目撃や「雷鳴」聞いたという証言が相次いだ。亡くなった人々の位置情報や目撃証言の分布を照合した結果、それに直撃されながら生存している可能性があるのは、お前らだけだと推測されている。一応聞くが紫の稲妻は見て食らったか?」
紫の雷の波を思い出しながら答える。
「はい」
「そうか、お前のように「紫の稲妻」から生還し、常人とは異なる変化を遂げた者たちを、政府は「覚醒者」と呼んでいる。
さらに、ここ1か月の間に、冷気を放つ熊、火を吹く猪、さらにはゴブリンのような存在など、現実とは思えない生物の目撃情報が各地で何回か報告されている。我々はそれらを、創作物になぞらえて「魔物」と呼称している。これらの存在は、いわゆる“魔法”のような力を行使している可能性が高いと考えられている。
そして、立ち入りが事実上禁止されている災害現場の調査により、地球上から原子力発電に伴う中性子線が完全に消滅していることが確認された。同時に、今回の事故で原子力発電所で熱暴走した形跡がなかった。このことから本来核分裂によって生じるはずのエネルギーが消失していることが推測されている。その消えたエネルギーこそが魔法の動力源、いわゆる“魔力”の源であると仮定すれば、一連の現象は理論上説明がつく。
そうした中、覚醒者の第一号が実際に魔法を発現させることに成功した。
この事実をもって、魔法に目覚める可能性がある者──すなわちお前ら「覚醒者」の監視が決まった。
ちなみに覚醒者はもう既に全員見つかっていて、お前含め15人程だ。そんで目覚めたのはお前で4人目ってとこだ。
後半の「覚醒者」「魔力の源」に関しては世間一般にはまだ公表してない内容だから絶対に口外しないように。ってこんな状況で言いふらす相手もいないか……」
「…………」
「おい、どうした?大丈夫か?」
「……っ!大丈夫です大丈夫です!!ただ、内容はわかっても、理性では正しいとわかっていても、簡単にはなかなか受け入れられなくて……」
正直、何も知らずに聞くと荒唐無稽な話しでしかないがあんな経験をした手前、真実であることはほぼ確実であった。故にあまりの情報にただただ驚きが隠せなかった。
「んあーっ、まぁそこは直に慣れるだろ。俺がそうだったし。とりあえずこんなとこでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
「おう、あとお前身長いくつだ?」
急になんの脈絡もなく聞いてきた。
「えっと、昨日測ったら176cm+角でした」
「わかった。スーツとそれなりの服を見繕って置く」
「ありがとうございます。でも、なんでスーツなんか?」
「退院したら防衛省行くぞ」
「えっ、」
"は!?どういうこと!?"
俺が動揺している中、既に田中さんは出ていく支度を始めている。
「覚醒者にとある研究に関して話がしたいという要望が上から来てな。あとこれ電話。パスワードは312853。しばらく貸す、俺の連絡先が入ってるからなにかあったらかけろ。明日、お前を迎えに来るから準備…は特にないか……覚悟はしとけ。時間はまた連絡する。んじゃまたな」
「えっちょっまっt.......」
田中さんは早口で言うことだけ言ってそそくさと出ていってしまった。
さすがにここまでくると急な状況の変化に抗うことはやめて流れに身を任せることにした。
"あとなんでこんなパスワードになってんだよ!嫌なことでもあったのかよ!気になるわ!"
目が覚めてからで一番の謎であった。
補足
0話のニュースで被害者は5000人と表現しましたが、あれは緊急速報時点での確認が取れている人数です。
病院の調査や自衛隊による救助、遺体の回収をして最終的に80万の生存者と100万の死者が確認されました。ニュース速報で5000人の被害者の時点で情報収集はかなり早い方です。(知らんけど多分)




