私、アイドル、大切なことは猫に学びました
【アイドル】
1.偶像。あこがれの対象。
2.歌やダンスなどで人気を博す芸能人。
3.賞味期限付きの、未熟な演者。
*
コンシーラーのチップを肌に押し当てる。高価なファンデーションでも隠しきれないクマを、無かったことにするために。
楽屋の無機質なLED照明は残酷だ。二十四歳になった私の肌のアラを、まるで顕微鏡のように暴き立ててくる。
鏡の中の女が、完璧な角度で微笑んだ。
「……よし」
声に出して確認する。大丈夫、今日も私は「可愛い」。
けれど、鏡から目を逸らした瞬間、その自信は魔法が解けたように消え失せる。指先が震え、私はまた無意識にスマホの検索窓に自分の名前を打ち込んでいた。
「今日は、大丈夫か」
ぽつりと漏れた独り言は、乾燥した楽屋に響く加湿器の駆動音に吸い込まれて消えた。
国民的アイドルグループの一員。肩書きは立派だ。けれど、私は人気メンバーというほどのものではない。選抜と呼ばれる一軍に入ることもあれば、落ちることもある。
代えの利くパーツ。
特にここ最近は、勢いのある後輩たちに押し出されるようにして、照明の当たらない場所へと追いやられている。
歌声はユニゾンの厚みを増すための素材。ダンスは振付師の劣化コピー。
私のお仕事は、「推し」であること。
顔は、まあ、可愛いほうだと思う。小さい頃から「お人形さんみたい」と親戚中にチヤホヤされてきたし、そこそこの倍率のオーディションだって勝ち抜いた。
でも、芸能界という魔境に足を踏み入れて、思い知らされたのだ。
上には上がいる、という残酷な真実を。
近くにいるだけで肌が粟立つような、圧倒的な「美」。
息をするように人を惹きつける、暴力的なまでの「才能」。
そんな怪物が、同じ楽屋で平然とプロテインを飲んでいる。
じゃあ、私は?
ファンのみんなは、私の何に金を払っている?
歌やダンスじゃない。求められているのは「存在」そのものだ。
私の笑顔、成長の物語、人格、メンバーとの関係性。そういった「物語」に、彼らはおカネを投じている。
二十四歳。
アイドルとしては、決して若くない年齢だ。
十八歳でこの世界に飛び込んだときは、受験に奔走する同級生たちを横目に、少しだけ優越感に浸っていた。「私は特別だ」と。
実際には、来る日も来る日もレッスンスタジオに籠もっていただけで、仕事なんてほとんどなかったくせに。ひと足先に「業界」に入ったというだけで、自分が何者かになれたような気がしていた。
それが、どうだ。
先日、久しぶりに会った友人たちは、まるで異国の言葉を話していた。
話題の中心は、もっぱら仕事のこと。
初めて後輩ができたことへの戸惑い、任される業務が増えたことへの愚痴、あるいは同期との昇進の差。
口では「大変だ」「辞めたい」とこぼしながらも、その表情には社会の歯車として噛み合い始めた人間特有の、確かな自信が滲んでいた。
彼女たちが着実に職能を磨き、社会人としての地盤を固めつつあった六年間、私は何を積み上げたのだろう?
バラエティで角の立たないコメントを残す瞬発力? お金にはならない程度の歌唱力やダンス?
私には何もない。
賞味期限の迫った「ルックス」と、人生を切り売りして得たファンのみんな以外、なにも。
収録を終え、六本木の交差点を歩く。
ビル風がコートの隙間から入り込み、冷え切った胃の腑を撫でる。
仕事が嫌いなわけじゃない。ブログを書けば温かいメッセージが届くし、熱気に包まれたステージ、田舎の星空すらも上回るサイリウムたち、何物にも代えがたい極上の快感だ。
でも、この仕事が永遠じゃないことも分かっている。
私に残された武器は、この顔と、若さだけ。
正直に言えば、この「ルックス」という資産価値が暴落する前に、ハイスペックな男性と結婚して人生を上がりにしてしまいたい、なんて黒い本音もある。
けれど、そんな生き方も私には選べない。
グループに迷惑をかけられないから、卒業まで恋愛もご法度だ。そんなクソ真面目な足枷が、私をこの場所に縛り付けている。
「卒業したら、どうなるんだろう……」
白い吐息が、夜の闇に溶けていく。
アイドルという肩書きがなくなった私に、興味を持ってくれる人間なんてこの世にいるのだろうか。
ファンが多いんだから選び放題でしょ、なんて言う人もいるかもしれない。
だが、それは大いなる勘違いだ。加工アプリで盛った自撮りと、寝起きのすっぴん他撮りくらい違う。
ファンのみんなが恋しているのは「アイドルである私」であって、実像の私じゃない。
誰一人として、本当の私を知らないのだ。
以前、偉大な先輩が言っていた言葉を思い出す。
『付き合うなら、私のことを知らない人がいいわ』
当時は「なりたい顔ランキング一位の人が何を言ってるんだ」と呆れたものだが、今なら痛いほど分かる。
アイドルじゃない、ただの私を見てくれる人。そんな存在が、何よりもかけがえがないことを。
視線の先を、上品なマダムがペットカートを押しながら歩いていた。中にはふわふわの毛玉のような小型犬が鎮座している。
あれは散歩になっているのだろうか。
あの犬は、自分の「犬生」に不安を覚えたりするのだろうか。
しないだろうな。
だって、一生金持ちのマダムに飼われ、不自由なく暮らすことが約束されているのだから。
「ペットはいいな。悩みがなさそうで」
声に出した瞬間、心臓の奥がちくりと痛んだ。
私は気を取り直し、街のイルミネーションを背景に自撮りをした。SNSにアップするための、「充実した私」の証拠写真。
家に帰り、風呂に入り、ブログを更新する。ファンへの感謝と、明日の告知。嘘ではないけれど、本音でもない言葉たち。
ベッドに潜り込むと、またあの黒い感情が胸を押しつぶしに来る。
誰かに無条件で愛されて、ただそこにいるだけで許される。
そんな存在になれたら、どれほど楽だろうか。
あぁ、この不安がなくなればいいのに、なんて願いながら、私は深い眠りに落ちていった。
*
【猫】
1.食肉目ネコ科の哺乳類。
2.古くから愛玩動物として飼育される。
3.人間に媚びずとも愛される、生まれながらのスター。
*
違和感は、視線の低さから始まった。
目覚めた瞬間、世界が、やけに大きい。
起き上がろうとして、腕に力が入らない。重心がおかしい。
視界の端に映る白い塊。動かそうとすると、その「クリームパン」みたいな前足も連動して動いた。
「にゃ?」
声を出そうとして、喉の奥から間の抜けた音が漏れた。
鏡を見るまでもない。全身を覆う毛皮の熱気。鼻先をくすぐるカーペットの埃の匂い。
隣の部屋の目覚まし時計の音が、鼓膜を直接叩くように響いてくる。
待って、なにこれ。どういうこと!?
私はパニックになり、助けを求めて叫んだ。
「にゃー! にゃー! にゃーーー!!(えー! ちょっと、どうなってんのーー!?)」
戸惑いのあまり大声を出して騒いでいると、ベッドの上から気だるげな声が降ってきた。
「んん……なあに、ミイちゃん。そんな可愛い声出しちゃってぇ……ご飯? んもう、可愛いねぇ」
視界を覆う巨大な顔。見知らぬ女性が、だらしない笑顔で私を見下ろしている。
二十代後半。すっぴんの、生活感に溢れた顔だが、私を見る目だけは溶けそうに甘い。
彼女が私の飼い主らしい。私の必死の叫びは、ただの空腹の訴えとして処理されてしまったようだ。
パニックになるべき場面。でも、不思議と心は凪いでいた。思考よりも、本能が勝っている。
言われてみれば、猛烈にお腹が減っているような気がする。
どうやら私は、猫になってしまったらしい。
彼女がキッチンへ向かう。その後ろ姿を、私は自然と追いかけていた。しなやかな四足歩行。悪くない。
皿に出されたのは、カリカリのドライフード。
え、これ? ちょっと嫌だな。
私が鼻を背けると、彼女は苦笑して、棚から細長い袋を取り出した。
封を切った瞬間、強烈に食欲をそそる匂いが漂う。とろりとしたペースト状の何か。
いや、待って。私はアイドルよ? そんな、猫用のエサを――。
気がつくと、私は夢中で袋の切り口に舌を這わせていた。
美味い。なんだこれ。舌が触れた瞬間、理性が弾け飛んだ。マグロとカツオの旨味が、脳髄を直接揺さぶる。
人間のプライド? 知ったことか。私は猫だ。
この誘惑に抗える猫がいるなら教えてほしい。
お腹が満たされると、急激に冷静さが戻ってきた。
鏡に映る自分の姿をまじまじと見る。
どこからどう見ても猫だ。
戻る方法は……皆目検討もつかない。
どうしよう?
まぁ、なんとかにゃるか。
飼い主は悪い人じゃなさそうだし。
猫の生活。
どうなることかと思ったが、これが存外、悪くなかった。
いや、訂正しよう。めちゃくちゃ良かった。
仕事に行かなくていい。愛想笑いをしなくていい。
机の上のペンを見れば、「これを落としたらどうなるんだろう?」という純粋な好奇心だけで突き落とす。分かっているのにやってしまう。
高いところに登っては降り、喉が乾けば水を飲み、お腹が減れば鳴いて人間を動かす。
時たま、飼い主の女性(彼女はOLをしているようだ)がお腹に顔を埋めてくるのがちょっぴり嫌だが、まあ、衣食住を提供してくれているスポンサーだ。我慢して受け入れてやる。
そういえば、猫もアイドルみたいなものだな、と思う。
ビジュアルだけで選ばれて、性格なんて一緒に暮らすまで分からない。
可愛がられて、野生の自由はないが、見方を変えれば奴隷が全てやってくれるみたいなものだ。
ただ、一つだけ決定的に違う点がある。
猫は媚びない。自分を偽らない。
やりたいことをやり、寝たい時に寝る。それでいて、自分は愛されて当然だという根拠のない自信に満ち溢れている。
ファンの期待という型に、必死になって自分を押し込めようとしている私とは大違いだ。
なるほど。猫はアイドルなんかじゃない。
自分の周りに世界を回らせる、生粋のスターだ。
ある夜。
彼女が帰宅すると、部屋の空気が重かった。
コンビニの袋を雑にテーブルに置き、彼女はソファに沈み込む。
テレビをつけると、歌番組が流れていた。
画面の中で、キラキラした衣装を着て歌って踊る女の子たち。
あ、私だ。
正確には、猫になる前の私を含むグループだ。収録済みの映像だろう。
画面の中の私は、完璧な笑顔を振りまいている。不安なんて微塵も感じさせない、プロのアイドルスマイル。
その笑顔が、今はひどく遠いものに見えた。
「……いいなぁ」
缶ビールのプルタブを開けながら、彼女がぽつりと漏らした。
「あーあ、アイドルは輝いてるなぁ」
彼女の目から、光るものが落ちた。
「私なんて……もう、おばさんだよ。仕事もできないし、結婚できるかも分かんないし……あんたたちみたいに、笑ってられないんだよ……」
どうやら仕事でミスをしたらしい。さらに、さっきの電話の内容から察するに、付き合っている彼氏ともうまくいっていないようだ。
『結婚したら、仕事はセーブするよ』
そう言って電話を切った彼女の声は、どこか投げやりだった。
彼氏に依存して、守ってもらう人生。それは楽かもしれない。
でも、もし何かあったら? その時、彼女には何が残る?
問いかけられた言葉が、鋭い棘となって胸に突き刺さる。
画面の中の笑顔の裏で、私も毎晩同じ問いを繰り返しているからだ。
若さと愛嬌を切り売りして、消費されて、その先に何が残るんだろう。
ねえ、お姉さん。私たちは似た者同士だよ。
あなたが見ているキラキラしたアイドルも、本当はあなたと同じ、将来に怯えるただの女の子なんだよ。
伝えたい言葉はたくさんあった。でも、口から出るのは「にゃーん」という、間の抜けた鳴き声だけ。
彼女が、顔を覆って泣き出した。
肩が小さく震えている。
私は、そろりと彼女の膝に乗った。
普段なら鬱陶しがって逃げ出すところだ。でも、今はそうすべきだと、猫の本能が告げていた。
彼女の冷たい手に、温かいお腹を押し付ける。
「……ミイちゃん?」
彼女が鼻をすすりながら、私の背中を撫でる。その手は震えていて、でも温かかった。
ゴロゴロ、と喉が勝手に鳴る。
大丈夫だよ。ここにいるよ。生きてるだけで、温かいよ。
そんなメッセージが伝わったのか、彼女は私を強く抱きしめて、声を上げて泣いた。
彼女の涙が、毛並みを濡らす。
その熱を感じながら、不思議な充足感に包まれていた。
アイドルとしてステージに立っていた時は、こんな風に誰かの体温を直接感じることはなかった。
「見られる」ことではなく、ただ「傍にいる」ことで、誰かを救えるなんて。
皮肉な話だ。猫になって、言葉を失って、ようやく私は本当の意味で「誰かのために」なれた気がした。
*
【私】
1.一人称。自分自身を指す言葉。
2.個人。公に対する私的な領域。
3.誰かのための虚像ではなく、今を生きる一人の人間。
*
それから、数年が経った。
彼女は会社を辞め、結婚した。
幸せそうな時期もあった。けれど、それは長くは続かなかった。
旦那の浮気が発覚し、あっけなく離婚することになったのだ。
数年のブランクを抱えた、三十過ぎの独り身。
普通なら絶望するところだろう。けれど、彼女は強かった。
「大丈夫。私にはミイちゃんがいるし」
泣き腫らした目でそう笑うと、彼女はすぐに就職活動を始めた。
最初は苦戦していたが、決して諦めなかった。資格を取り、面接に通い、やがて小さな会社だが正社員の座を勝ち取ったのだ。
生活は質素になった。高い化粧品も、ブランドの服もなくなった。
私のチュールも、特売の安いおやつに変わった。
けれど、彼女の顔つきは以前よりもずっと晴れやかだった。
誰かに依存するのではなく、自分の足で立ち、自分の人生をコントロールしている。
その姿は、どんな着飾ったアイドルよりも輝いて見えた。
「なんとかなるもんだね」
彼女が笑って、私を撫でる。
今に集中して、やるべきことをやる。そうすれば、道は拓ける。
勇気をもらったのは、私のほうだった。
じゃあ、私は?
このまま猫として、安全な場所から彼女を見守り続けるのか?
画面の中の虚像ではない、本当の「私」の人生はどうするんだ?
猫になってからは、不思議と恐怖がなかった。
何が変わったのだろうか?
いや、ただ眠り、餌をねだり、気まぐれに喉を鳴らしただけだ。
それなのに、彼女は勝手に私に癒やされ、涙を流して感謝した。
ずっと、将来が怖かった。
「若さ」という価値が失われたら、私には何も残らないと思っていた。
だから必死に取り繕って、未来のために「今」をすり減らしていた。
でも、猫を、猫様を見てみろ。
私は、私たちは明日のご飯の心配なんてしていない。
ただ陽だまりの中でまどろみ、今この瞬間の温かさを全身で味わっている。
その曇りのない「生」の輝きが、人の心を惹きつけるのだ。
未来なんて、誰にも分からない。
大事なのは、今、私がここで息をして、生きていること。
媚びる必要も、偽る必要もない。
私はただ、私として、今を精一杯生きればいい。
そう腹落ちした瞬間、憑き物が落ちたように心が軽くなった。
まぁ、難しいことは明日考えればいいか。
今はただ、この温もりの中で眠ろう。
明日は、チュールが食べられるといいな。
そんなことを考えながら、私は深い眠りに落ちていった。
*
「にゃーん(お腹すいたー)」
いつものように、甘えた声で鳴いてみる。
そろそろご飯の時間だ。飼い主が、美味しい缶詰を持って飛んでくるはず。
……あれ?
いつまで経っても、誰も来ない。部屋が静かすぎる。
目を開けると、そこは見慣れた天井だった。
自分の部屋だ。手を見ると、人間の手だ。細くて白い、私の手。
スマホの日付は、あの日から一日しか経っていなかった。
随分リアルな夢だった。
でも、身体の芯に残る、あの温かい充足感は幻じゃない。
仕事へ向かう途中、路地裏で野良猫と目が合った。
「にゃー?(おはよう、調子はどう?)」
ふざけて話しかけてみる。
猫は「あ?」という顔で私を一瞥し、興味なさそうに欠伸をして去っていった。
当然だ。今の私は、ただの人間なのだから。
でも、その塩対応が、今の私には心地よかった。
スタジオに入り、ひな壇に座る。
今日の収録は、若手アイドルのプライベートに迫るというテーマだ。
MCの芸人さんが、私に話を振ってきた。
「美弥ちゃんはなんか、最近ハマってることとか特技とかあるの?」
来た。いつものテンプレートな質問。
以前の私なら、台本通りに「最近はASMRにハマってて〜」とか、あるいは「料理教室に通い始めました!」なんて、家庭的な一面をアピールする嘘をついていただろう。
ファンの期待に応える、正解の回答。
一瞬、その「正解」が脳裏をよぎる。
でも、次の瞬間、強烈な睡魔が襲ってきた。昨夜、久しぶりの人間のベッドが気持ちよすぎて、二度寝してしまったのだ。
あー、眠い。
照明が温かい。
「……日向ぼっこ、ですかね」
口から出たのは、飾り気のない本音だった。
スタジオが一瞬、静まり返る。
マネージャーが青ざめるのが視界の端で見えた。「料理教室」という設定はどうした、と目で訴えている。
「ひ、日向ぼっこ? また随分と地味やなぁ。おばあちゃんか!」
MCが慌ててツッコミを入れる。
いつもならここで、「違いますよ〜!」と可愛く否定して、場を盛り上げるのがアイドルの仕事だ。
でも、今の私は、否定する気力さえ湧かなかった。
だって、本当に気持ちいいんだもん。
「ふふ、そうかも」
私はカメラに向かって、力の抜けた、とろけるような笑顔を見せた。
演技じゃない。
「どう見られるか」なんて計算は一切ない、ただ今この瞬間、スタジオの照明を太陽みたいに心地いいと感じている、その喜びだけの笑顔。
その瞬間、スタジオの空気がふわりと緩んだ。
「……なんか、ええ顔するなぁ」
MCが、素で感心したように呟いた。
* * *
収録後、楽屋に戻った私は、スマホを手に取った。
エゴサーチ。
TLには、今日の収録の感想が溢れているはずだ。
『美弥ちゃん、今日なんか違くない?』
『やる気あんのかw』
『でも最後の笑顔、めっちゃ癒やされた』
『なんか憑き物落ちた感じ』
『放送事故スレスレだけど、俺は好き』
賛否両論。
「プロ失格」という辛辣な言葉もある。
以前の私なら、この一つの悪口で、一週間は落ち込んでいただろう。
「にゃーん(知るかよ)」
私はスマホをソファに放り投げた。
全員に好かれるなんて無理だ。
チュール(高評価)をくれる人もいれば、水をかけてくる人もいる。それが世界だ。
いちいち気にしてたら、毛が抜ける。
「さてと」
私は大きく伸びをして、つなげたパイプ椅子の上で丸くなった。
次の出番まで、あと三十分。
今の私には、将来の不安を数えるよりも、大切な仕事がある。
おやすみなさい。
私は目を閉じ、泥のような眠りへと落ちていった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
猫のように「今」を生きる。
言葉にするのは簡単ですが、私たち人間にはなかなか難しいことです。
でも、ふとした瞬間に肩の力を抜いて、「ま、いっか」と呟いてみる。
そんな「猫の時間」を持つことが、明日を生きる活力になるのかもしれません。
一ミリでも共感していただけたり、面白かったと思っていただけたのであれば
下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に評価していただけると嬉しいです。
(チュールを貰った猫のように喜びます)
他にも現代ダンジョン系の作品も公開しておりますので、ぜひご覧ください(1章完結:約10万文字を予約投稿済みです)。




