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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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音葉エンド

 君の手を引いて走り出してから、数年後。


「まーじで副社長には顔が上がらないよなぁ……。あれだけの中小企業を買収して、ホテル業界のトップにするなんて……。これで社員たちはみんな給料アップするしさ……」


 金城ホテルの本社にて、僕の話をしている者がいた。


 音葉を選んだ僕は、高校をまだ在学中に彼女のお父さんに挨拶に行くことがあった。金城ホテルは代々、社長は金城の人間で続いているらしく、なぜかその次期社長の座に僕を任命してくれた。急なことでびっくりした。


 家族経営であることは知ってはいたが、なんというか、早まりすぎているのではないかと思う。音葉は自分で、『みんなウチに甘すぎる』からと、ずっと幸せに生きているならそれでいいという考えのもと、そう決まったらしい。普通こういうのって音葉本人がやるべきことだとは思う。


 高校を卒業した後は、すぐに金城ホテルの本社で働くことが決定し、コツコツと仕事をしていた。……コツコツではないか。普通の人間からすれば、おそらく一気に十人分の仕事を一人で回していたと思う。その成果が出たのか、新人という扱いではなく、完全に仕事のできる存在になってしまった。


 本社にとっては、というより本社で働いている人にとって、僕はなくてはならない存在に上り詰めていった。仕事を辞めようと思えば辞められたかもしれない。しかし社長や社員が辞めさせるわけにはいかないと止めてくる。そんな関係性にまで発展した。


 社長は自分の娘が連れてきた男である僕をえらく気に入り、たまに食事に行くことがあった。ちゃんと家族全員で食事をしたこともあったし、僕と音葉と社長と奥様での四人で食事をする時もあった。二人とも僕をお気に入りだと言ってくれてとても嬉しかったのを覚えている。


 その後、数年経ってから僕と音葉は結婚した。当然のことだが、その情報が会社内で広まらないわけがない。話題に上がったことはあったが、驚かれたことはなかったような気がする。そもそも僕と音葉が会社内でイチャイチャしてたところを見られているため、逆に今さらかよ、と言われた。


 しかし祝福してくれたことは、素直に嬉しい。これで僕も金城家の一員となり、音葉とは家族となったのだ。


「まだ二十代だぜ? 俺よりも年下とか、自分がどれだけ無能なのか分かるわぁ〜……。はぁ〜……」

「落ち込むなって。副社長が特殊なだけだろ。あんなハイスペック人間、どうやったら生まれてくんだろうな」


 まだ僕の話をしている。二人の男性社員は、右手に缶コーヒーを持ちつつ、しゃべっているらしい。


「ま、あれは次期社長確定だろうな。社長の娘さんともゴールインしたみたいだし、演出完璧すぎるよな」

「出来レースって感じもするけどな」

「言えてる」

「それは違うよ、二人とも」


 ある女性が、二人の会話を阻んだ。僕はこの声を何度も聞いたことがある。大好きな声だ。


「お、音葉お嬢さん……」

「今日もお美しい……」

「二人とも」

「「は、はい! なんでしょうか!?」」


 音葉はゆっくりと息を吸って、そして言葉を放った。


「ウチの愛しい旦那さんのことを悪く言わないで! よく思ってないようだけど! 出来レースだと思ってるかもだけど! 多分、ウチと関係がなくっても、ちゃんと仕事して昇格して、今の座についてる……。ウチはそう思う!」


 えっへん、と自信げに言った。言ってやった感がすごい。


「だから! ウチの旦那さんのこと悪く言わないで! 次そんなことしたら、パパに言ってやるから……」


 男性社員二人は速攻で頭を下げて、その場を離れた。


「フン! イジワルな社員さん! サイッテー!」

「お、音葉……。ちょっとやりすぎなんじゃないかな……」

「全然やりすぎなんかじゃないよ! もうー! あなたはいつもそうやって……。って、え!? なんでいるのー!?」

「いや、さっきからずっと近くで聞いてたんだけど……。流石にあれは……」


 ま、まあ、僕のことを大切に思っていることがわかって、少し嬉しい気持ちではあるから、いいんだけど……。


 音葉は顔を覆い、僕から顔を背ける。隠そうとしているのが分かってしまう。恥ずかしいのだろう。


「ありがとう、音葉」

「ふぇっ!?」

「僕のことを大切にしてくれて、僕を好きでいてくれて。ムキになってたのも全部僕のためなんでしょ?」

「べ、別にムキになってたわけじゃ……」

「本当?」

「ム、ムキになってたかも……」


 音葉を優しく抱きしめた。彼女は一瞬のことであったためか、状況を把握できておらず、自分が何をされているのか全く理解していないようだった。しかし直感的に心地の良さを感じているのか、抱きしめた僕に応じるように、自らも相手の背中に手を回してきた。


 ぎゅっと。離れたくないかのような、感覚だった。



 ****



 家に帰ってきた。


 ここで言う、家というものは、音葉の実家のことである。恋人としての関係だった頃や、同棲を始めようとしていた頃に、音葉のお父さんであるうちの社長や、その他の家族に『ここで暮らせ』と言ってくれたのだ(半強制的に)。


「ただいま」


 音葉がソファの上でゴロリとくつろいでいた。時間は夜の八時ごろ。ちょうどご飯を食べ終わって、しばらくの休憩時間なのだと思う。


「ただいま……音、葉……?」


 スゥスゥ、という寝息が聞こえてきた。お腹も膨れていい感じに眠たくなったのだな、と僕は判断した。テレビを付けっぱなしにしているということは、途中まではダラダラと視聴していたに違いない。そして限界がきて、そのまま寝落ちという形か。


 近寄ってみる。現在音葉が横になって眠っているソファは高級なもの。グレーのフカフカなソファである。どこで作られたのかは知らないけれど、とにかく音葉自身が高級な物だと主張していたから、多分そうだと思う。


 そんなソファで眠っているというこの状況。起こしてはいけないな。


「おやすみ、音葉。ぐっすり眠ってね」


 彼女の顔をジーッと見てから、気が済んでようやく立ちあがろうとした。立ちあがろうとしたのだ。


「んぅ……!」

「えっ……?」


 スーツの袖を掴まれた。力を入れてしまえば、すぐにその手は外れると確信しているが、彼女が実は起きていた、という衝撃がそれをさせてくれない。


「起きてたの?」

「ゔぅー……!」

「どうして唸ってるのか、聞いてもいい?」

「ゔぅー! 遅ーい!」


 今度は袖から腕へ、そして肩へと掴む場所を移動させていった。肩まで来たら、その後は当然……。


「ぎゅー……」


 お風呂に入っていたのか、彼女の体からは甘い香りがした。ふんわりとした柔らかいような香り。彼女にぴったりである。


「えへへ……」

「遅くてごめんなさい。仕事が長引いちゃってね」

「許しませーん……。どんな理由があろうと許しませーん……。ウチをおうちで待たせたバツとして、ウチの言うことを一つだけ聞きなさーい……」

「はいはい。何をご所望なんですか?」

「んふふー。えっとねー」


 貯めてから、言った。


「いっぱいウチにキスしなさーい……。そしてこのままベッドに持っていきなさーい……」

「明日、仕事あるんですけど」

「知らないもーん!」


 その夜は、とても熱い夜となったのだった。

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