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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第58.5話 アタシもだけどね、フッ

 朝の一件を終えて、数分の奪い合いを行なっ後に、敗北を喫したのかどうかは定かではないが、不満そうに教室に入った瑠璃奈と音葉は、ベタベタとくっついていた綾について議論していた。


「瑠璃奈よー?」

「ん? 何よ?」

「二学期早々に不機嫌なんですけどー。マジでー、この不機嫌さは過去一のレベルかもしんないんだけどー」

「見るからに不機嫌っていうのは分かるけど? それに不機嫌じゃなくても、なんかキレ気味なのは分かる」

「そう? 別にそんな感じ出してないんだけどなー」

「今めちゃくちゃ出てるよ。ものすごく分かりやすくね」


 席の座り方が明らかにヤンキーのような座り方で、自分の場所に構えている音葉は、朝の一件を思い出して、一人でイライラしていた。


 好きな人が他の女の子とイチャイチャしていたという事実。それを目の前で見せられたという衝撃。人一倍に影響を受けやすく、人一倍に感情的な音葉は、あの一瞬の出来事でも堪忍袋の尾が切れるほどの怒りを覚えたのだ。


「しかもイチャイチャしてるのはまだしも、ウチの判断だとあれはイチャイチャじゃなくてもベタベタだし……! 綾めぇ……! ぐ、くぅ……」

「ふぅん……」


 瑠璃奈はゆっくりとため息をついた。


 そして、隣にいる音葉に聞こえるか聞こえないくらいかの声量で、静かに……。


「はぁ……。まあ、アタシも音葉の気持ち分かるけどね……」


 と、つぶやいた。


「……」

「……」


 二人の間に沈黙が訪れる。


 そう。瑠璃奈には分かるのだ。音葉が覚えた怒りが、音葉が感じた複雑さが、その他の全ての恋愛において発生する感情が、瑠璃奈には分かるのだ。


 自分も同じだから、自分も音葉と同じように感じたから。自分も同じく、怒りを覚えたのだから。


 だから分かるのだ。


「ぐぅ〜〜〜……!」

「そんなに悔しがってどうすんのよ」

「だってぇ〜! ウチがいない間に、あの二人はもっとイチャついてるかもしれないでしょ!? 授業中にあんなことやこんなことして……」

「どう転んだってアタシ達は違うクラスなんだから、そこに関しては何もできないのよ。休憩時間にでも顔を出せばいいんじゃないの?」

「でもさぁ〜……!」

「オタクのことが好きなら、もっと積極的に……」

「そうだけど……。……ん? て、あれ?」


 不思議そうに首を傾げる音葉。何かに気づいた模様である。


「どうしたのよ?」


 音葉に対応して、首を傾げる瑠璃奈。


「え? でも、なんで?」

「な、何が? 何がどうしたのよ?」

「いや、なんで……。瑠璃奈……ウチが……」

「ハッキリ言いなさいよ」


 その言葉に影響されて、音葉は素直に口に出した。


「なんでウチがオタクっちのこと好きって知ってんの……?」


 またもや二人の間に沈黙が訪れた。


 うろたえる瑠璃奈。現在、頭の中で必死に誤魔化すための言い訳を模索中。しかしあまりにも突然のことだったため、そこまで正当性のある言い訳が見つからなくて困っている。


 対する音葉は、驚愕という二文字を突きつけられたかのような反応を見せた。


(やっばぁ……。ヘマしたぁ……。何も勘付いてない感じで今までよく行ってたのに……。どうしよう……)


 チラリと音葉を見る。対する音葉は、ずっと瑠璃奈の方を見ているが、焦点が合っていないのか、ボーッとしていた。


(え……なんで……? なんで瑠璃奈が知ってんの……? なんで……? なんで……? 嘘でしょ……)


 ハッと我に帰ったのは十数秒後。すぐに意識を取り戻した。


「……」

「……」

「あー、えーっと……。音葉の様子が、以前からさ……」

「あぁ〜〜〜!!! ちょっとストォーップゥー!」


 人差し指を突き出し、音葉は瑠璃奈をすぐに静止させた。


「そうだよ……。そうだけど!? ウチはオタクっちが好きですけど!? 何か!?」

「なんで開き直ってんのよ」

「何か!? オタクっちのことめちゃくちゃ好きですけど!? それが何か!? 何か悪いことでも!?」

「別に悪いことはないけどさ……」

「る、瑠璃奈だって同じじゃん!」

「は……?」


 瑠璃奈は拍子抜けしたような顔だった。驚愕や、衝撃など、それらに似たようで似ていないような顔。


「瑠璃奈だって好きなんでしょ……! そうじゃなきゃ、『アタシも分かるけどね……、フッ……』なんて言わないじゃん!」


 一瞬にして瑠璃奈は石になってしまった。そこからは少しも動かない。


 ようやく状況が飲み込めて、石化が解除されてからは、今まで通りの瑠璃奈になっていた。音葉も今まで通りの感じに戻っていた。


 二人とも、何も気にしていない、という暗示をかけていたからだ。


 しかしいつもは仲良しな二人だが、内心ものすごく気まずかったと思われる。


 そのことを、曇と綾は何も知らない。

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