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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第58話 しゅきぃ

 夏の暑さが残りつつも、高校生活は当然ある。逆になくなることなんてあるのか、という疑問すら抱かせてくれる。そんな地球上で一番どうでもいいことを考えながら、僕はいつもと同じ学校への道を一人で歩いていた。


 ここから一人ではなくなるのだけど。


「曇くんー!」

「小鳥遊さん、おはよう」

「う、うーん……。なんだか違うよー!」

「ん? あ、ああ、綾ちゃん……で、いいんだっけ?」

「うん! そうだよー! 名字じゃなくて名前で呼んでねー? ボクの名前は綾なんだからー!」

「そうだね。でも、学校ではあんまりそう呼ぶことはないと……って、あれ?」

「むぅー!」


 えぇ……。会って早々に不機嫌にさせてしまった。


「むぅー! むぅー!」

「分かったよ、分かったから……! ちゃんと学校でも『綾ちゃん』って呼ぶから……!」

「ゆるーす!」


 許された。チョロい。


 一学期の終わり頃から何度か、こうして待ち伏せされているのである。小鳥遊さんは……いや、綾ちゃんは、おそらくというか絶対にというか、もうほぼ確実なのだけれど、僕と一緒に登校したいという気持ちがあるらしいのだ。


 それも二人きりで。このことは他の二人には何も報告していないのだとか。なんとも独り占めしたいという願望が見え隠れする。意外と自己中心的で、ワガママな子なんだよなぁ……。それが必ずしも悪いとは言わないが。


「二学期だねー」

「だねー。小鳥遊さんは……」

「むぅ……」

「あ、綾ちゃんは、夏休み中に何かしてた? 僕はほとんどこっちにはいなかったし、それに誰とも連絡取らないから、全くもって外に出なかったけど」

「うー? うーん?」


 少し考えてから、綾ちゃんはニヤリと小悪魔的に笑って見せた。


「ずーっと……曇くんのことを考えてたんだよー……? ずーっと、ずーっとね……」

「ぐ、ぐぅ……」

「えへへー。顔真っ赤になってるよー、曇くーん? もしかして恥ずかしくなったのかなー?」


 はいそうです、とは絶対に言わない。言えばもっと攻撃されると思うから。言わない。


 しまったな。自分から話を振っておいて自爆するとは。それも綾ちゃんからの反撃によってだ。これほどに、やられたと思わせてくる会話は今までには一つもなかったな。綾ちゃん、かなりの頭の回転だ。


 その頭の回転を、僕と初めて会ったあの時に見せてくれれば、僕は彼女と関わらずにことが済んでいたのかな?


 決して、もっと頭を使えよ、と思っているわけではない。断じてだ。


「曇くん……。今、絶対失礼なこと考えてたー!」

「考えてません」

「考えてたよー! ボクの頭に直札入ってきたんだもーん!」

「君は超能力か何かを持ってるのかい? もしそうなら、僕は一体何を考えていたでしょうか」

「え、えー……?」


 困り顔が可愛いと思った。簡単に僕の口車に乗せられてしまっているところが、それを際立たせてくる。可愛さのせいで、自然と頬が緩んでしまいそうだ。笑いそう。


「た、多分……。エッチなこと……!」

「残念」


 なんでそんな思考を朝から持ってんだよ、と言いたくなった。それにエッチの具体性を知りたいとも思った。綾ちゃんの考えるエッチなものとは、一体どんなことがあるのだろうと興味が……。


 あ、まずい。綾ちゃんがこっち見てる。


「エッチなことではないよ」

「なんか、今考えてそうだったー! ボクの言葉に影響を受けて、考えてそうだったー!」

「そ、そんなわけないじゃん……! 失礼だなー……!」

「その反応は絶対そうじゃんー! 嘘つきだー! 嘘つき嘘つきー! 嘘つきの曇くんだー!」


 嘘ではない。これは本当。


「嘘じゃないよ」

「じゃあー! どんなことを考えてたのか教えてよー! 具体的にー!」

「え、えーっと……」

「はやくー!」


 ここで誤魔化す道理もない。素直に言おうかな。


「僕と綾ちゃんが初めて会った時を思い出してたんだよ……」

「あ……」


 すると、突然隣に来て、腕に擦り寄ってきた。


「えへへ……」


 嬉しいのだろう。なにせ、彼女にとって一番の思い出と呼べるものを、僕が共有しているということを改めて知らせてくれたのだから。僕という人間を好きになってくれた思い出なのだから。そりゃあ、思い出してくれたら嬉しいよな。


「んふふ……」

「そんなにくっついてこられると、僕としては歩きにくいんだけど……」

「んふー……! えへへー……!」

「あのー」




「しゅきぃー……」




「え……」


 完全に耳を通っていたけど、完全に認識できた言葉だったけど、一応聞き流しておいた。何も聞いていないフリをしておいた。何も分かっていないというフリをしておいた。


「しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきぃー……」

「さぁーて、学校がもうそろそろ見えそうだなー。もうすぐに到着しそうだなー」

「んんんんぅー……!」


 しばらくの間、僕の腕にグリグリと頭を、そして顔をこれでもかというくらいに押し付けてくる。されてる側である僕も、一応は反応はするけど、そう長い話を広げるようにすると、また先ほどのようにやられてしまいそうだったから、やめておいた。


 二学期が始まるというのに、なんで僕、朝からこんなことしてんだろう。可愛いから全然許すし、むしろもっともっとやっていただきたいと思ってしまっている始末。


 これを二人に見られたりでもしたら、それはもうとんでもない修羅場に……。


 ……って、あれ?


「お、おはよう……。金城さんと蝶番さん……」


 向かいから彼女ら二人が僕らを見ていた。相変わらず綾ちゃんはやめようとしない。


「あ、綾ちゃん……? ふ、二人がいるよ……?」

「んふふー……。えへへー……」


 もはや夢の中だ。諦めよう。


「あ、あのー、これは……」

「はぁ? 何? はっきり喋りなよ」


 めちゃくちゃキレてるじゃん。


「いや、何してんのオタクっち? それに、何してんの綾?」

「だ、だからこれは……」


 金城さんが怒ってるところ、意外と見たことないから新鮮だった。こんな時に何考えてるんだろう、僕。もしかして余裕か? あるわけないだろそんな余裕。どこにあるんだよ。


「とりあえずさぁ……。綾、離れなよ……」

「そーだそーだ! 綾ばっかりイチャイチャしててズルイ! ウチと代われー!」


 ああだこうだと言われ続け、とうとう綾ちゃんが二人に不満そうな顔を見せつけた。二人は綾ちゃんのそんな顔を見て、狙ってやっていると感じたのか、無理やり綾ちゃんを引き剥がそうとしてきた。


 朝からやめてくれよ……。

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