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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第57話 キミだから、だよ

 思考が停止した。電子機器のバッテリーが壊れたかのように、全ての動作を終了する。くらり、くらりと、目が回る。体を支えきれないほどの、何かが、僕を襲ってきた。


「く、曇くん……?」

「あ、あぅ……」

「ちょっと! 曇くん!」


 おっと。本当に倒れそうだった。小鳥遊さんは僕の異変に気がつき、瞬時に支えになってくれた。僕もそれを確認して、自分で万全の体勢を整える。


 周りがゆっくりと動いているようだった。なんだろう、この感覚。夢見心地で、でも、決してものすごく心地がいいというわけでもない。むしろ揺れているようで気持ちが悪い。そういうところを気にするタイプなのだ、僕は。


「曇くん……? 大丈夫?」

「うん。大丈夫……。ちょっとクラッとしただけだよ。心配しないでいいよ、小鳥遊さん」

「う、うん……」


 それにしても、どうしてこんなにクラッとしたのだろう。小鳥遊さんは別に何もしていない……。僕自身だって、なにも……。


 ん? 小鳥遊さん?


 そこで僕は先ほどのことを全て思い出す。どうして僕が思考を停止させていたのか、どうして僕がこんなにめまいを起こしたのか。それは、全て、彼女の発言が……。


「もしかして……ボクのせい……?」

「え?」

「ボクが……曇くんを困らせるようなこと、言っちゃったから……? ボクが……ボクが……ボクが……。あんなこと、言わなかったらよかった……?」

「……えっと、何を?」


 小鳥遊さんは頬を膨らました。


「むぅー! もう知らないー!」

「あ、あははー……」


 危なかった。あのまま流れに身を任せて、小鳥遊さんの発言を完璧に理解していたというのがバレてしまえば、いろんなことが頭を巡り、今度こそぶっ倒れるぞ。気まずさも最高潮に達して、逃げたくても倒れているため逃げられないというジレンマが発生してしまうではないか。


 避けてよかった。ここは僕の判断が光ったな。


「……あの反応は、自分から求めてるって、ことだよな———」


 小鳥遊さんは僕の独り言をしっかりと聞いていた。


「んー? 何を求めてるのー?」

「い、いや、なんでもないよ小鳥遊さん」

「むぅー……」

「どうしたの?」


 またまた頬を膨らまして、どうやらご不満の様子。よく膨らむほっぺただなぁ……。柔らかそう。


「曇くんはー、ボクの名前ー、知ってるのー?」

「う、うん。そりゃあ」

「じゃあちょっと、呼んでみてくれるー?」

「いいけど……。なんで?」

「いいからー!」


 一体、なんの意味があってそんなことをするのか、まるで分からなかった。


「綾……さん……」

「なんかちがーう……! もっとこう、ボクっていうことが分かるように!」

「綾、ちゃん……?」


 膨らましていたはずの頬は、わずか二秒で解除され、代わりに綺麗な赤色が施されていた。その白くてきめ細やかで、誰が見ても美しいと思える肌に、その赤色は魅惑的だった。綺麗だ。美しい彼女が、そこにはいた。どこか色っぽく見える。


「もう一回ー!」

「あ、綾ちゃん……。これでいい……?」

「なんか思ってたのと違うー! さん付けもちゃん付けもいらない! ボクの名前だけでいいのー!」

「えーっと、てことは……」


 一文字の、彼女の名前。


「綾……」

「くぅっ……! ふっ……! うぅっ……!」

「あの、これになんの……」


 ふんわりと匂う、彼女の甘い香り。それくらいに、彼女は僕に接近してきたのだ。


「うぅぅー……!」

「小鳥遊、さん……? あんまり強く抱きしめられると、僕が……」


 抱きしめられるというのは、単に愛情表現をしているのだと思うが、現在小鳥遊さんが僕にしているこれは、なんというか、恋しくてしている感じだった。


「綾……そんなに力強くないもん……。曇くんは失礼な男の子だよ……」

「そんなつもりは———」

「でも許してあげる……。曇くんだから……」


 ああ……。またそれだ……。


 ドクンドクン、と心臓が暴れている。止められない。僕の意志じゃ簡単に止められるはずもない。勝手に動いてしまう、体を密着させている小鳥遊さんにも伝わってしまう。音すらも直接鳴り響いてしまう。耳にも届きそうだ。


 早く離れて、誤魔化さないと……。早く離れて、呼吸を整えて、心臓の動きを正常にしないと……。


 でも、でも……。


 心地……、いい……。幸せな気分になっているのが、分かる。


 小鳥遊さんは言う。


「曇くんだから、なんだよ……?」




 確信する。でも、あえてそれは分かりきったことであっても、分からないふりをした。




 小鳥遊さんの背に手を回した。


「小鳥遊さん」

「え……? うん……。なぁに……?」

「今日というか、これからなんだけど時間ある?」

「たーっぷりとあるよー。仮に時間がなくても、無理矢理にでも時間を作るくらいだよー」

「そっか。なら、これからどこかに行かない? もちろん、レトくんも一緒でいいよ」

「うーん。レトも一緒かー。どうする、レト?」


 レトは吠えた。尻尾を左右にフリフリと振り、楽しそうな様子であった。


「綾はー……」

「うん」

「綾はー、曇くんと二人っきりがいいけどー、どうしても行きたそうだから、レトも一緒に行こっかー」

「行くって言っても、どこに行こうか。何にも決めてないからなぁ……」

「じゃあー、これ持ってー!」

「これ?」


 レトに繋がっているリードを渡された。


「手を通して……」


 されるがままにされる僕。しばらくおすわりをしているレト。


「それでー、綾がこうすればー! 完成ー!」


 一つのリードを二人が持つという、カップルでよくあるやつであった。ちょうど二人の手のひらが重なり、絡め合うようにして小鳥遊さんは手を繋いできた。


 指と指が交差する、恋人繋ぎ。少し照れくさい。


「カップルみたいだね、曇くん」

「そうだね、小鳥遊さん」

「むぅー!」

「ああ……えっと……。綾」

「えへへ! よーし! これで二人でお散歩に行こうー!」


 元気よく歩き出した彼女。それに合わせて僕も歩く。


 カップル、か。僕と小鳥遊さんのカップル姿を想像したことは、誰にも言わないでおくとしよう。


 もうすぐで、新学期が始まる。

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