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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第51話 ギャル店員の音葉たん

「え、あ、うあ……」


 重心が後ろになってしまう。くらり、と倒れそうなくらいに、僕は彼女を受け止める。


 優しく抱いて、その次は強く抱いて、いくらかそれの繰り返しをした後に、僕は周りの視線に気づいた。


「「「おいぃぃぃぃぃーーー!!!」」」


 店中に広がる注意の声、少しばかりうるさいと思ってしまった。しかしその注意の声は僕に向けられたものであると感じたと同時に、一人の男性……おじさんのような見た目の人が、鬼の形相で僕を怒鳴ってきた。


「おいこらぁー! 俺たちの『音葉たん』に何してくれてんだぁー! その手を話しやがれぇー!」

「え? え?」

「とぼけた真似してんじゃねぇぞ! さっさと音葉たんから離れろぉ!」

「え? え?」


 なぜか僕は金城さんを抱きしめてしまう。……挑発でもしてんのかな、僕。


 それにすぐさま反応した他の男性。


「あぁー! クソてめぇ! おいボウズ! そこにいる超絶美少女の音葉たんは俺たちのアイドルなんだよ! てめぇごときが触っていい女の子じゃねぇんだよ!」

「……。あ、そういうことですか」


 パッと離すと、鬼の形相が解除され、ようやく僕は周囲の圧から逃れることができたのだった。


 しかしそれもほんの束の間。ほんの少しの間だけ。本当にほんの少しだった。


「ぎゅっー!」

「ちょっ!? 金城さん!?」

「あぁーーー!!!」


 またもや周囲の圧。今度は倒れそうではなく、その圧のせいで押しつぶされてしまいそうだった。なんだろう……。この間もこんなことがあったような……。謎の既視感。


 とにかく僕は、離れたくても離れられないのだった。それを見て怒鳴り続ける男性客たち。決して僕からやっているわけではなく(挑発するようなことはしてる)、はっきり言って不可抗力のようなものだ。僕は別に何もやっていないのだ。


「お、おい見たか! い、今、音葉たんから抱きつきに行ったよな!」

「あ、ああ見てた! 今、確実に!」

「ねぇ、音葉たん!」



「「「コイツとどういう関係なんだい!」」」


 すごいシンクロ率。団結力を他のことに生かしてはくれないのだろうか。


 その後、金城さんは僕との関係についてしばらくの間は質問責めにあっていた。だがそんなことなどまるで聞く耳を持たずに、金城さんは夢中で僕に抱きついたままであった。


 余計に視線が痛かった。さらにその視線には殺意を帯びているようにも思えた。いや、思えたんじゃない。絶対に帯びているよな、これ。



 ****



「おじさんたち怖かったねぇー」

「誰のせいだと思ってるの……」


 あの後やっと意識を取り戻した金城さんは、実はマズいことをやっているということを完全に理解し、周囲の男性客に小さくお辞儀をして、そそくさとその場から逃げるように離れて行った。


 逃げるようにというか、逃げてんだけど……。まあ、どちらでもいいだろう。彼女の向かった先は当然レジから少し行けば着くロッカールーム、及び休憩室。他の人はおらず、僕たちだけ。


 僕たちだけっていうのがまた厄介なんだよな。彼女だけならいいのだけれど、どうしてか、こればかりはどうしてなのか分からないが、僕を引っ張って、無理やり移動させてきたのだ。


 代わりに店長が急遽レジに入ってくれた。ありがたい。


「誰のせいって……。ウチのせいなんかじゃないよ? だってあの時オタクっちが乱入さえしなければ、あの人たちもみんな怒ってこなかったに違いないじゃん!」

「じゃあ、金城さん一人であの大量の客の相手をできるっていうの? そもそも一人だったから僕が助けに入ったのさ」

「でも結果的に誰一人として会計済ませられなかったじゃん!」

「だからそれは君が抱きついてきたからでしょ!」


 なんか喧嘩始まっちゃった。こんなことはしたくないのにな。


「ゔぅー……!」

「唸っても事実は変わりません。金城さんが抱きついてきたからでしょ? そういうことだよ」

「ち、違うもん! だ、だってアレはオタクっちが悪いんだもん!」

「はい? なんで僕なの?」

「だ、だって……。久しぶりに……」

「久しぶりに?」


 予告しておこう。この後の金城さんの言葉のせいで、僕は赤面してしまう、と。


「久しぶりに……オタクっちのカッコいい顔見れて、抱きつかずにはいられなかったのぉ……」

「……」


 ぶわぁ、と一瞬で。顔が、火照る。


 店長の言葉を思い出した。僕の顔のこと、僕の評価のこと、僕の周りのこと……。金城さんのこと……。


 マズい。意識してしまう。


 金城さんの少しだけ赤らめた頬を見るだけで、もっと僕の赤面具合は高まってしまう。意識、意識、意識。意識してしまっている。期待してしまう。蝶番さんの言っていた、『期待』のように、僕も彼女らに対して『期待』してしまう。


 あつい。恥ずかしい。目の前にいる金城さんが可愛い。自分で言って、自分で赤くなっているのがまた可愛い。


 ヤバイヤバイヤバイ。これじゃあまるで……。


 君のことが、好きみたいじゃないか……。


 蝶番さんのことについて色々と察しがついた時と同様に。


 想っているかのように、感じてしまう……。


「あ、あう……」

「あうぅ……」


 二人とも、言葉が詰まる。


 だがしかし、結局僕は誰を好きになるのだろう。誰かを好きになること自体が、あるのだろうか。


 今のところ、好意的に思う子は、三人だ。


 考えると余計に意識してしまった。

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