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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第38話 特別扱いはやめて

「ああ、でも私の話よりも先に理事長の方から、曇さまに話があるそうですよ? 私の話は後からでもいいですのでね、ささ、どうぞどうぞ……」

「……」


 僕は右手の甲を黒山に見せつけて、それをひらひらと動かした。


「はて?」

「……出ろ」

「す、すみませーん……! 出ていきまーす……! では、ごゆっくりー……」

「はぁ……」


 黒山が理事長室から退室したのを確認し、僕はすぐに理事長に目を向ける。さて、どんな用件なのか。僕は一体、どのような仕打ちを受けるのか。気になるものだ。


「黒山も出ていったことですし……話ができますね、理事長?」

「ふむ。やはり三司家の血を引いているのですな。曇さま……とお呼びしてよろしいのでしょうか」

「やめてください。僕はこの学校の生徒であり、この学校に在籍している身です。つまり僕は単なる学生。特別扱いなどしないでいただきたいです」

「そ、それは失礼しました……」


 話を聞いていないようなので、もう少し強めに言ってみる。


「敬語もやめてください。それこそ特別扱いです」

「しかし……」

「やめてください。いつもの感じの口調でお願いします。あなたは理事長なのですから、そして僕はあなたの学校の生徒……敬語を使うのは僕の方であり、あなたは生徒と接しているということです」

「ふむ。ではここからは、いつもの私で……」


 理事長は重たそうな腰を持ち上げて、僕の近くに来た。こうして見ると、かなり身長の高い人だと思える。大人というのは誰でも身長が高いように感じていたが、この方は僕が会った方の中でずば抜けて高身長。僕は見上げることで、理事長の目と合わせた。


 重圧。なんとも迫力のある人なのだろう。険しそうな顔からは、これまでの人生の中で積み上げてきた経験が感じられる。どんな内容で、どんな苦労があるのかまでは分からないけれど、とにかく理事長は非常に険しく、難しそうな顔で僕を見ている。


「今回、呼び出したのは、どのようなご用件で?」

「……」

「理事長?」


 もっと険しそうに、もっと難しそうになった。眉間に皺が寄りまくっている、何か重大なことで手詰まりにでもあったかのような顔。


 そして突然目を見開いた。


「え、なんですか?」

「三司……曇くん……」

「小田です。三司という名前では呼ばないでください」

「すまない。でも、そう呼ばないと、君との地位や関係性についてはっきりしにくいんだ!」

「地位とか関係性とか、そういう話をするためにここへ呼んだのですか? はぁ……僕を特別扱いするんですね?」

「それは違うんだ!」

「どこが……。なら用件を簡潔にご説明してください」

「説明なんていらないでしょう……」


 理事長は足を折り曲げ、綺麗で皺ひとつないスーツを身につけた膝を、床にピッタリとくっつけた。


 同時に両手のひらもくっつける。


 そして……。


「この度は、息子がご無礼をはたらきまして、誠に申し訳なく思っております……」


 頭を下げた。



 ****



 いや、何この状況。僕の話聞いてた? 部外者が見れば、この状況って理事長が生徒に頭を下げているという光景になるのだが……。それに単にお辞儀をしたり、軽い挨拶とかそういう類ではない。マジの謝罪である。


 しかも膝と手をついた、日本の伝統的な最上級の謝罪の例。


 土下座。それをしているのだ。僕はただ理事長のその姿を見ていることしかできなかった。別に何も思っていないなんて、そんな鬼のように冷徹な人間ではない。なんというか、結局何も変わっていないという無力感がある。


 その無力感が僕を襲ってきた。何も変わらない。何も変えられない。何も……何も……。変えたかったから、嫌だったから、普通の学校に毎日来ているのに……。結局、僕の生まれを知れば、僕に対する扱いは元に戻ってしまうのだ。


 嫌だなぁ、なんか。小鳥遊さん、蝶番さん、金城さんのように、僕を普通の男子高校生として扱って欲しいなぁ……。


 数秒考えて、聞いた。


「なんの真似です?」

「この度は……」

「なんの真似なのかを聞いているんです。答えてくださいよ、理事長」

「謝罪です……」

「それは分かります。なぜそんな謝罪の仕方なのか、ご説明してください」

「君は……『剣崎』家とは比べ物にならないほどの権力を持っている、『三司』家の後継……。ならば、誠意を表すためには最上級の謝罪を、と思いまして……」

「やめてください。やめてくださいよ、そういうの……。三司、三司って……!」


 理事長は顔を上げなかった。僕がしっかりとやめるよう言うまで、上げないつもりなのだろう。


「やめてください、理事長」

「ああ……」


 理事長はゆっくりと立ち上がった。


「謝罪なんていいんですよ」

「……」

「地位ですか? 名誉ですか? 権力ですか? 自分の立場が危うくなるかも知れないと思ったんですか?」

「……」

「やめてくださいよ、本当に……。本当に、やめてくれ……! もう分かったから……!」


 もう苦しかった。


 苦しかったけど、言った。


「黒山……。どうせそこで聞いてるんだろ?」

「ええ、聞いていますとも」

「父に伝えてくれ。『謝罪はしてもらった。あとは何もするな』って……。絶対だぞ、これは命令だ」

「はい、分かりました、曇さま」

「理事長、一応あなたやあなたの家族には何もないようにしておきます。ですが、父はあなたに失望したでしょうね」

「……」

「それと、僕が三司家の人間だということは秘密にしてくださいね。息子さんにも言っておいてください。強く言っておいてくださいね」

「ええ」

「ああ、息子さんにはもう一つ、僕に近づかないようにさせてください。僕とは関わらない方がいいですので……」

「申し訳ございません……」

「もう謝罪はいいです」


 僕は無言で理事長室を出た。出る際のお辞儀をすることもなかった。ものすごい嫌気が、僕の正常な判断させてくれないのだ。


「曇さま、お疲れですね」

「うるさい……」

「おお、怖いですね。何かあったのですか?」

「聞いてたでしょ。馬鹿にしてる?」

「そういうことではありませんよ。あなたがお優しい方になっておりましたので、何かこの学校であったのかと思いまして……」

「別に何もない。それより、命令で来たって言ってたけど……父になんて言われて来たの?」

「そのことなんですけどね……。えーっと……」

「教えて」

「教えてほしいですか?」


 渋るな。早く言え。目でそう伝える。


「そうですね。施設に戻ると言うのであれば、教えてあげてもいいですよ?」


 僕は黒山を置いて、すぐに去った。

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