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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第36.5話 蓮と理事長の会話

「親父!」


 蓮は理事長室に入るや否や、大声で叫んだ。設備が整っているせいか、その叫び声はやまびこのように反響し、室内にいる大人たちが驚いている。広い室内でザワザワとし始めた。


 右を見て、左を見て、周りを確認し、理事長専用の机に一直線に歩いていく蓮。


 大人たちは全員『泉が丘高校』の役員たち。何やら役員会議があった模様。そんな中で、大声を放ち、かつ周りを確認した上で理事長めがけて歩いていく姿は、まるで談判でもしに来た勇気ある存在に思える。しかし非常識な行動でもある。


「親父!」


 蓮は同じセリフをもう一度言った。理事長専用の机に『バンッ』と手をつく。


「何の用だ、蓮。今は会議をしていて……」

「退学にしろ!」

「……」

「今すぐ退学にしろ!」


 理事長は理解していない。どういう状況で、どういうことを言っているのか、何も理解できない。自分の息子が何かを要求しているというのは後から薄々気づいていく。


 頭の整理が追いついたところで、理事長は問う。


「急にどうした」

「今すぐにアイツを退学しろって言ってんだよ! 親父ならできるだろ!」

「いや、どうして退学にするんだ? 何か退学にしたい重要な理由でもあるのか? そもそも、そんなに簡単に退学なんて……」

「とにかく気に食わねえんだよ! 気に食わねえやつがいんだよ! だから頼むぜ親父! アイツを退学にしてくれ!」

「アイツとは誰だ。代名詞を使うな」


 父親の言葉を聞いて、蓮は黙る。というのも、蓮は『アイツ』の名前を知らないのだ。クソ眼鏡やら、愚民やら、そういう代名詞ばかりで人を呼ぶ。そのためあまり名前を覚えていない。だから『アイツ』の名前を知らない。


「め、名簿! あとクラス別の個人写真! それを見せてくれ!」


 蓮がそう言うと、理事長は横にいる黒服の女性に視線を送る。


 数秒後、その女性は一つのファイルを持ってきた。そしてそれを蓮に渡す。蓮はそのファイルをすぐに開き、クラス別の個人写真欄を確認した。


「すみませんね、私の息子が……。無礼な行動は控えろといつも聞かせているんですけどね……。本当にすみません、では会議の続きを……」


 蓮はファイルを確認し続けた。



 ****



「コ、コイツだ!」

「ああ、またすみませんね。少しの間、お時間いただけませんかね。本当にすみませんな」

「コイツ! コイツだよ親父!」

「どうした。だからコイツとは誰だ。代名詞をやめろ。名前で呼べ」

「コイツ、『小田おだくもり』! コイツを退学にしてくれ!」

「それで、どうしてこの子を退学にしたいんだ?」

「とにかく邪魔なんだよ! 綾と俺の仲を引き裂こうとしてくる、目障りな野郎なんだ!」

「何……!? それは本当か、蓮?」

「ああ!」

「小鳥遊さんは、娘さんと蓮との結婚を想定しているからな。たしかに邪魔な存在かも知れないな。しかし蓮、この前も無理を言ってきたじゃないか」

「数学のテストの答えだろ? もういいんだよ、あれは! 無駄になっちまったんだから!」


 ふむ、と考える理事長。


「すみませんが、会議は一旦休憩ということにします。皆さん、ご自由にどうぞ……」


 もう会議よりもこちらの問題の方が優先すべきだと判断したようだ。


「この子ね……。小田くんか……。小田、曇……小田曇……。ん……?」

「どうしたよ親父」

「この子の経歴を確認できるか? それと、この子のデータファイルを見せてくれ」

「かしこまりました。少々お待ちを……」


 黒服の女性は『個人情報ファイル』というものを一冊持ってきた。


「こちらです……」

「この中から『小田曇』の経歴と個人情報を確認してくれ」

「かしこまりました。確認いたします」


 パラパラとめくり、女性はそのページを発見する。


「こちらになります……」

「これか……。経歴は、不明……? 個人情報も、一切のデータ無し……。どういうことだ……? こ、これ以上はないのか?」

「ありません……」

「小田、曇……。曇……くもり……?」

「どうかしましたか、理事長?」

「今すぐに『三司先生』に連絡しろ! この子についての確認を取るんだ! 早くしろ!」

「お、おい、親父……。何がどうしたんだよ?」

「おい蓮。お前、この子と何かトラブルとか起こしたのか?」

「トラブルって程じゃねぇけどよ、色々と喧嘩しちまった感じだな。それがどうかしたのかよ?」

「祈るしかないな……。この曇くんが一般人であることを……」


 数分、女性が電話で話していた。そして女性が話していた内容を、全て理事長に耳元で伝えている。


 数秒の間で、理事長の顔は青ざめていった。それくらいに女性が話していた内容は、理事長を恐怖のどん底に突き落とすものであったのだ。


「蓮……。お前さっき、喧嘩したって言ってたな……」

「ああ、言ったぜ? まあ、あっちが俺の邪魔をしてきたのが悪いんだからな」

「やってくれたな……!」


 実の息子を、睨みつけている理事長が、そこにはいた。

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