第27.5話 帰り際、三人の会話
勉強会が終わり、いよいよ帰ることとなった美少女ギャル三人組。彼女らは教科書とノートをカバンにしまい、スマホを眺めていた。
「はぁ〜〜〜!!!」
「疲れた〜〜〜!!!」
綾と音葉は、勉強のせいで疲労状態。スマホを手に持っても、時間を確認したらすぐに机の上に置いてしまう。そして体も机にだらんとして、完全に力を抜いている。
音葉は腕を枕がわりにして、綾は腕を伸ばし切って、彼女がお持ちの豊満な胸が、机の上でいい感じに強調されて、つっかえている。彼女はそれを枕がわりにできるのである。
瑠璃奈はというと、スマホをかまいつつ二人を見ていた。見守るように、保護者のように。しかしその瞳は優しいものではない。様子を伺っている、そんな感じである。
「音葉ちゃん、瑠璃奈ちゃん……」
「んー?」
「ん、どした?」
口を開いたのは綾だった。
「最初はボクだけが勉強を教えてもらうはずだったのにー……。二人が加わったら、オタクくんの負担がすごいことにならない?」
「分かるよ、それくらい。でもウチだってオタクっちに教えてほしいよ」
「アタシも」
「音葉ちゃんは分かるとして……瑠璃奈ちゃんが勉強を教えてもらうなんて、聞いたことないよー」
ヤベ、と静かに口にする瑠璃奈。瑠璃奈は彼と同じ塾に通っていることを未だに二人には話していない。話していないと言うよりは、話さないのだ。瑠璃奈は瑠璃奈で、漁夫る……つまり、綾と音葉が争っている中で、しれっと横取りしようと思っているのだ。
そうするためには、同じ塾であると情報は不都合、不要、そして不利なのだ。だから瑠璃奈は言わない。言えば必ず二人がその塾に加わる可能性が高いと思われる。富豪の娘、有名企業のお嬢様。金に心配はない。あとは時間が合いさえすれば、瑠璃奈や彼と同じ時間帯の枠を設けるはず。瑠璃奈にとっては、不利になること間違いなし。
以前までは照れを誤魔化すために罵倒やら、暴力などを使用していたが、最近ではそのようなことはなく、むしろやわらかく当たるようになった。やわらかい言葉、やわらかいボディタッチである。
「ま、まあ、アタシも点数取りたいし? アタシよりもアイツの方が順位も上らしいし。とにかく! アタシも二人とおんなじで、勉強しないといけないの!」
「ボクの場合は本当に成績が危ういんだよー……」
「ウチもー……」
「えぇ……」
ため息をつく瑠璃奈。
「じゃあ二人は塾に行ったり、家庭教師とかってやらないの?」
「うーん。やってもいいけどねー」
「オタクっちは、塾とか通ってるのかなー?」
「か、通ってないよっ!」
大きな声で瑠璃奈が言う。二人は驚く。
「通ってないの、瑠璃奈ー?」
「う、うん! マジでアイツ、塾とかめんどくさいって言ってたし!」
「ふーん、本当かー。瑠璃奈ちゃーん?」
「ん?」
綾も席を立った。
「なんでそんなこと知ってるのー?」
「え……」
「オタクくんが塾通ってないとか、どこで分かるのー? 本人に聞いたのー?」
「そ、そう! 本人に! 本人に聞いたの!」
「そっか。ならボクも直接……」
「だ、ダメだよっ!」
瑠璃奈が我に帰る。強調するように言った。言ってしまった。瑠璃奈は猛烈に反省する。マズい、マズい。
「えっと……オタク、アイツ家庭教師とか塾に因縁があるらしくてさ、あんまり話題に出してほしくないんだってさ……」
「へ、へぇ……。どんな因縁なんだろうー……」
「と、とりあえずさ! もう帰ろ! 時間もやばいし!」
帰る準備をそそくさと催促する。
しかし綾と音葉が不審に思わないわけもない。特に綾は、何かを疑っていた。綾は思い切って聞いた。
「瑠璃奈ちゃんはさー、オタクくんのこと、どう思ってるのー?」
「ッ……」
「どうしたのよ、瑠璃奈? どう思ってるのよ?」
音葉が追い打ちをかける。優しい声だが、その真意は追求する心と、疑念である。
「……い、いいやつ、かな」
瑠璃奈は不安の中で言ってみせた。バレてしまいそうだったが、しかし綾と音葉はそれに納得を示し、なんとなく誤魔化せたように見えた。
綾と音葉の疑念は、確信に変わってしまった。




