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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第24話 肩に頭を乗せるギャル

 脅しですか?


 素朴な疑問を思い浮かべたが、僕はそれを直接聞き出そうとすることはない。静かに、彼女の隙を見ている。機会を窺っている。アフリカのサバンナに生息する猛獣のように、獲物を狙っている。行動を、なんとなくやっている仕草を、そして何より彼女の考えていることを予測している。


 彼女が取り出したスマホによって、僕の姿を写真に撮られてしまった。しかもツーショットでだ。つまり、ようはあれだ。色々と複雑になってくるぞ。一旦頭の中を整理しよう。


 とりあえず金城さんは、蝶番さんにこの姿が僕であることを知られているということを彼女はまだ把握していないはずだ。蝶番さんが金城さんにバラそうかと、そんなふうにチラつかせている点から、そう読み取ったのだ。憶測だから本当のところは分からない。


 しかしいつかはバラしてしまう日が来るのだろう。僕がやめろ、と言っても、絶対にやめない。そんな人間性を有しているのが、この蝶番瑠璃奈さんだ。……だから、僕が何を言いたいかって、そういうことなのだけれど……。


 蝶番さんが写真をネタに、色々としてくるかもしれない、そんな状態になっている。この間の図書室の一件も、彼女に写真を撮られているし。


 僕はカメラ機能付きの万能機器が、今一瞬で嫌いになった。この世から全て消し去ってしまえばいいのでは、と考えてしまった。しかし僕もそれに頼っている部分もあるため、なかなか実現できそうにない野望だな。


 そんな無駄なことを考えるのはやめにして、早く問題を教えてあげたかった。


「もういいからさ……。どこのどこが分からないんだい?」

「アタシの脅しが効いてない……」

「やっぱり脅しだったんだ……」


 蝶番さんは少しショックそうな顔をした。というか、この前も金城さんに見せてやろう、とか言ってたが、なんというか『いつかは……』と考えてしまうと、後からよりもすぐにバレてしまった方が気が楽だ。だからそこまで悩んだり、苦しんだりすることではないと感じてしまう。


 さて、平然としている僕を見て、何やら疑問を持ったのか、彼女は可愛らしく首を傾げた。長くてサラサラとした黒髪が揺れる。


「なぁ」

「はい」

「なんで?」

「なんで、とは?」


 不思議そうに聞いてみた。


「なんか平気でいるなぁーって思ったから……。この間は必死にやめさせようとしてたじゃん?」

「たしかにそうだね。でも考えたんだよ。後々バラされてしまったら、その期間までずっと、僕は金城さんに色々と隠し事をしてたことになる。そしたら罪が重くなるのは当然だよね? だから早めにバレたほうがいいのかもって……ね?」

「じゃあ今すぐにバラしてもいいんだ?」

「いやダメだよ。そういうわけじゃないからね? 金城さんが怒るだろうし……。彼女は僕のこの姿を、誰にも見せなくなかったんだから」

「それこそ、なんで?」


 決して怒られたくなかったとか、保身のためだとかではない。金城さんがやめてほしいと言っていたことは、あんまりしてほしくない。僕は少し溜めてから言った。


「……人が怒ったり、人の嫌がることは、極力しないし、してほしくないでしょ? それが女の子のことなら、なおさらね」

「へぇ……。アンタって優しいんだね、意外と」

「そうかな?」

「意外とね」

「意外とですかい」


 意外と優しい。なら本当に優しい、善者はどんな人間なのだろうか。世界のどこかにいるのなら、一度でいいから会ってみたいな。


「優しくていい子でちゅねー、よしよしー」

「撫で方知らないの? それ髪掴んでるからね?」

「ポンポンが良かった?」

「絶対叩くじゃん」

「叩かないわよ。アタシ信用なさすぎでしょ」


 自分の過去の行いのせいだ。


 じゃれていた僕たちは、他の生徒の目が気になって途端に恥ずかしくなる。僕たち二人は、視線をテキストとノートに移した。


「あー、そういうことか……」

「理解した? そうしたら、ここも多分自力でできると思うよ。がんばって」

「ん……ありがと……」


 無愛想だけど、素直な部分も持ち合わせているのが、どこかギャップ的にグッとくるところだな。大抵の男はこれだけで一瞬、キュンッとしてしまうことだろう。僕も一応男だけど、人との接し方の勉強や、人の観察をしていくうちに、こういうのには耐性ができてしまった。


 そう、つまりこの程度では僕をキュンッとさせることはできないのだ。


 しかし、それはあくまでさりげなく、何気なくしている仕草にのみの耐性であり、普通に至近距離で見つめあったりすると、簡単にグッとくる。


「いやー、やっぱアンタの教え方うますぎ。分かりやすくていいわー」

「そりゃあ、どうもありがとう」

「ん? んん?」


 横を……僕の方向をじっと見ている蝶番さん。なんだ? 何か汚れとか、ゴミとかが付いているのだろうか?


 見た限りでは何も、なんともないように見えるが。僕だけが見えない特殊な力でも施されてでもいるのだろうか。よく分かってない。


「肩……」

「え? 肩? 肩が、どうかしましたかね……?」

「ん……」


 コテン、とそんなふうな音がした。蝶番さんは、僕の肩に、自分の頭を乗っけてきた。


「あ、あのー……ちょっと、蝶番さん?」

「何? 何か変なことでもあった?」

「変っていうか、いや変なことなんだけどさ、どうして君は、僕の肩に頭を……」

「別にいいでしょ」

「いや、でも……」

「すぐ横に乗っけやすい肩があったのだからしょうがない。それはもうアンタの肩がいけないのよ」


 何という、とって付けたような言い訳。じゃあ君は見知らぬ人の肩を見て、『あっ、乗っけやすそうだなー』と思ったら乗っけてしまうのかよ。やめとけ、絶対びっくりするだろ、その人。でも蝶番さんは美人だから、おじさんとかだったら喜んで乗っけてくれそうだな。


 想像してみたけど、なんというかいけないことをしている女子高生とおじさんに思えてくる。事件性とか、年齢的ないけないことが起こりそう。そんなことを、実はかなり真面目な蝶番さんがするわけないのだろうけれど。


「蝶番さん、頭、どかしてくれるかな?」

「嫌ですー。さっきアンタ言ってたけど、人が嫌がることはしないんでしょ? それも女子が嫌がることならなおさらって」

「今は僕が嫌がる側なんだけど……」

「とにかく絶対にどかしませーん。次言ったら音葉に写真送るからね」

「はいはい……」


 小さくて可愛らしい頭は、僕の肩から離れることはなく、ずっと乗っけたままだった。


 無邪気でわがままで、そして可愛い彼女を知れた気がする。

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