表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/73

第23話 ふーん、キモ

 近い、近すぎる。いつもじゃここまで、肌と肌が触れ合うほどにまで、僕と蝶番さんは距離が近くて、接触することなんて、知り合ってからじゃ一度もなかった。そんなことをすれば、僕の理由や経緯なんて聞かず、問答無用でビンタを食らっていることだろう。しかししてこない。


 なんだ? 彼女はどうして、何もしてこないんだ?


 それ以前に疑問だったことがある。最近になって、徐々に蝶番さんの罵倒が減ったのだ。まさか人を思いやる気持ちがしたり、悪い気がしたりでもしたのか? ……と、僕は思っていたが、罵倒の代わりに攻撃してくることが増えたため、それは絶対にないと確信した。


 まあ、罵倒と言っても軽いものだ。


「キモすぎ」


 とか、


「オタクキモい」


 とか、


「ホントにキッモイわねアンタ」


 とかである。いや、キモキモ言われすぎだろ。


 だがここにも疑問があった。罵倒は以前からやられてきたことであるが、攻撃はあまりされてこなかった。


 いや、つねったりとかは全然されてきたけれど、なんというか、頬をひっぱってきたり(結構力が強くて痛い)、背中をネイルで刺してきたり(完全な痛めつけだ)と色々とされてきた。以前はそこまでだったのだが、小鳥遊さんや金城さんが僕をからかおうとしているのと同様に、段々とエスカレートしている。


 もはや迫害なのでは、と考えるが、蝶番さんは良好に話しかけてくれながらそんな感じでやってくるため、そう決めつけるのは難しいところである。もし本当に彼女にそのような目的があれば、早急にそれ相応の対処をとるつもりだ。少し痛いことをするかもしれない。


 僕としては、あんまり彼女を傷つけたくないし、そもそも彼女の性格上、人が本当に嫌がることはしてこないはずだ。それに意外と真面目だし、こうやって塾に来て勉強をしているわけだから、根は本当はいい子なのだろう。


 横目で彼女を見る。


「……」


 綺麗な横顔。やはり美人だ。きめ細かい肌、サラサラな黒髪。整ったお顔。うむ、美しい女性だ。


 だけど何故か不満そう。横顔だけど、それくらいは分かる。


「ここの問題難しい……。うん、分からん。オタク、教え……」

「あ……」


 僕が彼女の横顔を見ているのを、完全に知られてしまった。やばい。気持ち悪がられる。顔が引きつりながら、僕は罵倒を覚悟する。そして同じく痛い目を見ることを覚悟する。正直嫌だけど、こればっかりはどうしようもない。僕が気持ち悪がられるの確定なことをしているからだ。しかもそれをどう妥当としているのが悪い。


 もはや自分を責める始末。そうじゃないと、誰を、何を他に……そうだ、蝶番さんの顔が綺麗すぎるからいけな……いや、ダメだな。慌ててそんなことを言えば、もっと気持ち悪がられて、もっと酷い目に遭いそうだ。


「何よ? 何見てんのよ?」

「え、えっと……あの、はい……。蝶番さんの顔を見てました……。すみません。どうぞ、ビンタしてください」

「はぁ? なんでビンタしなきゃならないのよ? もしかしてアンタってドMなんですかー?」

「いえ、ドMではないですけど……。って、え? 何もしてこないの?」

「はぁ? 何かするとでも?」

「うん。だっていつもなら『キモいっ!』とか言って……」

「ふーん」


 考えるような素振りを見せる蝶番さん。どこか知的でカッコいい。


「アンタがしてほしいならいつでもするけど?」

「いえ、してほしくないです……! しなくて結構ですので、その右手をお納めください……!」

「あははっ! 焦りすぎでしょ、アンタ! ウケる」


 うーん。読めない。何故だ? 何故してこない? 何も言わず、何も手を上げず。


 分からない。何故なのかは分からない。



 ****



「それでぇ? どうしてアタシの顔、見てたの?」

「え……」

「自分で言ってたじゃん。アタシの顔、見てたんでしょ? なんでか聞いてるんだけど?」

「……。絶対に『キモい』とか罵倒しないでよ? あと蝶番さんが、僕の理由に拒絶反応を起こしても、暴力はしないでね?」

「しないしない。しないから言ってよ」


 少々恥ずかしいが、僕は正直に言った。ここで嘘をつくのも一つの手だが、彼女が何もしてこないことを信じて、ありのままの理由を話した。


「蝶番さんの顔って、綺麗だなーって思ってさ……。ついつい見入っちゃってた……」

「ふーん、キモ……」

「はい言った。もう一生蝶番さんのこと信じません」

「言ってない。『キモい』とは言ってない。短縮して『キモ』って言っただけ」

「言ってるんだよ、それ。短縮はつまり元の形に直せばそれになるんだから。屁理屈でしかないよ」

「言ってないもーん」


 子供かよ。得意そうにそういう彼女。どこか女の子らしさというのが垣間見れた。小悪魔っぽい、生意気な感じが可愛かった。


「はぁ……。それで、どこが分からないの?」

「あっ、話逸らしたー。恥ずかしいんだろー? ウケるー!」

「……」


 盤面を支配しているのは、紛れもなく蝶番さんだ。完全にコントロールされている僕。何もできない。


「アタシの顔、綺麗って思って見てたんだ……?」

「う、うん……」

「ま、悪い気はしないわね」


 普通悪い気しかしないだろ。なんで僕に言われて少し嬉しそうなんだよ。


「さてと……。ここの問題なんだけど……その前に、メガネ外してくれるかしら?」

「うん、いや、なんで? 急だなぁ、何か意味あるの?」

「いいからいいから」

「また何かするんでしょ?」

「しないしない」

「絶対するじゃん……」

「隙アリッ!」

「あっ!」


 簡単に強奪された僕のメガネ。高くもなく安くもない、ただの度の入ってない自分の顔を隠したいがためのメガネだ。ああ……またこの状況。多分数分は返してくれないな、これは。


「返し……」

「はいその状態でー?」


 スマホを上にかざす蝶番さん。僕と彼女のツーショットが画面に映り込む。自撮りというものをしているのだ。


 パシャリ、と音が鳴る。写真が撮られた合図だ。


「うん、このツーショット、音葉が見たらなんて言うのかなー?」


 は? いや、は?


 本当に読めない子だと、改めて思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ