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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第19話 オタクっちにしてもらいたい

「やめなー」

「あぅー……。あ、瑠璃奈ー」


 蝶番さんは、金城さんの頭を鷲掴みにして、ぐわんぐわんと動かして弄んでいた。右は左へ、前へ後ろへ、たまに大きく回してみたりと、金城さんが首を痛めてしまいそうで少し怖い。振り回しているせいで、金城さんの金髪は乱れてしまい、何発も僕の顔に当たっている。ムチのようにしなり、蝶番さんにされたビンタの時よりは威力は弱めだが、それでもある程度の攻撃性はある。


 普通に痛いし。それに金城さんは髪の毛にヘアピンが付いているため、なんだか刺さってきそうで危険だった。そんなことをされている僕など見向きもせず、蝶番さんは夢中で金城さんの頭を振り回す。何度も何度も、ぐわんぐわんと。


「うぁー……! やめてよ瑠璃奈ー、なんか気持ち悪くなってきたからー……!」

「あらごめん。振り回し過ぎちゃった」

「もうー! いきなりあんなことするなんてひどいよー! ウチ、びっくりしちゃったじゃーん!」

「ごめんって。だって音葉が好き勝手オタクにやっちゃってて、これは止めないとなー、とか思ってね。それで止める目的と小さくて可愛い頭してる音葉の面白い反応を見るためにしたってわけ」

「ウチの面白い反応って……。ただ気持ち悪くなっただけだと思う」

「三半規管が弱すぎるんじゃないの?」


 蝶番さんの一言に小鳥遊さんが笑った。大きな声で笑った。クラスの人は全員その声の方に顔を向ける。


 あれ? これマズい状況では?


「や、やばいよ金城さん……。すっごい見られてるって……!」

「んー? なぁに? 見られてると、何かいけないことでもあるのかなぁ?」

「いけないことだらけだだよ……! 逆にいいことなんてどこにも、なにもないくらいだよ……! と、とにかく早く降りて……!」

「やだ……」

「お願いだよ……! なんかみんなの僕の評価がどんどん塗り替えられていって、女たらしみたいに思われるから……!」

「もうだいぶ女たらしなのではー?」

「金城さん……!」


 すると蝶番さんが動く。金城さんの背中を持ち上げて、強制的に立たせることに成功した。


「何するのよ、瑠璃奈ー!」

「オタクがやめろって言ってんだからやめてあげなよ。それに、あのままあの体勢を続けてたら、このクラスの男子の反感を買って、校舎裏でボコボコにされるオタクを見ることになるよ? いいの?」


 もうすでに買っているのでは?


「うっ……。た、たしかにオタクっちがボコボコにされるの想像したら……」

「でしょ? そういうことも全部考えて行動しなよ。本能のままに生きてるんじゃダメなの」

「そ、そうだね……。これからは気をつけて……って、それじゃあウチが理性のない子みたいじゃん!」

「違うの?」

「違うよ!」


 全力で否定する金城さん。怒っているみたいだった。


 金城さんは首を回すようにして、何かを表現していた。なんだ? なんのアピールだ?


「うーん。な、なんか……」

「どうしたのー? 音葉ちゃん?」

「いやぁー、なんか、変だなぁー」

「変? たしかに、今日はいつにも増してオタクと距離が近いからな。やっと気づけてよかったじゃん」


 蝶番さんって意外とボケ性能高いな。いや、煽り性能か? それでも彼女の金城さんに対する返しが面白いことには変わりない。


 またも金城さんは否定する。


「そういうんじゃなくて! さっき瑠璃奈にやられたやつが今ここで効いてきたの!」

「どんな風に効いて?」

「えっ? うん! 痛い! 瑠璃奈のせいだよ!」

「ごめんって。だって目の前に可愛い頭があったら触りたくなっちゃうでしょ?」

「それは瑠璃奈だけだよ……。というか、それならウチより全然瑠璃奈の方が本能のままにしてると思うんだけど……」

「気のせい気のせい」


 蝶番さんは笑って誤魔化した。うぅー、と唸る金城さんは、これまでのことは全てなかったかのように僕を標的とする。それは鋭い眼光ではなく、とてつもなく可愛い上目遣いだった。大きな目を輝かせながら、パチパチと瞬きをしている。


 何かを訴えかけてくるような感じだった。


「な、何か……?」

「んー!」


 自分の首に指を差し、そしてまた彼女は僕を見る。可愛い瞳だった。綺麗な瞳だった。甘い瞳だった。


 あ、今、自分の顔が赤くなった気がする。見つめられて、顔が赤くなった。金城さんが可愛すぎて、ついなってしまった。自分でも分かるくらいに……。


 僕ってこんなに顔に出やすかったかな……。自分の気持ちは、ずっと心の中で隠し続けていたはずだ。誰にも察することができないくらいに、以前までの僕はなんでも隠していたのに……。


 まさか僕は、人と触れ合うことで、そのようなことを出来るようになったというのか。だとすれば、今こうして、僕が高校生として、一人の学生として、一人の少年として、ここにいるのは決して《《無駄なこと》》ではなかったんだな。


 そうか。そうか。やはり、《《あの閉鎖的な空間から抜け出して》》正解だったんだな。


 嫌な記憶を思い出し、そのせいで赤く、そして熱くなっていた顔は段々とクールダウンしていった。一気に冷たくなり、体も熱を持たなくなる。僕の周りの全てが冷たくなるくらいの勢いで、冷える。


 さて、目の前にモヤがかかって、ついにマズいと思い、やっと我に帰った。


 金城さんは不思議そうに僕を見ていた。可愛いが、僕は顔が赤くならなかった。


「オタクっち? なんか具合悪そうだね?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。どこも悪くないよ」

「そっか……。じゃあここ! ここ揉んで!」

「……なんで?」

「痛いから、揉んだら和らぐかなーっと思ったの。はやくはやくー!」

「え、いや……」

「なぁに? オタクっちの好きな音葉ちゃんの首が逃げちゃうぞー? いいのかなぁー?」


 好きとかじゃないんだけど。逃げてもらっても構わないんだが……。僕はチラリと小鳥遊さんの方を見る。


「オタクくんが頑なにやろうとしないからー、ボクが代わりに揉んであげるよー」

「……ん、分かった」


 不機嫌そうな金城さんは、近くにいる僕にのみ聞こえるくらい小さな声で……。


「オタクっちにしてもらいたかったなぁ……」


 と、言った。


 僕は逃げるように図書室に行く。

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