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クラスで目立たない超絶陰キャの僕は、三人の美少女ギャルに毎日言い寄られてかなり困ってます。  作者: 戸松原姉線香


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第17話 呆然とする真面目ギャル

 店の中で騒ぐな、と先輩の従業員さんに怒られてしまった。そうだ。そうだった。まだ僕のバイト時間が終わっていても、店はまだ営業をしているのだ。それに少しというか、多くはないがお客さんはいる。相変わらず店長は、怒られた僕を見ながら笑いっぱなしになっており、ニヤニヤといやらしく金城さんを眺めていた。


 楽しそうな店長に、僕は照準を合わせて完全にロックオンする。逃がさない。逃さない。絶対に仕留めてやる。そんな心持ちで僕は当人に近づいていく。


「店長ー? ちょっとお話があるんですけれどー?」


 優しい声で言ってみるが、店長は僕が怒っていることに気づいていた。ニッコリと微笑んでも、それは建前であり本心はめちゃくちゃ怒り狂っている状態であることにも、当然気づいている。


 そそくさと隠れる店長。いや、隠れても無駄ですよ?


「隠れてんじゃねーよ、店長。おいコラ、さっきまで親切にしてくれてたのかなー、とか思ってたのになんですか、これ。ふざけないでくださいよー?」

「うん? うーん……。めんごっ!」

「めんご、じゃねーよ! お詫びとしてそこの廃棄は僕が全部持っていきますので!」

「えぇっ!? なんでよ!? 二人の距離を縮めるためにやったことなのに! 逆に感謝して欲しいぐらいだわ!」

「僕としては迷惑です。あそこにいる女の子は、嬉しそうに『ありがとう!』って言ってくれましたけどね! でも、僕が告白してるみたいで、色々と人間関係が崩れそうでダメなんですよ!」

「え、なんで? 告白するの嫌なの?」

「嫌っていうか……別に僕、あの子のことを好きとか、そういうわけじゃないですし……」

「あー……」


 何かを察した店長。僕はこの人が、何を察したのか分からない。


「もしかして余計なことだった?」

「余計も余計です! 余計すぎます! こういうイタズラはやめてください! あとあと気まずいです!」

「君は余計だと思ってても、彼女……えーっと、何ちゃんだ?」

「金城さんです」

「その金城ちゃんは嬉しがってたんだろう? ならいいじゃん」

「僕の話聞いてました? なんで蔑ろにするんですか、僕の意見を……」

「金城ちゃーん? ちょっとこっちにいらっしゃーい?」


 無視された。そして店長は遠くにいる金城さんを呼んだ。


「あー、女心が分からない鈍感な君は、とっとと帰って寝なー」

「いや、僕の扱い酷すぎるでしょ。なんでそんな……」

「君が金城ちゃんだね? 彼と仲が良いんだね、さっきのムースは美味しかったかな?」


 またも遮られてしまった。急に対応が冷たくなって、正直悲しいぞ僕は。



 ****



 とっとと帰ってしまおう。そう思った。


 金城さんは店長と大事そうなお話をしているわけだし、僕がいたら話の邪魔みたいに店長は思ってるだろうし、バイトが終わってからも店にいるようなら、もっとバイトの時間長くしろよ、と先輩従業員に怒られるだろうし、そもそも僕もう帰りたいし、金城さんとはさっきのでかなり気まずくなっちゃったし。もうなんか、すごく帰りたかった。


 そんな色々な事情や感情が入り乱れている。


「金城さん? 君はずっと店長と話しているから、僕はもう帰るからねー」

「う、うん……。バイバイ、オタクっち……。そ、それで店長さん、これからはどうやって彼を……」


 えぇー。なんでそんなに興味なさそうにしてるんだろう。気まずいのも関係してるだろうけれど、もっと会釈してもいいのでは……?


 何をそんなに不満に思ってるんだろうな、僕。金城さんに会う前なんかは、知り合いでもなんでもなかったし、会釈なんてされることもなかったのに……。なんで、なんで、何をそんなに、不満に思ってんだよ……。


 店長と話している彼女の横顔を見つめて、そのあとに店を出た。


「風、強いな……」


 歩きながら、思ったことを口に出してみた。時刻は七時過ぎ。夕焼けは段々と薄くなっていき、徐々に徐々に暗くさせていく。


 少し歩いて後ろを見てみた。バイト先からはもう遠くなってしまい、消えるようにぼやけたように、周囲を感じた。


「ん? あれ? 蝶番さん?」

「……」

「蝶番さん、ここで何してるの? もしかして塾の帰りとか?」

「……」

「な、何か言ったらどうかな……。最近もだけど、さっきも冷たくあしらわれてたし……。人間って意外と繊細な生き物なんだからさ……」

「……」

「第一、小鳥遊さんは僕のことを兎みたいに思ってるし……。ま、まあそんなに寂しがり屋なわけではないんだけどねー……。あははー……」

「……」

「あ、あはは……。ああ、そうだ。今日は塾に行けなくて申し訳なかったよ。教えられるところがあればまた今度でも一緒に勉強を……」


 え、反応なし? ひどくない? もうちょっと会釈とか……。


 不満に感じていたことを、また思い返した。


 それにしても、どうしてそんなに驚いたような顔をしているのだろう。もしかしてあれか? 僕が急に話しかけてきたことや、しかも路上であることが関係しているのか? こんなの周りから見れば、陰気なオタクっぽいやつがナンパしてるー、と見てとられてもおかしくないな。


 しかし、そんなことよりも……。


「……」

「あ、あのー、蝶番さん?」

「ん……、あ……。オタク……?」

「オタクっていうのは実は本名じゃないけど、一応三人にそう呼ばれてるから、まあそうだね。というか、やっと反応してくれた」

「あ……うん……。ごめん……」

「今、塾の帰り?」

「帰り……。家、帰る……」

「そっか、気をつけてね。それじゃあ、また明日」

「また……明日……」


 終始、驚いた顔の蝶番さんだった。


 この時、僕はまだ気づいていなかった。


 うっかり、メガネをかけ忘れていたことに……。

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