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第五章 壊れた羅針盤

仲間を起こすアメリア

2人の生活は絶望しかなかった。




アメリアの指先は、リアムのカプセルの開放ボタンの上で、震えていた。孤独は、彼女の理性を少しずつ蝕んでいた。カプセルで眠るリアム。リアムはエンジニアでUFOを信じるロマンチスト、亡き夫の古くからの友人でもあった。彼は家族を失った自分とは違う。妹との約束を果たすという希望に満ちた夢を抱いてこの船に乗り込んだ。そんな彼を、自分の孤独のために絶望に引きずり込んでいいのか。しかし、空腹と孤独は、彼女の思考を鈍らせ、より原始的な欲望に突き動かしていた。

「ごめんね、リアム。一人では、耐えられないの…」

彼女は、震える指で、搭乗者リストにあるリアムのカプセルの開放ボタンに触れた。

カプセルの蓋がゆっくりと開く。彼は、深い眠りから覚め、混乱した表情でアメリアを見た。

「アメリア…?どうしたんだ?もう着いたのか…?」

アメリアは、涙をこらえながら、震える声で語り始めた。目的地までの時間、そして、すでに目覚め、絶望の末に命を絶ったジョンのこと。さらに、そのジョンが生きている間、食料を消費し続けたため、食料が尽きかけていることも。彼女の言葉を聞くにつれ、リアムの表情から安堵が消え、代わりに信じられないほどの絶望が広がっていった。彼の憧れた宇宙は、ただの無限の牢獄でしかなかったのだ。

彼は静かに涙を流し始めた。その肩は小刻みに震え、やがて嗚咽へと変わっていった。しかし、次の瞬間、彼の目は怒りに燃え上がった。

「どうして…!どうして、僕を起こしたんだ、アメリア…!君のワガママにどうして…!」

彼はアメリアを激しく責め立て、カプセルの前で膝を抱えてうずくまった。二人の関係は一変した。空腹は、リアムの理性を少しずつ削り取っていった。アメリアは、その変貌する彼の姿を見るたびに、**底知れぬ罪悪感に苛まれていた。**この悲劇を引き起こしたのは、自分の身勝手な孤独だったのだから。

彼は、食糧庫のドアを力任せに叩きつけるアメリアを、背後から覆いかぶさるようにして止めた。

「おい、アメリア。食いたいか?腹が減ってるんだろ…?」

彼の耳元で囁く声は、もはや人間のそれではなく、飢えた獣の唸りだった。アメリアは恐怖で身体が硬直しながらも、その言葉に抗えなかった。彼女もまた、飢えという原始的な欲望に支配されていた。

「…欲しい…食べたい…」

アメリアが絞り出すようにそう答えると、リアムは満足そうに笑い、彼女の首筋に顔を埋めた。

「だったら、俺の言うことを聞け。俺が食料を分けてやる。その代わり…お前も俺に何かよこせ」

彼の言葉は、アメリアの心臓を凍りつかせた。それは、人間が人間に対して発する言葉ではなかった。しかし、彼女の思考は既に飢えに侵されており、選択肢は存在しなかった。**彼女は、自分がリアムをこんな獣に変えてしまったのだという罪悪感に苛まれながらも、**目を閉じ、この行為が自分の人間性を破壊していくことを理解しながら、ただ生きるためにそれを受け入れた。それは、愛でも、欲望でも、ましてや人間的な行為でもなかった。それは、生きるための、ただの獣の儀式だった。

その夜、二人は食糧庫の前で、互いの尊厳を食い尽くすように、むさぼり合った。それは、食欲と性欲が混ざり合った、おぞましい行為だった。

行為の後、リアムは満足そうに非常食を貪り食った。アメリアは、その様子をぼんやりと見ていた。彼女の目には、もはや何も映っていなかった。それは、彼女が完全に人間性を失い、ただの道具と化したことを示していた。そして、その様子を見たリアムは、狂気じみた笑みを浮かべた。

「食糧がもうない。このままじゃ二人とも死ぬぞ。何か見つかるかもしれない。船の中を隅々まで探してみよう。」

リアムの言葉は、アメリアの心の奥底に響いた。彼女は、再び人間性を回復するために、リアムに協力するしかなかった。

数日後、二人は船内の食糧庫の奥に眠る育成プラントを発見した。


絶望の宇宙船:アメリアとリアムの七日間


1日目:罪と狂気の始まり


「ごめんね、リアム。一人では、耐えられないの…」

アメリアは震える指で、リアムのカプセルを開放した。深い眠りから覚めたリアムは、混乱した表情で彼女を見た。しかし、アメリアは涙をこらえながら、食料が2人で分け合って半年分しかないことを告げた。ジョンが絶望の末に命を絶ったこと、そして、そのジョンが生きている間に食料を消費し続けたため、残された食料がわずかしかないのだと。彼女の言葉を聞くにつれ、リアムの表情から安堵が消え、信じられないほどの絶望が広がった。

彼は静かに涙を流し始め、やがて嗚咽に変わった。しかし、次の瞬間、彼の目は怒りに燃え上がった。「どうして…!どうして、僕を起こしたんだ、アメリア…!君のワガママにどうして…!」彼はアメリアを激しく責め立て、床にうずくまった。二人の関係は一変した。**空腹は、リアムの理性を少しずつ削り取っていった。**アメリアは、その変貌する彼の姿を見るたびに、**底知れぬ罪悪感に苛まれていた。**この悲劇を引き起こしたのは、自分の身勝手な孤独だったのだから。

その夜、アメリアが差し出す僅かな非常食を、リアムはむさぼり食った。アメリアは、その歪んだ姿を見るたびに、自分がリアムの夢と人間性を奪ったのだと自身に言い聞かせた。


2日目:薄れる人間性


食料は共有していた。しかし、日に日にリアムの我慢は限界に近づいていった。彼は、アメリアの従順な態度を嘲笑い、残りの食料を独占しようとするようになった。「お前」と呼び、彼女を道具のように扱い始めた。アメリアは、彼の指示に従うことしかできなかった。彼女の心はすでに空っぽだった。ジョンが死んだこと、リアムを起こしたこと、そしてあの夜の行為。すべてが現実感を失い、ぼんやりとした記憶の塊に変わっていく。彼女の人間性は、少しずつ剥がれ落ちていった。 


3日目:支配と服従


飢えは、リアムの狂気をさらに加速させた。彼は、アメリアを精神的に追い詰める。「お前がジョンを殺した。お前が僕をこんな目に遭わせた」と、根拠のない罵声を浴びせる。アメリアはただ耐え、時折、リアムが与えてくれる僅かな食料のために、彼の要求に応じ続けた。もはや言葉はなかった。あるのは、支配者と被支配者という、冷酷な力関係だけだった。アメリアは、自分がリアムをこんな獣に変えてしまったのだという罪悪感に苛まれながらも、もはやその行為が何であるかを考えることもなかった。それはただ、生きるための取引でしかなかった。


4日目:微かな希望と裏切り


探索を続ける中で、リアムはジョンが残した隠し食料を見つけた。それは、ジョンが絶望の淵で、最期の希望として隠しておいた、数日分の乾燥非常食だった。リアムは歓喜し、アメリアに初めて食料を分け与えた。アメリアは久々に空腹を満たし、涙を流した。しかし、その安堵は一瞬で打ち砕かれる。食料を平らげたリアムは、再び彼女に獣のような視線を向けた。希望は、再び絶望へと変わった。


5日目:記憶の断片と崩壊


アメリアは眠れない夜を過ごしていた。夢の中に現れるのは、笑いながら旅の計画を語るリアムと、優しく話しかけてくれたジョンの姿。そして、ジョンが命を絶ったときの、狂気の姿。そして、リアムがカプセルから出てきて、混乱した表情で自分を見つめていた、あの時の光景がフラッシュバックする。彼女は泣きながら叫び、床にうずくまった。その姿を見たリアムは、嘲笑うように彼女の髪を掴み、囁いた。「お前はもう人間じゃない。俺の所有物だ」。


6日目:終焉の兆し


非常食はほぼ底をついた。残されたのは僅かな水だけだった。飢えは、二人の理性を完全に奪い去った。リアムは、アメリアに再び食料との交換を迫ったが、アメリアはただ虚ろな目で彼を見つめるだけだった。もはや、彼女の心には何も残っていなかった。リアムは、彼女の反応がないことに苛立ち、彼女の喉元に手をかけた。アメリアは、抵抗する気力もなく、ただ目を閉じ、死を受け入れようとしていた。


7日目:再生か、破滅か


意識が遠のく中、アメリアの耳に、リアムの震える声が聞こえた。「ごめん…ごめん、アメリア…」。彼は彼女を抱きしめた。その行為は、狂気に支配されていたリアムの中に、かすかに残っていた人間性だったのかもしれない。

リアムはアメリアの手を強く握り、囁いた。「行こう、アメリア。まだ見つけていない場所がある」。

二人は食糧庫の奥にある、これまで見過ごしていた扉をこじ開けた。中には、制御パネルと、無数の配管が張り巡らされた部屋があった。パネルを叩き、スイッチを入れると、無数のランプが点滅した。

リアムの目に涙が溢れ、彼はアメリアを強く抱きしめた。「アメリア…生きられる…僕たちは生きられるんだ…」。

リアムに人間性が戻ったかに思われた。

しかし育成プラントの操作方法がまるでわからなかった。希望の光は、瞬く間に彼の心に巣食う闇に食い尽くされた。

彼の目は再び狂気に満ちた目に戻った。

エミリーが託したペンダントの砂は、もはや光を宿していなかった。まるで、遠い記憶の残骸のように


温室のパネルにはこう記されていた。


責任者:エラ・ブラウン


エラ。他の乗員の中でも、生物学と植物学の知識に最も長けていた人物だ。彼女こそが、この温室の責任者だった。

アメリアが逡巡していると、リアムが彼女を押しのけ、震える指で、エラのカプセルの開放ボタンを勢いよく叩きつけた。

「これで…生き延びられる…」

リアムは、アメリアの肩に手を回し、狂気に満ちた目で笑った。

「なあ、どうせ僕たちだけじゃ何もできない。みんなで地獄に落ちていこうぜ!」

その言葉を聞いた瞬間、アメリアの脳裏に、ジョンのログに残されたあの絶叫が蘇った。「俺はもう、一人で死ぬのは嫌だ…!」。リアムは、かつてジョンが抱いた絶望と全く同じ場所に立っていた。自分が彼を、この絶望に突き落としてしまったのだ。

彼女は、リアムの狂気的な言葉に凍りつき、その手を払いのけようとした。しかし、リアムの目は既に理性を失い、ただの獣の光を宿していた。彼は、彼女の抵抗を無視し、まるで獲物をいたぶるかのように、震える指でカプセルの開放ボタンを勢いよく叩きつけた。

カプセルの蓋が鈍い音を立てて開き、エラはゆっくりと目覚めた。彼女は、目の前の2人をみて、困惑した表情を浮かべていた。しかし、その表情は一瞬で消え、代わりに冷徹な、プロフェッショナルの目が浮かび上がった。リアムが狂気の笑みを浮かべたまま状況を語り終え、船内に沈黙が満ちた。エラは、メインコンソールの航行状況や食料の残量を冷静に確認していった。


ちょっと長かったかな?

感想、リアクション待ってます。

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