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リアム・アトラスの物語

もう少し我慢してね

 


 リアム・アトラスは、生まれつき優しい心を持っていたが、それは同時に彼を弱く、優柔不断な人間にもしていた。


 彼の人生を決定づけたのは、人類が初めて宇宙船を建造するより遥か昔に、地球に飛来したとされる未確認飛行物体(UFO)の記録映像だった。


 彼の両親は、その映像をただの作り話だと笑ったが、リアムだけは信じていた。彼はその未知なる技術に魅了され、いつかその謎を解き明かすことを夢見て、エンジニアの道に進んだ。




 しかし、彼の個人的な夢は、やがて家族の希望へと変わっていった。彼の妹、エミリーは、地球の汚染された大気によって肺の病を患っていた。医者は、清潔な環境でなければ、彼女の命は長くないと告げた。




 その頃、人類の未来をかけた「方舟」計画が発表された。それは、リアムが憧れた宇宙への旅であると同時に、愛する妹を救う最後の希望だった。




 彼は生命維持システムのエンジニアとして「方舟」計画に志願した。エミリーもまた、地球に残された冷凍睡眠施設で、新天地からの連絡を待つために眠りについた。




 リアムは、この船の冷凍睡眠技術が、単に時間を超越するだけでなく、10万年という歳月をかけて人類の遺伝子を再構築し、あらゆる病を克服すると信じていたのだ。彼は、到着した新天地で、妹が健やかに生きられる世界を築けると信じていた。


 冷凍睡眠に入る直前、妹は彼に手作りの星のペンダントをくれた。それは、星の形をしたガラスの中に、きらきらと光る砂が閉じ込められていた。




「リアム兄ちゃん、これを持っててね。どんなに暗い道でも、この砂が光る限り、一人じゃないってことだよ。だって、この砂は、二人で集めた、あのビーチの砂なんだから…」




 しかし、リアムには誰にも言えない秘密があった。彼は冷凍睡眠システムの設計段階で、小さなバグを見つけていたのだ。それは、システムが長期間の航行中に、ごく稀に特定のカプセルを強制的に覚醒させてしまうという致命的な欠陥だった。


 彼はこの事実を上層部に報告したが、




「些細なバグだ。計画の遅れは許されない」




 と一蹴され、強く反論することができなかった。優しい性格と、上司に逆らえない彼の弱さが、最悪の悲劇を招くことになる。


 リアムは、いつかこのバグが誰かを苦しめることになるだろうと、胸の奥にわだかまりを抱えたまま、冷凍す睡眠に入った。


 彼は、10万年という気の遠くなるような旅の果てに、妹が健やかに生きられる新天地に到着することを夢見ていた。


 しかし、この後アメリアによって目覚めさせられた彼は、自らがそのバグの犠牲となったことを悟ることになる。


 憧れの宇宙は、妹を救う希望の場所ではなく、彼を永遠に閉じ込める牢獄だった。




 そして、彼を助け出すはずだった兄貴分のジョンは、絶望の果てに狂ってこの世を去ることを知らされる。




 憧れと希望の全てを奪われ、愛する妹との約束が永遠に果たせなくなった絶望。


 そして、彼の心を蝕む孤独と狂気の暗闇。


 妹にもらった星のペンダントの砂は、次第に光を失っていくことになるのだった。



読んでくれてありがとう!

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