第四章 一人の嘆き、二人の罪
おぞましい展開になっていきます。
アメリアは、全てのカプセルに異常が無いか確認をしていると、一つのカプセルが既に開いていることに気づいた。その瞬間、彼女の心臓は凍りついた。
彼女は震える足でカプセルに近づいた。薄暗い光の中、中の人物は、苦悶に顔を歪ませたまま、完全に動きを止めていた。
まるで**凍りついた彫像のように、息絶えていた。
**その男性の目は虚ろに天井を見つめ、口は何かを叫ぼうとして開かれたままだった。
彼の体からは、わずかに血の鉄臭い匂いが漂っている。冷凍睡眠ステムを無理矢理こじ開けようとしたのか、血の滲んだ爪痕がその顔と胸に残されていた。
通路の壁には、爪で引っ掻いたような無数の傷が残されていた。それは、何かに取り憑かれたように、何度も何度も同じ場所を往復した痕跡のように見えた。
彼女は、その爪痕が、一つの場所で終わっていることに気づく。それは、アメリアが閉じ込められていた自分のカプセルの前だった。
メインコンソールの横にある日誌端末の画面が、かすかに点滅していることに気づいた。
アメリアはそれに触れる。日誌には、亡くなった男性、ジョンの名前が表示されていた。驚くべきことに、その記録の日付は、彼女が目覚める3000年前のものだった。
彼の絶望的な旅は、アメリアの知る誰よりも先に、そしてはるかに長く続いていたのだ。
端末を操作すると、彼の残した複数のログが目に飛び込んできた。
ログ1:
「目覚めた。なぜだ?…何もない。誰もいない。聞こえるのは自分の心臓の音と、この船の低い唸りだけだ。ここはどこだ、思い出せない。。誰かいるのか?応答しろ!…応答してくれ…」
ログ500:
「もう何日経ったか分からない。声が聞こえる…幻聴か?違う。誰かが俺を呼んでいる。目を覚ましてくれ、頼む…この暗闇を、誰かと分かち合いたいんだ。頼む…誰でもいい、起きてくれ…!」
ログ1000:
「俺は、俺だけがこんな目にあっているのか?なぜだ…なぜ俺だけを起したんだ!答えろ!お前たち、裏切り者め…!この絶望を、お前たちにも味わわせてやる…!俺はもう、一人で死ぬのは嫌だ…!」
ログ1500:
「食糧がどんどん減っていく…。どうしてだ?…もう、どでもいい。こいつらを起こしてやる。俺と同じ地獄に引きずり込んでやるんだ…!そうすれば、俺も、一人じゃなくなる…!なあ、いいだろう?なあ…!?」
そのログに付随するホログラムデータが、かすかに光を放った。そこに映し出されたのは、まさにジョンの最期の姿だった。
彼は狂気に満ちた目で、アメリアのカプセルの前に立ち尽くしていた。そして、**無数の血痕がついた拳で、何度も何度もカプセルを叩きつけ始めた。**ホログラムの映像は、まるで時間と空間を超えて、その内に眠るアメリアに絶望を伝えようとしているかのようだった。
アメリアは、自分が目覚めたカプセルに、確かに彼がつけたと思われる歪みと、薄い血の跡が残っていることに気づく。
それは単なる物理的な傷ではなく、3000年の時を経て、狂気が彼女の決意を蝕む、おぞましい予言のように思えた。
アメリアは、ジョンの最期を見て、自分が今手にしている青い小瓶を握りしめた。小瓶は、暗闇に閉ざされた彼女の心に、甘い毒のように誘惑をささやいていた。
これを飲めば、この身を切るような孤独から解放される。
しかし、彼女は安らかな死を約束する小瓶を握りしめながらも、その手を止めた。脳裏に、あの老人の言葉が蘇る。
「それはただの空虚だ」
もしここで死を選べば、彼女が信じた希望は、本当にただの空虚になってしまう。家族を失ってなお、生きることを選んだあの日の決意を、ここで簡単に捨ててたまるか。この旅の果てに、必ず何かを見つけ出さなければならない。
だが、再度の冷凍睡眠という最後の希望すらも打ち砕かれた時、彼女は**「一人の嘆き」の罪と、「二人目の罪」**の狭間で立ち尽くした。
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