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第三章:虚空の里程標いしるべ

やっと脱出できた彼女に待ち受けるさらなる絶望



カプセルから這い出したアメリアは、安堵と恐怖がない交ぜになった感情で、薄暗い通路に倒れ込んだ。冷たい床の感触が頬に伝わる。微かに香る、消毒液と機械油の匂い。


彼女は、自分のカプセルを含む7つのカプセルが、まるで祭壇に安置された棺のように、円を描いて並んでいるのを見た。その中央には、小さな青い小瓶が一つ、床に転がっていた。




なぜ、カプセルから出られなかったのか。


なぜ、今になって開いたのか。


そして、なぜここにこの小瓶が?


アメリアは小瓶に手を伸ばした。その時、彼女の脳裏に、かつて受けた研修の記憶が蘇った。




研修内容:緊急時のプロトコル




「緊急事態が発生し、冷凍睡眠システムが停止した場合、生存者はこの小瓶を使用することができます。これは、安らかな死を約束する、強力な神経毒です。この薬は、苦痛なく、永遠の安らぎを与えます。ただし、これは最終手段であり、使用は、すべての希望が絶たれた時に限られます。」




記憶は途切れ、アメリアは再び現実へと引き戻された。彼女の手は、今、まさにその青い小瓶を握りしめていた。小瓶は、まるで彼女を誘惑する悪魔のように、甘い言葉を囁いていた。


飲んでしまえば、この身を切るような孤独から解放される。しかし、それは家族を失って生きることを選んだ自分への裏切りではないか? 彼女は、生と死の狭間で揺れ動いていた。




その直後、船内のメインシステムが、まるで長い眠りから覚めたかのように、低い駆動音を鳴り響かせ始めた。船内のライトが次々と点灯し、冷たい光が通路全体を照らし出す。




「…あぁ、そうか…」




唐突に、全ての記憶が鮮明に蘇ってきた。それはまるで、途切れていた映画のフィルムが再び繋がり、上映を再開したようだった。地球の崩壊が迫り、人類は、たった一つの希望として、宇宙船**「方舟アーク」**を建造したこと。この船に乗り込んだのは、選ばれた7人の乗員、すなわち彼女と他の6人の仲間だったこと。そして、この船の目的地が、地球から10万光年離れた新天地であること。


なぜ自分だけが目覚めたのか。なぜ他のカプセルは開かないのか。




彼女はメインコンソールへと向かった。パネルに映し出された文字を見て、彼女の心臓は凍りついた。




航行状況:完了50%


目的地まで:残り5万年




気の遠くなるような、永遠にも等しい数字。5万年。


その時、脳裏にあの老人の声が響く。




「それはただの空虚だ」。




漆黒のコーヒーの底に見えた「希望」は、まさにこの5万年という空虚な旅のことだったのか。


彼女が愛した家族や友人は、5万年も前に滅びた地球と共に、すでに塵と化していた。この絶望的な事実に、彼女は完全に孤独であることを悟った。


アメリアの8時間の苦痛は、5万年という孤独な旅の、たった一つの序章にすぎなかったのだ。




「…まだ、終わりじゃない。希望は、まだある…!」




彼女は自分に言い聞かせるように、震える手でメインコンソールを操作した。画面に表示されるカプセルリストを、何度も何度も確認する。


彼女の唯一の希望は、この船の冷凍睡眠システムを再起動することだった。もし、再び眠ることができれば、この孤独な旅を終わらせることができる。




「再冷凍睡眠、実行!」




彼女は、祈るようにコマンドを実行した。しかし、パネルには無情なメッセージが表示される。




『エラー:システム非対応』


『再冷凍睡眠プロトコル:ロック』




画面に表示される文字は、まるで彼女の存在そのものを拒絶しているようだった。


何度試しても、結果は同じ。システムは、彼女を再び眠らせることを拒否していた。


まるで、この船の意志が、彼女に「生き続けろ」と命令しているようだった。


その事実を悟った時、彼女の心に最後に残っていた希望の光が、音を立てて消え去った。



読んでくれてありがとう!

ここからの展開楽しみにしててね。

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