第一章:最後の棺
冷凍睡眠カプセルのトラブルで最初に目覚めたアメリアは、一人きりの船内で、想像を絶する孤独と恐怖に襲われる。
彼女運命は?
意識が浮上する。それは、深い海の底からゆっくりと上がってくるような感覚だった。
五感が途絶した闇の中で、最初に感じたのは、自身の血液が脈打つ音、そして、凍てつくような冷たさだけだった。
アメリアは、硬質な何かに全身を包まれていることに気づく。それは、まるで自身の体を型取った石棺のようだった。
「……誰か、いるの?」
彼女の口から漏れたのは、か細く震える声だった。
目を開けても、そこに広がるのは、一切の光を拒絶する漆黒の闇だった。
どれほどの時間が経っただろうか。時間の感覚すら失われた闇の中で、彼女はただひたすら恐怖に耐え続けていた。
ふと、彼女は自身に問いかけた。なぜ、自分は生きている?
もはや何も感じない。何も考えられない。しかし、なぜか、わずかに残った理性だけが、このまま死ぬことを拒絶していた。
その時、かすかな電子音が、漆黒の静寂を破った。
彼女ははっとした。
それは、どこか遠くで鳴っているような、微かな音だった。耳を澄ますと、それは自身のすぐ近くから聞こえてくることに気づく。
全身の力を振り絞り、微かに震える指先を壁に這わせる。
硬く、滑らかな壁。その感触を頼りに、指をゆっくりと滑らせていく。
そして、ついにその指先が、冷たい表面に触れた。
震える指でなぞると、冷たい表面に数字と記号が浮かび上がる。
パスワード入力パネルだ。
「これよ、これしかない……!」
彼女の心に、枯れかけた希望の火が燃え上がった。
両親の誕生日、友人の名前、飼っていた猫の命日……。頭に浮かぶあらゆる数字の組み合わせを、血眼になって入力していく。
何度も、何度も、失敗の赤いランプが点滅する。
「なんで、違うのよ!?」
しかし、彼女は諦めない。喉が焼け、指先が痺れても、機械的な動作を繰り返した。何千回、何万回と、無意味に思えた試行の果て。
その時、脳裏に一つの光景がフラッシュバックした。
それは、子供部屋の壁に隠した宝箱。蓋に刻まれた、彼女と父親だけが知る暗号。遊び心で決めた、意味のない数字の羅列。なぜか、その時だけはっきりと、その数字が鮮やかな色を伴って脳裏に浮かび上がった。
「ああ、これだ……!」
彼女は震える指でそれを打ち込むと、パネルはカッと緑色に灯った。
彼女の胸に、一筋の光が差し込んだ。
しかし、それはすぐに絶望へと変わる。
カプセルの蓋は、開かなかった。
「嘘でしょ……?」
それから、地獄のような八時間が過ぎた。
最初の数時間は、怒りと絶叫だった。彼女は全身の力を込めて蓋を叩き、蹴り、喉が張り裂けんばかりに叫び続けた。
「開けて! 開けてよぉっ!」
しかし、その声はただ虚しく闇に吸い込まれていくだけだった。まるで、彼女の存在そのものがこの宇宙から隔離されてしまったかのようだった。
やがて、喉は焼け付くように痛み、声はかすれ、最後には意味をなさない嗚咽しか出なくなった。
続く数時間は、絶望と疲労が彼女を苛んだ。壁を叩き続ける指先は血が滲み、感覚がなくなっていく。体中の水分が枯れ果て、唇はひび割れ、舌はザラついていた。飢えも、渇きも、恐怖も、そして生きる希望も、すべてが薄れていく。
自分はここで死ぬのだと、彼女はぼんやりと悟った。
最後の数時間、彼女はただ硬いカプセルの底に横たわり、遠くで聞こえる単調な機械音だけを子守歌のように聞いていた。動くことも、考えることもできなかった。もう、抵抗する気力すら残っていなかった。
その時、カプセルの蓋が、かすかに震えるのを感じた。蓋はゆっくりと、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく開き始めた。
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