3. ときめけ、三谷(三谷視点)
今日こそは、
今日こそは、
食事に誘ってみよう。
ディナーのハードルが高ければ、
ランチ、
そうだ、ランチでもいいのだ!
チーム発足食事会 という名目もあるし、
いける!
これならいける!!
三谷帰社。
「ただいま戻りました。」
長濱はーーー?っと 早速探してしまう三谷。
おー、いたいた!
長濱の向かいの席。
自然と視界に入れる特等席^^
「ただいま、長濱」
・・・俺から話しかけたぞ、
今日は進歩だ!!
成長を自ら噛み締める。
「お帰りなさい。
こちら、処理しておきました。
あと、こちらも資料作成し、
こちらのコピーもとっておきました。
是非お使いください。」
長濱からの思ってもいない返答に、
「…。」
沈黙の三谷。
なんてこった!
嬉しすぎる、嬉しすぎるぞ(涙)
・・・でも、
あからさまに喜ぶと長濱のことだ、
俺をもっと喜ばせるために 無理をしちゃうんじゃ・・・
それはダメだ、
長濱に負担をかけるようじゃあ、
一歩進んだ関係なんて 夢のまた夢。
よし、ここは・・・
「長濱さん、」
「はい、どうしましたか?三谷さん??」
「長濱さん、こーゆーのいいから。
これ、全部今朝始業前に終わらせてるから。
意味ないから。」
よし!これで 長濱の負担は減らせた!
よしよし!!
食事に誘ってみよう!!!
そう思って、三谷はメイの方を向き直した。
メイは目を丸くして、黙り込んでいる。
そして、
「あ、すみません、三谷さん。。。」
??? 三谷の頭の中「?」で一色。
なぜ?なぜ謝る???
そう言ってメイは席から立ち上がり、
別の業務へと取り掛かっていった。
・・・あ、あの・・・
食事会・・・
・・・。
唖然とする三谷を横目に、
石川先輩がため息をついたのは言うまでもない。
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次の日から1週間の出張。
夜、ビジネスホテルで
ビール片手にテレビを見ていた。
偶然つけた番組はバラエティ番組。
男性アイドルたちが女性ファンをときめかせるトークを繰り広げ、
胸キュン数を競う。
眉間に皺がよった。
学びが多い。
教育番組かと思うほど。
食い入るように見ていたら、
携帯がなった。
石川先輩だ。
「おーい、契約取れそう?
うまくいきそう???」
「はい、なんとかなりそうです。
明日のプレゼンでなんとか決めたいと思っています。」
「そーかそーか、三谷なら問題ないか^^
ところでさ・・・
長濱のことなんだけど、
昨日見てて思ったんだけど・・・」
三谷はビールを置いて、
テレビも消して、
携帯を握り直した。
「はい、どうしました??」
三谷にとって、石川の存在はどんどん大きくなる。
師匠!と呼び始めるではというレベル。
アドバイスを求めたい意欲が電話越しからも伝わった石川は
少し笑いかけたが、
そんな三谷の気持ちに応えたくて、
気持ちを仕切り直した。
「まぁ。俺がどうこういう立場じゃないのはわかるけどさぁ・・・
嬉しい時は『ありがとう』が正解だと思うよ。
昨日、明らかに長濱ががっかりしていたように思うよ。。。
お前をサポートしようとあそこまで資料まとめてくれて、
そこは感謝の気持ちが先だろ。
好き嫌い以前に、あの時の反応は・・・残念に思ってると思うよ。」
その夜、いや、その週の俺は、
反省と自分の愚かさを見つめ直した。
眠れないほどに・・・。
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週明け、久しぶりの支店。
「ただいま戻りました」
お帰りなさいー!!と早速女子に囲まれも
心ここにあらず。
やっと自席に辿り着いた三谷の目の前はもちろんメイの席。
自分の視界に意図せず長濱が入ってくれる・・・><
久々のこの状況に落ち込んでいても嬉しい気持ちが込み上げる。
「お帰りなさい、三谷さん。
お疲れ様です。
お手持ちの書類は私が処理しておきますので、
今日は早めに休んでください。」
その言葉に涙が出そうになった。
出張前、あんなにひどい対応をしていたのに、
(俺に悪気はなくて、良かれと思っての言葉だったけど、)
長濱は本当に天使、女神。。。
ここは、 ありがとう がベスト。
石川先輩にも言われたあの一言。
言うぞ、今言うぞ・・・
三谷はメイの顔をまじまじと見た。
あれ?長濱、疲れてる???
その瞬間、三谷は
「結構です。自分でやります。」
やってしまった・・・
三谷は自分にがっかりして、下を向いた。
俺は本当にどうしようもないやつだ。。。
悪気はない、むしろ好意しかない。
伝わらない、伝えられないもどかしさでため息が止まらないよぉ・・・
俺が下を向いている間の出来事だった
長濱が帰宅した。。。
またもや、一部始終を目撃していた石川。
今日は無言で三谷の肩にそっと手をやる。
先輩の優しさが沁みる・・・。
不甲斐なくてすみません・・・><涙
家に帰る気にもなれなかったので、
来週の商談の準備をすることにした。
仕事をしていると気が紛れる。
そうだ、資料庫の書類を取りに行かないと・・・
資料庫の電気をつけ、
数あるファイルの中から、必要なファイルを一つ手に取った。
これこれ!
ファイルを自分の机に運び、
広げた途端に薄い黄色の大きめの付箋が目に入った。
《三谷さん
よろしければこちら使ってください。
長濱》
・・・【キュン】
胸が苦しくなるのがわかった。
変わりたいと強く思った。
そしてこれが 『ときめく』 ということなのだと
身をもって知った。
明日こそ!!!
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次の日。
いつも通り始業時間より2時間前に出勤。
支店の鍵を開け、電気をつける。
今日も一番乗り。
みんなが出勤してくる前に、
いつも加湿器の水を交換したり、
空気清浄機の清掃もやる。
時間がある時は、みんなのデスクも除菌シートで掃除する。
一通り終わったかなーーーっと、
支店内を見渡すと・・・
長濱???!!!
そ、掃除に集中しすぎていて
全く・・・全く気づかなかった(汗)
まずは、あ、挨拶だ・・・
そう言って、メイの席へ向かう。
席まで行くと気配に気付いたのか、
長濱が振り向いた。
「お、おはようございます。」
メイからの挨拶でホッとした。
昨日のことがあったので、
無視されることも覚悟していたからだ。
「おはよ。早いね、今日。」
言えた!言えたぞ!挨拶が言えたーー!
「あーーー。。。そーですね。
三谷さんも。」
「俺はいつも始業前2時間前には出社してるから。」
…会話が続かない。
長濱、ごめん、
俺と会話したくないよなぁ・・・
でも、昨日心に決めたんだ、
思ったことを言葉にして伝えるって!!
落ち込んでたって 前の進めない。
「あのさ、、、
ありがとね。」
三谷が勇気を出した瞬間だった。
小さな声ではあったが、
三谷にとってはとても大きな進歩だった。
「え?」
長濱が顔を上げて 俺の顔を見た。
まっすぐ見てくれた。
目を逸らすのは違うとわかったし、
そらしてはいけないと思った。
でも、自分の顔が赤くなっているのを感じたら、
つい目線を逸らしてしまった。
それでも言いたかった、感謝の気持ちは伝えたい。
「資料庫の…書類…見つけて…」
カタコトになってしまったけど、
気持ちは伝えられた。
心臓がバクバクしていて止まる気配がない。
ドキドキが大きすぎて、落ち着かない。
どうにもならなくて、
その後すぐ長濱に背を向けて
仕事をしているかのように見せかけるのが精一杯だった。
緊張とドキドキで
手の震えが止まるまでは
ここから動けない。
長濱の表情が気になるけれど、
振り向く勇気までは出なかった。