8. やっかいだよ、三谷(三谷視点)
毎日毎日、
変わり映えのない日々。
長濱とあの男の関係が気になる
聞くこともできない。
そんなモヤモヤとした毎日。
繁忙期もおわり、
仕事も落ち着いてきたところで、
余計に長濱のことを考える時間が増えた。
このまま、
長年の俺の気持ちを
押し殺したままだと、
きっと前にも後にもすすめない。。。
勇気を振り絞るのにも疲れてきたが、
これを最後に!!
今日進展がなければ、
今日で終わりにする!!
長年なにも行動に起こしてこなかった三谷にとって、
この決断は諦める口実にもできる、
とても都合の良い決意でもあった。
このうじうじした自分も
モヤモヤした想いも
もううんざり。
やけくそな気持ちが大半をしめていた。
________
その日の仕事帰り、三谷は
メイのあとを追いかけるように走った。
「長濱!」
いつもより大きな声で
自信をもって呼んだ。
「あれ??
三谷さん、どうしました?」
「途中まで一緒に帰らない?」
息切れをかくしながら、
ラフに、気軽に言えた自分に驚く。
不思議と強気に行ける。
「いーですけど、
でも、わたし、今日はラーメン食べて帰るので
途中までなら!」
「だったら、
この先におすすめのラーメン屋さんがあるよ!
一緒にどう??
奢るよ!!」
最後の思い出に!と言わんばかりに
こわいものなし。
積極的に。
「いいですよ!」
と快諾してくれる長濱に舞い上がる。
2人で5分ほど歩いたところで
路地を左に曲がった。
「ここ!ここだよ!!
チャーシュー分厚めで、
スープも濃厚なのに、後味サッパリ。
さ、入ろ!」
と必死に俺が店を指差すと、
長濱が笑い出した。
久しぶりにみた。
この笑顔が好き。
初めて心が高鳴ったのもこの笑顔を見た時。
嬉しくて嬉しくて
「好き」を実感した。
…【キュン】
「ここ、
わたしが行こうとしてたラーメン屋さんです!
ほんっとに 食の好みがあいますね!(^^)
いきましょっか!」
長濱のことを、
めっちゃ好きだ。
モヤモヤなんかしない、
めちゃめちゃ
ハッキリと まっすぐに 好き。
2人でお店に入り、
チャーシュー麺を注文した。
もちろん2人とも。
あっという間に食べ終わり、
お店を出て、
駅まで2人で歩き出す。
「美味しかったーーー」
「美味しかったーーー」
2人の声が揃った。
顔を見合わせて、笑った。
お腹も満たされて、
夜風が気持ちよくて、
なんだか胸がいっぱい。
ふと、
三谷は横を歩くメイをみた。
夜空を見上げるメイの横顔。
満月の夜。
いつもより明るい月に照らされて
いつもより余計に綺麗にみえる。
もっと見惚れていたいと
時間が過ぎるのを惜しく感じる。
このまま。
逃したくない。
月夜にこんなふうに思うなんて、
感傷的になっているのか。
こういう夜は夏目漱石の言葉が思い浮かぶ。
そのとき、メイが立ち止まり、
「三谷さん、、、
ねぇ、みてください。
月が…綺麗ですね…」
まさか、、、
長濱…
驚きと喜びが入り混じり、
顔が赤くなる。
そんなわけないと、
心底わかっているのに。
するとメイが慌てるように、
「ちがうんです!!
夏目漱石とアレではなくて、
あの、ほんとに月が綺麗だなって、、
そうおもっただけで!!
特に意味は…!!」
必死に説明してきた。
わかってた。
わかってたけど、
期待してた自分に嘘はつけない。
このまま、
自分の気持ちの赴くままに
想いを打ち明けることができたなら
彼女はどんな顔をするだろう。
…そんなことを思いながら、
2人でまた歩き始めた。
そして、
三谷もメイがみていた満月を眺めながら
歩くことにした。
なんでも明るく照らしてくれる。
どんな暗闇も
俺の心も
照らしてくれる。
今夜の満月をゆっくり眺めていたい。
そんな気持ちから、
立ち止まる。
つられて隣を歩くメイも立ち止まったのがわかった。
さっきの月に照らされた長濱の横顔が
頭から離れない。
この先も月を見るたび、
鮮明に思い出すだろう。
そう思ったら、
「長濱さん、
月が、、、
月が綺麗ですね。」
と、無意識に、声に出た。
「三谷さんったらー
さっきの仕返しですね
その手には、、、のりませーーーん!」
と笑う長濱が俺の前を歩き出す。
このまま先を歩かれたら、
長濱に追いつかなく気がして、
呼び止めたくて、
見えない何かから引き寄せたくて、
「いえ、
・・・ぼくのは、
夏目漱石のソレです。・・・多分。」
と、小さく、でも強く、長濱に届くように
伝えた。
自分の振り絞った勇気に
震えが止まらなくなり
満月を見つめた。
後悔はなく、
未来への一歩を踏み出した自分に
想いを伝えられた喜びに似た緊張が
気持ちのほとんどを占めて。
月に照らされ、
まぶしさをしっかり受け止めて
落ち着けた。
目線をさげて、
まっすぐに長濱をみた。
長濱がどんな顔をしているのか、
しっかり目に焼き付けておきたくて。
どんな顔であれ。。。
「そう・・・ですか。・・・」
と、一言を残して俺に背を向けて歩き出す長濱の顔は
一瞬 困惑 しているように見えた。
嫌そうでもなく、嬉しそうでもない。
想像していたよりは
ずっとまし…
…それでも、本当のところは、
俺の心の底の底に
ほんの、ほんの少しだけの期待もあったから、
残念に思ってしまった…
欲がでた。
それから、
2人は駅まで一緒に歩いた。
同じペースで。
黙ったまま。
手が触れそうで触れない距離で。
それがまた俺を期待させる…
・・・多分。
厄介なのに
やめられない。