8. やっかいだよ、三谷
アキラと会う日
昔よく2人で訪れたカフェ。
夜は暖かい色の照明がよく映える。
ソファーに座り、
アキラを待つ。
彼はいつも決まって15分ほど遅れてくる。
今日も。
カフェの扉が開き、
アキラが私を見つける。
久しぶりに彼を前にコーヒーを飲む。
彼はいつもミルク多め。
これも変わらない。
変わってないことが多過ぎて、
変わっているのは
彼と私の関係だけ。
「この間は偶然会えるなんて、
びっくりした。
今日も来てくれるなんて、
思わなかった。
本当に、ありがとう。」
「こちらこそ、誘ってくれて
ありがとうね。」
会って話したいというから
もっと重たい話でもするのかと思ったけれど、
その後は、たわいない最近の出来事や
会っていない間の各々の生活について、
笑いながら話した。
昔のように…
コーヒー 一杯を飲み終えると、
そのままそれぞれ帰路についた。
なつかしさなのか、
落ち着ける存在に変わりはなく、
穏やかな時間だった。
それから週に一度くらいの頻度で
コーヒー 一杯 飲み切る時間だけ
一緒にこのカフェで過ごすようになった。
あやまる
ゆるす
そんな関係ではなく、
ただ、
同じ時間を
同じ空間で共有する。
あたたかい時間。
—————
アキラとの時間が自分の心の拠り所になり始めたころ、
繁忙期もおわり、
仕事も落ち着いてきた。
このころには、
三谷への気持ちについて
考えることもなくなっていた。
観賞用だの、
気になるだの、
あれこれ言い訳を考えることも。
もしかしたらアキラの存在も大きかったかもしれない。
ある日の仕事帰り、
「長濱!」
名前を呼ぶ声がして振り向いた。
三谷だった。
「あれ??
三谷さん、どうしました?」
「途中まで一緒に帰らない?」
え?方向違くない?
てか、そもそも久々に話しかけられたかも!
そう思いながら、
「いーですけど、
でも、わたし、今日はラーメン食べて帰るので
途中までなら!」
そうはなすと
「だったら、
この先におすすめのラーメン屋さんがあるよ!
一緒にどう??
奢るよ!!」
珍しく
やたら積極的な三谷。
?
もしかして、明日の会議が心配?
仕事の話でもあるのかな??
「いいですよ!」
木村のことが頭をよぎったが、
お洒落なバーとかならともかく、ラーメン屋なら大丈夫か!笑
と、快諾した。
2人で5分ほど歩いたところで
路地を左に曲がった。
「ここ!ここだよ!!
チャーシュー分厚めで、
スープも濃厚なのに、後味サッパリ。
さ、入ろ!」
とおみせを紹介してくれる三谷。
「ふふふ…ふふふふふ…」
メイは笑いをこらえきれず
声に出して笑った。
「え?なに??」
驚く三谷。
「ここ、
わたしが行こうとしてたラーメン屋さんです!
ほんっとに 食の好みがあいますね!(^^)
いきましょっか!」
三谷もつられて笑いだした。
どこかホッとした様子。
安心しきった顔でわらう三谷に
胸が【キュン】となった。
久々の【キュン】。
だめだめ、彼女もち!!
三谷は彼女もち!!
これだからイケメンは厄介だ。
2人でお店に入った。
もちろん2人とも
チャーシュー麺!
あっという間に食べ終わり、
お店を出て、
駅まで2人で歩き出す。
「美味しかったーーー」
「美味しかったーーー」
2人の声が揃った。
顔を見合わせて、笑った。
お腹も満たされて、
夜風が気持ちよくて、
なんだか胸がいっぱいで。
夜空を見上げた。
まんまるお月様。
・・・きれい。。。
いつぶりだろ、
お月様を眺めるの。
真っ黄色。
ついつい歩くスピードも遅くなる。
合わせてくれる三谷。
メイは立ち止まった、。
月を指差し、
「三谷さん、、、
ねぇ、みてください。
月が…綺麗ですね…」
「…」
三谷からの反応がない。
あれ?
メイが三谷の方を見ると
三谷が顔を真っ赤にしていた…
はっ!!!
「ちがうんです!!
夏目漱石とアレではなくて、
あの、ほんとに月が綺麗だなって、、
そうおもっただけで!!
特に意味は…!!」
必死に説明した。
「で、ですよね?!
わかります!わかってます!」
三谷が丁寧語!!
焦りが口調に出ちゃってるよ!!
あー、うっかりしたー
月が綺麗ですね=i love you
夏目漱石さま、趣がすぎます!www
てか、いまの会話を漱石様の言葉と
繋ぎ合わせる三谷。
どうした?!笑
なんだか面白くなったので、
笑みが溢れた。
2人はまた歩き始めた。
今度は三谷が先に立ち止まり、
つられてわたしも立ち止まった。
「長濱さん、
月が、、、
月が綺麗ですね。」
月を眺めながら三谷がそういった。
「三谷さんったらー
さっきの仕返しですね
その手には、、、のりませーーーん!」
と笑って言った。
私が先に歩き出すと、
後ろで三谷が、
「いえ、
・・・ぼくのは、
夏目漱石のソレです。・・・多分。」
と、小さく、自信なさげにそう言った。
メイが驚いて振り向くと、
三谷はまだ月を眺めていた。
月に照らされた三谷の横顔が
とても綺麗で、見惚れた。
綺麗な顔。。。
メイからの視線を感じたのか、
三谷はメイの方を見た。
真っ直ぐに自分を見つめる三谷を前に、
ふと我にかえった。
「そう・・・ですか。・・・」
メイはゆっくり三谷を背にし、
駅に向かって歩き始めた。
どういう顔をするべきかわからず、
三谷に今の顔を見られることに抵抗があった。
冗談でしょ?と返してもよかった。
でも、その時の三谷の反応は?
冗談だと言われても寂しかったし、
冗談じゃないと言われても、木村さんが、、、。
メイが歩き出したので、
三谷もメイを追うようの歩き出した。
2人は駅まで一緒に歩いた。
同じペースで。
黙ったまま。
手が触れそうで触れない距離で。
・・・多分。
今夜から、
また、気になる。三谷のことが。
帰宅して、湯船の中で今日の出来事を思い返す。
・・・【キュン】 が止まらない。
イケメンは本当に厄介。
・・・多分。