表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏のホラー2025『水の中の世界』

作者: 黒豆100%パン

「はー暑い」



暑い日が続く中、久遠朱音(くおんあかね)は学校の教室でそう呟きながら下敷きをパタパタと仰いでいた。気温は30度を越え暑くて溶けそうなほどだ。あいにく教室はエアコンが壊れていて冷房がつかない。学校の休み時間というだけあって周りからはガヤガヤとおしゃべりの声が聞こえてくる。




「暑い暑い言わないでよー」



後ろの席にいた友人橋本瑞稀(はしもとみずき)もそう言いながら下敷きを仰いでいる。



「瑞稀なんか涼しくなる話ないのー?」


「ねえ、知ってる??もう一つの世界っての」



「何それ??」



「ふふーん知りたいでしょー」



「別に」



そっけなく朱音がそう言うと「聞いてよー」と少し悲しそうに瑞稀が言うので、しょうがないと話を聞くことにした。



「水の中に入るとね、もう一つの世界に行けるんだ。厳密にはもう一つの世界に繋がってるって感じ。場所は全く同じなんだけど、あたりが水に溢れてるいわばパラ...パラリ...」



「パラレルワールド」



「そう!そのパラ何ちゃらワールドに行けるの!」


「本当かなあ...?」



「そこにはこわーい黒い怪物が居てね?脱出するには...」



瑞稀はそう言いかけたがガラッと言う音が鳴って会話を止める。休み時間がいつの間にか終わってたようで次の授業の先生が入ってくる。その瞬間教室内の会話はぴたりと止まり全員先生の方を見た。



「ねえ本当なの?」


小さく先生に聞こえないようにそう言うと瑞稀は「本当だよ試してみる?」と言ってきた。朱音は半信半疑ながらもついていくことにした。


そして放課後になり、瑞稀に連れられて学校のプールに向かった。周りは壁に囲まれていてもちろん入り口には鍵がかかっていたがその鍵を取り出して扉を開ける。本人曰くこの入手経路は言えないとのこと。

中に入るとプールには綺麗な水が張られていて夏の暑さもあって今からでも飛び込みたいぐらいだ。




「でもいいの?プール内に立ち入って」



「ヘーキヘーキ!!少し怒られるぐらいだし」



「それあんまり良くないんじゃないの...?」



そんな話をしながらも朱音はプールを覗く。だが綺麗な水が太陽に照らされて煌びやかに輝いている。なんだか見ていると吸い込まれそうな...。



「あっ!」


その時、朱音は足を滑らせ水の張ったプールの中に落ちてしまった。ドボン!という大きな音と共にひんやりとした冷たい雰囲気が伝わってくる。目を瞑っているため視界が真っ暗になるが目を開けると何故か教室の中にいた。


「何?ここ」



そこは確かに教室なのだが水が足の半分ほどまで浸水していてなんだか薄暗い雰囲気だ。



「おーい、みんなあ?」



そう呼んでみるが誰の姿もない。なんだか先ほどまでと違い冷たい空気がスーッと通っていくような気がした。窓の外は夜なのかと思うほど真っ暗で教室内は電気がついてはいるが奥の方には全くと言っていいほど何も見えない。



「ねえ...誰かー?」



そう呟きながら恐る恐る進み曲がり角に突き当たり右を見た時、その先にいた何かを見つけた。それは全身が黒く目が黄色く光っている魚だった。大きさは朱音の2倍はあり口の中の牙はなんでも噛み砕けそうなほどだ。



「何あれ..?」


そう小さく呟きながら遠くに移動しようとすると、その魚はギロっとこちらを向いて全速力で向かってきた。朱音は足首ほどまでに浸かっている水をバシャバシャと音を立てながら全速力で逃げだす。



「何...あれっ!!やばいやばい!!!」



近くの教室に入り扉を閉めて近くのロッカーに隠れる。ロッカーは少し高い位置にあり浸水してないようで息を潜めながらバクバクと動く心臓を静かにさせようとする。



「あれって...瑞稀がいってた...」



「グルルルル...」


おそらく近くにいるであろうあの黒い魚の唸る声が聞こえてくる。しばらく身を潜めていると魚はどこかに行ったようで声も聞こえなくなった。



「よかった...でもどうしよう」



あんなのが徘徊している学校を探索するのは危険だ。だが動かなければ脱出はできない。おそらくあいつは水の中に入ると感知して襲いかかってくるのだろう。


「あれ水位...上がってる?」



さらに先ほどより明らかに水位が上がっているのでそのうち逃げ場がなくなってしまうだろう。朱音はよし!と言ってロッカーの扉を開け近くにあった机に飛び乗った。それによって水が波打ったがあの魚がくることはなかった。


「どうにかして水の中に入らないようにしないと...」



そう言いながらまた近くの机に移動した、その時だった。乗るところが悪かったのか机が倒れバシャーン!!とかなり大きな音が聞こえた。

咄嗟にロッカーに隠れようとも思ったがすでに水は腰のあたりまで来ていてロッカーも浸水しているのでむしろ袋の鼠になってしまうと考えた。



「っ...!」


仕方なく全速力で走る。と言うより足がつかないぐらい水が上がってきていてもうほぼ泳ぐと言った方が良いほど必死に泳いだ。後ろから小さくうめき声が聞こえてくるが無我夢中で泳いで逃げた。



「グオー!!」



魚に泳ぎで勝てる訳もなく、足を噛みつかれて水中に引き摺り込まれる。どうにか足を引っ張るが顎の力がかなり強いのかなかなか外れなず足から血が出てくる。



「っ!!」



グオオアアアアアアアア!!」



魚は足を離すと大きく口を開けて朱音に襲いかかる。もうダメだ...そう思い目をつむった。




@


「...ね!」


「...かね!」



「朱音!!」


なんだか朱音を呼ぶ声が聞こえる。朱音は咳をし水を吐き出すと目を開いた。目の前には瑞稀と先生が数人ほどいる。


「よかった!」


「私は..?」



水の中に入って溺れて、気を失ってたんだよ!」


「あれ?水浸しになった教室は..?あの化け物は...?」



「何か夢でも見てたんだよきっと!よかった!」



アレは夢だったのだろうか?それにしてはなんだか現実味を帯びていたような...。



「あれが瑞稀が言っていた水の中のもう一つの世界?」


「何を言ってるの?」


「え?だって瑞稀がそう...」



「悪い夢でも見てたの?」


「でもこの話瑞稀が...」



「そんな話した覚えないけど..?」



全くと言っていいほど訳がわからなかった。どこからが現実でどこからが夢なのか...。



「さて!朱音も助かったことだし、私たちは教師にー」



「何を言ってるの?」


そう言いながら教室に戻ろうとする瑞稀の服を掴む。


「勝手に入った事のお説教が待ってるわよ?」



「うう...」


お説教という言葉に瑞稀は肩をすぼめた。朱音はよくわからなかったがとりあえず全て夢だという事にしておいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ