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8.失せもの探し屋2

ケイが側妃様の離宮に入ろうとしたところで案内役の宰相の部下に向かって「警備のものは?」と聞く。


「側妃様がいらっしゃらないので必要ないでしょう」


何を言ってるんだこいつという顔で言われた。


「何らかの悪意をもって側妃様が連れ去られていた場合、証拠の捏造、もしくは隠匿の可能性があります。

そして、側妃様はいないとしても側妃様の私物はあるでしょう。

正妃ではなかったとしても仮にも妃ですよその居住を守るものがいないって、さすがに――」


ケイが言うと「中に入れば分かります」とだけ宰相の部下である男は言った。


「これは――」


ケイは言葉を失った。


「既にものが盗まれた後という事は……」


それにしては片付きすぎている側妃様の居室はあまりにもものが無かった。

一般的な貴族の部屋にかけられている様な絵画も無ければ、ベッドサイドに置かれる様なレースのドイリーも水差しも。

普通あるであろう、お気に入りですという感じのティーセットや茶葉、の様なものが入っている戸棚も無い。

お気に入りと言わんばかりにドレッサーに置かれている筈の香水やおしろい、そういうものも無い。

衣装室を見たが、まともなドレス一つ入っていない。

侍女のお仕着せかという様なシンプルなワンピースが数着おいてあるだけだ。


アクセサリーケースは一応あった。

けれど中身ほぼ空だ。


「ここにあったはずのものは?」


ケイが聞くと宰相の部下は首を振る。


「さすがにその人の思い入れのあるものや場所が無きゃ、失せもの探しのまじないなんてできやしないんだ。

何か側妃様の思い入れのありそうなものは?

下げ渡しているならそれでもいい」


宰相の部下の男はケイをじいっと見て。


「申し訳ありません。

そのようなものはありません。

これが側妃様が消える前から、側妃様の全てはここにあるものだけだったと思われます」


ひゅっと息をのんだ。

この部屋は誰の気配も個性も何も感じない。

そんな場所で生活をしていた女性なのか。


普通は誰かからの贈り物や、自分が気に入って買ったであろうものそういうものから人となりが分かる。

そこに魔法を流し込んでその人物やその持ち物の今を占う。

けれどこれじゃ難しい。


「側妃様は、政務をこなしていたんでしたっけ?」


それであればいつも使っていたペンやいつも座っている椅子、そういうものがあるかもしれない。


「それが……」


宰相の部下は言いよどんだ。

それから、執務室ずぶぬれ事件について初めて伝えられた。

それは事件性があるのではと思ったけれど、ここで言っても意味がないことはここへたどり着くまでの問答で明らかだった。


二人で執務室へ向かいそして絶句した。


「この場所はそのままのはずです」


そうであろう。

上手く乾かなかった場所からカビが生えてかび臭い。

それよりも何よりもケイが驚いたのは二点。


執務室ですら側妃様というのがどういう人物か分かるものは置いていなかった。

明らかに官給品と分かるペンに文官向けの机と椅子。

とても高貴な人が使うとは思えないものだ。


それからもう一点。


「宮廷内にも魔法使いはいる筈だ。

何故呼んでいないのです」


もう一つの驚いたことを確認するためにケイは聞いた。


「何故そんな魔法使いが必要なんです?

失せもの探しのために今お呼びしているのに」


不思議そうに聞いた。

それは宮廷内にいる魔法使いは誰もこの場に呼ばれておらず、まじないの様なものしかできないケイが発見するのがおかしいと思われる痕跡だった。


「私には手に余ります。

ここには魔法の痕跡と、妖精の痕跡があふれています」


ケイが言うと、今度こそ宰相の部下は驚いて「この件は口外厳禁にて」と言い、一旦調査の停止を伝えてきた。

ケイとしてもまじないに使えそうなものが何もないこの部屋から側妃様の手がかりを得るのは恐らくかなり難しいとわかっていたため、停止に対して言い返せる言葉は何もない。


ただ、心臓がバクバクと脈を打っている。

自分の危険を知らせている。

まるで高貴な人の扱いをされていない側妃様と、そこに魔法と妖精が関わっている事実。

それを知ってしまったしがない失せもの探し屋の自分。

まずいことになったと思った。


側妃様が見つかる前に今度は自分が消されかねないと思った。

遠くに逃げるというのが、それでも今も残る比較的まともに魔法が使える魔法使いや、妖精関係の面倒な者達にはまるで意味をなさないことをケイはよく知っていた。


ケイは王宮を出るとその足で神殿に駆け込んで保護を頼み込んだ。

そこは妖精に愛された聖女様のいるという神殿だった。

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