6.国王陛下の見解
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国王であるレオンハルトはゴシップ誌を握りつぶして舌打ちをした。
愛する王妃が侍女の経由で入手したらしいそれを見て「悲しいですわ。こんな風にいまだ書かれてしまうなんて」と涙していた。
レオンハルトは王妃を溺愛している。
世界の何よりも大切にしていると言っていい。
ただでさえ、陰気な側妃が消えたごたごたで仕事が増えているというのに、あれは愛する王妃の心まで傷つけるのか。
記事の内容は大したことの無いものだったが、レオンハルトにはそれが許せなかった。
王妃の様に寵を受けられず、ただ仕事をするしか能のない女に何故愛する女が泣かされないといけないのか。
いっそ失踪であればこのまま殺してしまった方が楽だろうと思い、そのように取り図ろうと宰相を呼んだ。
さらわれたのか、自分で逃げ出したのかは知らないがどちらにせよそんな無能はいらないだろう。
けれど、宰相はうんざりとした顔で首を振った。
王妃は宰相の家に養子縁組をして妃となった。
自分の娘も同然の王妃が泣いているというのにどういう事だとレオンハルトは思った。
宰相の息子である宰相補佐からも言ってもらわねばならないとも。
宰相補佐はレオンハルトの学園時代の友人だった。
そして王妃を大切にしている一人でもある。
「側妃様が仮に今も生きているとして、それを殺してしまって、執務は誰が行うのでしょうか?」
宰相は言った。
レオンハルトは「側近の数を増やせばいいだろう」と答えた。
「家門同士の力関係を無視して、有能な人間がそう何人も集まる訳がないでしょう」
宰相は静かに言った。
「それとも王子殿下や王女殿下の教育を早め、ご公務に出ていただきますか?」
「それは、王妃が嫌がっていると何度も言っているだろう!!」
レオンハルトは声を強めた。
王妃は温かい家庭を築きたいと、「これから王族として厳しい世界を生き抜くのだとしてもせめて子供の頃は楽しい思い出でいっぱいにしてあげたい」と言って二人の間に生まれた王子と王女の教育は最低限にしている。
その王妃のいじらしい姿にレオンハルトはこの人を王妃にしてよかったと思ったものだ。
それを今まで代々行っていた速度に戻せば、今すぐはいかなくともある程度の時点で王子や王女たちは公務をこなすことができるようになる。
けれど、それではやはり王妃が悲しんでしまう。
「私の唯一の妃が悲しむことを余が選ぶと思うな」
宰相は静かに目を閉じた。
「……御意にございます。
それでは側妃殿下の捜索にもう少し人員を割いてもよろしいでしょうか?
殿下が生きていても、そうでなくても、少なくとも調査結果は必要でしょうから」
それから、と宰相は続けて言った。
「王妃殿下が息災でいるのは私たち臣下の望みでもあります。
そのゴシップ誌の出版社に関しては何か別の嫌疑で二度と王妃様を悲しませる様な記事を書かせないようにいたします」
そう言って宰相は部屋を辞した。
レオンハルトは憤りがおさまらなかった。
もしも側妃が見つかったら酷い罰を与えてやらねばならない。
そう、側妃が輿入れをしたときの様に、立場の違いというものを分からせてやらねばならない。
レオンハルトはそう思った。




