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3.毒見役として登録されていた男

リチャードはただの文官だ。

取り立てて見目が良いわけでもなく、文官としての能力が周りに比べずば抜けて高い訳ではない。

そんな人間であればもっと花形の部署に行っていることだろう。


そんなリチャードに宰相の下の下のそれから何だったか、よくわからない部門から側妃様失踪の件についてリチャードに聞きたいことがあると呼びだされた。


側妃様がいなくなったことはすぐに噂になった。

陛下と王妃様の裏方としての仕事のほとんどを側妃様がやっていることは公然の秘密となっていたからだ。

誰も言わなくても、筆跡も何もかも違う文書や、文体が普段とまるで違う様々な写しがリチャードの様な下っ端にさえ回ってくる。

誰もが気が付いていて、そして誰も口にしない事だった。


だから、側妃様が“失踪”されて、徐々に執務の一部が滞り始めていることにリチャードは気が付いていた。

けれどこれほど早く、というのには驚いた。

まだ側妃様がいなくなって一週間しか経っていない。


それほど多くの執務を側妃様がこなしていたのか、それとも側妃様の代わりの人員を充ててない所為かについてはリチャードは分かる立場にないけれど、少しずつ王宮としての機能がゆがんできていることには気が付いた。


なので呼び出しは、人員補充のための異動についてだろうと考えていた。


「毒見の件だが、実際どのようにいたか。その時の側妃様の様子を知りたい」


壮年の男性は疲れた様子でリチャードに聞いた。


「毒見ですって!?

一体何を卿は言っておられるのですか!?!?」


思わず大きな声を出す。

壮年の男性、側妃様の調査と捜査を任された男はため息をつく。


「書類上は君が側妃様の毒見役という事になっている」


リチャードは、ひゅっと息をのんだ。

そんなこと聞いたこともない。

勿論毒見なんてやったことはない。


「あり得ない!!」


リチャードは半ば叫ぶように言った。

そしてこの男が配置転換のためではなく側妃様が失踪した“原因”を探しているのだという事に気が付く。


「そもそも私は、毒見役としての手当てをもらっておりません!

それに妃の宮にみだりに男性である私が入れる訳が無いでしょう!?!?」


外交の場などでは別になるが食事を出す直前毒を盛ることもあるため毒見は貴人の近くにいるものだ。

勿論、男性の方が一般に体が大きい分毒への許容量があるという事で採用する場合が無いとはいえないが、側妃様は状況が状況とはいえ、一応妃だった。

そこのそばに男が毎日侍るのはおかしい。

それも高位貴族ですらない文官がというのはありえない話だ。


「やはりか……」


男は大きくため息をついた。


「勿論、君を特別に疑っているという事はない。

いま側妃様の関係者を順にあたって事実をまとめているところなだけだ」


はあ、とリチャードは少しだけほっとして気の抜けた返事をした。

それから、毒見の書類が事実と異なる事、そのようなものに任命された事実はない旨の宣誓書を書いてその場を後にした。


男に呼ばれた部屋を出て、冷静になり、リチャードはようやく、書類上自分が毒見になっていたという事は、側妃様の毒見はいなかったのかもしれないと気が付き愕然とした。


そして、書類のミスをした不手際者の戒告処分がすぐに下されるだろうとも思っていた。

けれどその知らせはいつまでたっても出なかったし、側妃様も見つかったという話は聞かなかった。

少しずつ仕事が滞って来たよ、大変だね回です

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