後日談3:人はそんなに簡単には変わらないよという話
※側妃様実の母親目線
家族は大切ですか?
もちろん大切です。
もし我が子が、実の子ではないとわかったらその場で捨てますか?
そんなことをするのは酷い人間だ。
今まで過ごしてきた日々がある。
その日々が嘘だった訳ではないので、今まで通り大切にする。
何も間違ったことをしなかったはずなのに。
実の子じゃないとわかっても娘であることには変わらない姫を大切にした。
姫の出自が公になれば大変なことになる。
だから入れ替えの事実は公開しないことにするよう夫である国王に頼んだ。
王太子である息子も同じように頼んでいた。
ここで今までの家族を捨てる様な真似をする方が人で無しだと思った。
それにあの実の子だという他国の側妃は、ずっと無表情で私たちの事なんて何も見てはいなかった。
私たちの悲劇に共感をしようともしなかった。
だからどうしようもないと思ってしまった。
だけど、彼女が望んだことはきちんと叶えた。
一人で静かに暮らしたいという我が儘をちゃんと叶えてあげたのに。
私たちの娘が消えた。
商家風に見せた屋敷にはきちんと契約通りの通いの見張り以外にも何人も監視をつけていたのに、ある日突然消えてしまったと監視の者達は言った。
あのこの望み通りにしてあげた。
それが私たちがよくやっている証拠だったのに、あのこは消えた。
どこかで何かをされても困る。
血筋的にはこの国の王族なのだ。
彼女の生んだ子供が魔道具で正式に王家の血筋と認められれば大変なことになる。
慌てて手がかりを探すように、夫と息子が言っている。
どこか行きそうなところを知らないか。
そう言われたけれど聞いたことは無い。
あの屋敷に移るまでの時間彼女とは何度か話そうとしたけれどあの無表情がいかにも自分が被害者ですと言っている様で話が出来なかった。
行きそうなところ、好きなもの、興味のあるもの、特技。何も知らない。
調べさせた家には持たせた金銭が手つかずで残っていたらしい。
だったらあの娘はどうやって生活をしていたというのだろう。
「あいつは側妃だったんだから、どこかの領で文官の様な事をしているのではないか?」
私に平民のフリがもう無理なように、できるようになっていることで人は生きていくしかない。
彼女はずっと貴族令嬢でその後側妃だったのだ。
私たちは妖精たちに見せられた明らかに貴族とは呼べない生活のことを忘れて、どこかで事務官をしてるであろう娘を探した。
けれど、そういう人間は見つからなかった。
当たり前だ。
そういう仕事は紹介がいる。
身元のはっきりしていない人間は雇われはしない。
あの娘の身元を保証する人間はどこにもいないのだ。
その上今どういう名を名乗っているのかも分からなかった。
通いであの屋敷に行っていた使用人に聞いても「名を呼んだ覚えも、教わった覚えもありません」というだけだった。
それ以上私たちには彼女を探す方法が無かった。
見た目で探す方法もあったけれど、大々的にやる訳にはいかなかった。
彼女の見た目は平民にはあまりいないものだったから。
実家に帰っているのかと調べを出したが彼女の実家は没落し、今は無いも同然だった。
いくつもの事業に失敗したそうだ。
その事業はまだ嫁ぐ前の彼女が必死になってこなしながらも罵倒している姿を見ていた。
そこで、ようやく、やっと、娘になにかもっとできなかったのかと思った。
けれど、できたであろう何かは何も思い浮かばなかった。
王宮で彼女のことを噂にするわけにはいかなかったのでお茶会を開くことも、何もできない。
でもどうすればよかったのかと考える。
せめて好きなものが何か位聞いておけばよかった。
妖精達の映像からも何も思い浮かばないのだ。
けれど、今更実の娘が消えてしまった。それは他国で側妃として生きていたなんて言える訳が無いので。
今まで通りそのままの日々を過ごす。
これが妖精の悪戯で、また妖精たちが謝りながら現れる日を祈りながら。
相手のことを見ていないとどうしようもないよねという話




