16.慌てる
※王様視点
* * *
何故妖精の勝負が中止になったのか。
それをみて私は慌てて、側妃、いや……娘の元に向かう。
大声で誰か専属でつけられるものの手配を言う。
王妃が、はっ、と気が付いたように動いたのが目の端に写ったので大丈夫だろう。
走って手配されたであろう客間に向かう。
給仕をしていたであろうメイドがぎょっとした顔でこちらを見た。
国のトップが宮殿で走っているのだ。
それは驚くだろう。
けれど、優先順位というものがある。
もう一人の娘のいるであろう部屋を開ける。
彼女は普通に座っていた。
それを見て、ほっとする。
けれど、状況のおかしさに気が付く。
彼女のここまでの状況を見ていた時間はかなりかかっていたはずだ。
けれど、彼女は着替えてもおらず、髪の毛もここに来た時のままひっつめてお団子にしているのみだ。
心配でふらふらと彼女の元へ向かう。
メイドたちが皆床を青い顔で見つめ、視線をそらしていることに一瞬気が付かなかった。
娘の元に向かう。
何と言葉をかけたらいいか分からず彼女の食べているものを見る。
おかしい。
先ほどからおかしなことだらけだ。
皿にのせられたパンには彼女のものとは違う髪色の髪の毛が付いており、いま出されている主菜の皿には野菜の切れ端がのっている。
それに関して何も、言ってなさそうな娘。
その顔は悲しげでもなんでもなく、初めて見た時と同じ諦めの表情が浮かんでいた。
私は周りを見渡す。
そこにいた使用人たち全員と目が合わない。
「何故だ……」
私がそう言うと娘は視線を私に向けた。
何も感情ののっていない顔だ。
「言っても意味のない事だと知っています」
「しかし、そなたは私のもう一人の娘だ!」
親子鑑定をしてもいい。
そうすれば地位は確定するだろう。
「そうですね。”もう一人”の方です」
彼女はうっすらと笑みを浮かべた。
「今の娘さんを大事にした上で、その他もう一人の娘という事になります」
言われたことにショックを受けた。
あのような環境に娘を返すつもりは無い。
勿論血が繋がっていない方の今まで慈しんできた方の娘もだ。
その場合、どうなるか。
彼女は正確に理解しているのではないかと思った。
今まで姫君として扱われ、それを変えるつもりのない娘。
使用人たちとは信頼関係がすでにある。
そこにもう一人の娘だと言っても彼女は後から来たおまけの扱いになる。
彼女について正しく公表すれば、娘の将来は滅茶苦茶になる。
真実を隠し嘘で塗り固めるしかない”もう一人の娘”。
そういうスペアの様な者がどういう扱いを受けるのか。
彼女は身をもってよく知っている。
「陛下にあの姫君は切り捨てられないでしょう」
貴族の笑みを浮かべてもう一人の娘は言った。
今更あの子を家族ではないとは思えない。
それは確かだった。
「それであれば、無駄なことでしょう」
それは、彼女が着替えていない事などに対しても彼女の意思でそうしている訳ではないと言っているのだろう。
「……まずは至急、専属の侍女を用意する」
「……麗しの姫君に付いたことの無い者でお願いいたします」
もう一人の娘の瞳はどこまでも冷静で当たり前のことを言っていると言った風だった。
まるで、二人が比較をされるか、王女を守るために何かするに決まっている。
そういう目だった。
けれど、言い返すことはできない。
既に一般の使用人たちですらこの調子なのだ。
「わかった」
そう言うと使用人を見渡して「くれぐれも賓客として扱う様に」と言って部屋を出た。
部屋を出てから、もっとちゃんと顔やそれ以外、私に似たのか妻に似たのかを確認すればよかったと思った。
兎に角、彼女が酷い行動を起こさないように常に付き添っている人間が必要なことだけは確かだった。