15.人の悪意というものについて
※側妃視点
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客人としてしばらく滞在する。
その前提だった筈なのに、食事前に着替えるか、髪はどうするのか。
湯あみはするか、そんなことは何も聞かれないで食事が運ばれてきた。
運ばれてきた食事は野菜のヘタが入っていたり、髪の毛が浮いていたり。
毒を入れると発覚したときに大変なことになってしまうけれど、これなら何か言われてもミスをしてしまったで済む様な嫌がらせ。
客人を王宮に滞在させるというのはどういうことか、何をすべきで何を上の者として指示しなくてはいけないのか。
私は長い側妃としての生活の中でちゃんと知っていた。
だからこの人たちが案の定私に悪意があることはわかっていた。
毒を入れないという事は、敬愛する姫君の場所を奪おうとしている人間に八つ当たりがしたいという事なのだろう。
何もかもどうでもいい。
そういう悪意に気が付くようになってしまったことも、悪意を持っているか私に興味が無い人しか世の中にいないことも、もう充分思い知っている。
私がいくら努力をして少しでも関係を良くしようとしても無駄なことももう知っている。
嫌がらせのされた料理も食べなければそれはそれでいい。
けれど、何故食べなかったと聞かれるだろう。
一応血のつながった娘が見つかってしまったのだ。
そういう態度をとるのだろう。
けれど、いちいち説明しても意味のないことを知っている。
使用人たちと信頼関係があればミス位許せないのかとなり、そうでなくてもへそを曲げて食事をとらないなんてとなる。
分かり切っていることだった。
今までの人生でこうやって試されているようなことは何度もあった。
もしかしたら本当に妖精が試していた時もあったのかもしれない。
それを確認する気にもならない。
確認してそうだったとしてもそうでなかったとしても別に過去は変わらない。
結果として世の中の全ての人間は信用に値しないのだ。
という結論は揺るがない。
本当の家族だという人たちも、誰一人まともな言葉は私にかけなかった。
あの美しいお姫様は震えてだきしてめてもらえていたけれど、私にはそんなものはない。
それが答えだった。
私を元の国に送り返すにしても血縁として遇するとしてもどちらにせよ、何も変わらない。
ここの王族に準ずるものとして嫁に出して終わりにするとしても、きっと私に悪意を気が付かれないで一生だまし続けられる人間なんていない。
今、また終わりを願ってもいいのかもしれないけれど妖精が邪魔だった。
あいつらは多分、また邪魔をする。
それであればもう少し様子を見ようと思う。
どうせ、数日終わりが延びるだけなのだ。
何も変わらない。