10.妖精の力と聖女2
「いえ、そうではありません。
けれど、側妃様はチェンジリングにあってしまったと思われます」
「チェンジリングだと?」
チェンジリングは有名な御伽話だ。
赤子が入れ替えられる話だ。
側妃に何が関係あるというのだ。
余は笑い飛ばす。
「わははは、なんだそれは。
側妃が消えろと言えば消えるという事か。
であれば、余はこの国からなんの成果もあげない怠惰な人間を消したいものだ」
「陛下!!」
聖女が叫ぶように言った。
「王宮は今妖精の気配が通常より強い状況にございます。
そのようなことを気軽におっしゃられて、もし本当に妖精が願いを聞き入れてしまいましたらっ!!」
必死という感じで聖女は言った。
「あらあら、うふふ」
その言葉を聞いて王妃はおっとりと笑った。
それから「今はまだ成果が出ていないだけで、努力をしている者もおりますからねえ」と言った。
さすが我が王妃だ。
「そうだな。
消えなくてはならないのは努力もせず怠惰に過ごし、何の成果もあげない人間のことだな。
まるで消えた側妃のようだな。
そして、聖女、お前もそうであろう!!」
余は聖女を見た。
「少々、妖精が見えるという力があるだけで聖女という肩書に奢り、この国で一番高貴である余にに意見するとは。
奢り昂ぶり努力を忘れたようにしかみえん!!」
そう声を張り上げると、困ったように聖女は笑った。
「先々代の聖女様は妖精の悪戯によって命を落としました。
その前の聖女様は今も行方知れずです。
妖精と深くかかわる巫女として神殿につとめるというのはそういう事なのです。
その覚悟なくして聖女にはなれませんし、いつでも代わりは用意されているのです」
そう言って微笑むと聖女は自分の足元を見た。
余も聖女の足元を見ると、透けてきているではないか!!
「お、お前っ……」
「お伝えした通りです。
いまこの王宮はとても妖精の力が強くなっております。
きっかけは側妃様なのでしょう。
けれど、なぜ大人である側妃様がそんなことに――」
聖女の言葉は途中で途切れた。
彼女の体は徐々に透けていき最後にはすべてが消えてしまったからだ。
「キャー……」
王妃が悲鳴をあげた。
余は聖女がどこか近くにいないか探った、彼女は側妃と同じで王宮のどこにもいなかった。
神殿から付き従ってきた者達に聖女が消えたことを臣下に説明させに向かわせた。
王宮の外で待っていた神殿の者達は「さようですか」と当たり前のようにその事実を受け入れ帰って行った。
神殿から抗議があると思ったがそれは無く、翌日には次の聖女が聖女として役目を賜ったとの告知がされていた。
だが、それどころではなかった。
聖女が消えただけではなかった。
この国から突然多くの人が消えてしまったという報告が次々に入ってきたからだ。




