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堕神サマの侵略遊戯  作者: 和和和和
侵略開始
9/17

侵略者の事情




「どうだったかな? 亮太。私が君に与えた力は」


 画面に映し出されたその人物――地球人と似ているが、どこか異なる存在感を持つ男を見て、亮太は口端を吊り上げる。


「最高だったよ、『ギゼ』」


 人間――地球人に似た雰囲気を持つギゼという男に答えた亮太の表情は、その内に秘めていた残虐性や攻撃性が現れたような凄惨なものだった。


「それはよかった。私達の組織は慢性的な人手不足(・・・・)でね。この星を支配しても、統治する者がいない。

 だから、私達は私達の理念に共感し、私達に代わってこの星を統治してくれる者を選別した。君もその一人――君は、この世界を統べるにふさわしい、選ばれた存在なんだ」


「分かってる」


 ギゼの言葉に応じた亮太は、おもむろにその視線に険な光を宿す。


「ただ、『シャインセス』って何? あんな力を持った相手がいるなんて、聞いてなかったんだけど?」


 先程自分の邪魔をした三人の魔法少女――とでもいうべき存在のことを思い返した亮太の言葉に、画面の中のギゼはわざとらしく肩を竦めて答える。


「それについては申し訳ない。私も彼女達の存在は知らなかったんだ。けれど、我々のやるべきことは変わらない。違うかい?」


「……そうだね」


 ギゼの言葉に、視線を明後日の方向へ向けた亮太は、小さく呟く。

 その表情からは、先に述べた「シャインセス」という存在に対する好意や、煩わしく思っているような敵意は見えない。


「君ならやれるはずだよ。君のその力は、この世界を支配するためのものなんだから」


「力試しはすんだ。予定通り、僕はこの国の中枢を落とす。腐った政治家を皆殺しにして、手始めにこの国を支配する」


 自己肯定感を高め、背を押すようなギゼの言葉に、亮太は自身の掌に視線を落とすと、その手を強く握り締める。


「――ああ。素晴らしいね」


 確固たる決意を滲ませた亮太の言葉に、画面の中に映るギゼは、口端を緩めて穏やかな笑みを浮かべるのだった。



 出発前に交わしたギゼとの会話を思い返した亮太は、目的地に向かって移動する電車の窓にうっすらと映る自身の顔を見る。


 東亮太は、いじめられていた。


 今日自らの手で痛めつけた三人――「武藤」と「林田」、「南城」という生徒に、だ。


 狡猾な三人は、カツアゲや犯罪行為の強要、暴力など、露骨ないじめ行為は行わなかった。

 人格を否定するような言葉を投げかけ、見下した態度、偶然を装って突き飛ばすようないやがらせ――ふざけていたという言い訳で通じるような行いで亮太に絡んでいた。

 それは、亮太の尊厳を傷つけるものであり、少なくとも亮太にとってはいじめだった。


 だが、親や教師にそのことを言うこともできず、ただ我慢して過ごすだけの日々を送っていた。


 そんな中で出会ったのがドミネシオンと名乗る侵略組織の一員――「ギゼ」だった。


《君には選ばれし者の才覚がある。これを使えば、君は人間を超えた存在になることができる。そしてその力で、我らと共に愚かな地球人類に代わってこの星を支配し、平和な生活をつくりだそうじゃないか》


 甘い言葉を囁いたギゼから与えられた「シード」と呼ばれるものが、亮太に力を与えてくれた。

 そして、その力は本物だった。いじめっ子の三人を蹂躙して余りある人間をはるかに超えた力を亮太は得たのだ。


(ギゼの言葉は、多分半分以上嘘だ)


 窓に映る自分の姿を見ながら、亮太は心の中で小さく独白する。


(利用されていることくらい分かっている。少なくとも、あいつの言うことを完全に信じてるわけじゃない)


 力を与えられ、その意志に沿う形でドミネシオンの地球征服に協力しているが、亮太はギゼのことを信頼しているわけではなかった。

 少なくとも、「自分はギゼに都合のいいように利用されている」――その可能性は頭の端にずっとあった。


(でも、それがどうした?)


 だが、そんなことは亮太にとって何ら問題ではなかった。

 仮に自分がギゼに利用されているとしても、時が来た時に裏切られ、切り捨てられるのだとしても、そんなことは重要なことではない。


(こんな世界がどうなろうが、僕が利用されてどうなろうが、知ったことじゃない)


 亮太にとって、この地球は――少なくとも、その目に映る人々と社会に、守る価値などなかった。

 未来への希望などない。他者への期待などさらにない。どうなっても構わない。

 それは自暴自棄などではなく、単純に地球人に救いなどないと見限ったが故の答えだった。


「この世界にも、僕にもそんな価値はないんだ」


 誰の耳にも届かないような小さな声でその心中を吐露した亮太を乗せ、電車はその目的地――この国の立法機関である永田町へと向かっていった。



※※※



「……着いたわね」


 永田町に存在するこの国の中枢機関――俗に首相官邸と呼ばれる建物を遠巻きに見据え、長い髪をなびかせた大人びた印象の少女が口を開く。

 高校の制服に身を包んだクールビューティと評される少女――シャインセス・ムーンとしての力を得た「宝生一早」は、神妙な面持ちでその建物を双眸に映す。


「とりあえず来たのはいいけれど、一般人がアポイントもなしで話を聞いてもらえるのかしら? 変身してみせれば、話くらいは聞いてもらえそうだけれど……」


 結衣と千景に提案した通り、自ら国の中枢に接触を試みるためにこの場所を訪れた一早は、不安と緊張を誤魔化すように独り言を呟くと、己を奮い立たせるように拳を握る。


「あれはマスコミ? もしかして今朝の件かしら? あれだけ盛大に宣戦布告してきたのだから、当然ね」


 遠くからでも見える列を成したマスコミと、心なしか慌ただしく感じられる国の中枢を見た一早は、改めて現在の状況を認識する。


 ドミネシオンを名乗る侵略者が世界に対して宣戦布告をしただけでも大事だというのに、実際それに関連していると思われる事件が起きた。

 その当該地となった国の中枢が大騒ぎになっているのは当然のことだろう。


「いくしかないわね」


 一度深呼吸をした一早は、意を決し、首相官邸へと向かっておもむろに足を踏み出す。



「ここが永田町か」


 時をほぼ同じくして、タクトもまた首相官邸を遠巻きに眺めて独白する。



 ドミネシオンの宣戦布告からわずか一日足らず。


 そんな短い時間で、「侵略者(タクト)」、「征服者の使徒(亮太)」、「正義のヒロイン(一早)」がそれぞれの思惑を胸に、日本の中枢へと集う。



※※※



「タクトさん。用事ができたから帰りが遅くなるそうですが、よろしいのですか?」


「好きにやらせてやればいいさ。さぁて。タクトが帰ってくるまで、アニメの続きを楽しむか」


 タクトが何かをしようとしているというのに、小山内家に戻ったルーテシアが全く興味を示さずに浮かれた声を出すのを見て、リオナは深くため息を吐く。


 否、ルーテシアがタクトが何をしようとしているのか興味がないというのは正確な表現ではない。タクトが何をしても構わないと思っているだけだ。

 ドミネシオンの怪人が出現しても対処せず、タクトに全てを任せて干渉する気がない。

 ドミネシオンと事を構えようが、逆に接触して協力関係を結んだとしても、ルーテシアは咎めることすらしないだろう。

 自身の代行として侵略を任せたタクトが何を考え、何をなしても、それを見て楽しむ。それだけがルーテシアの行動理念なのだと、リオナは正しく理解していた。


「……ルーテシア様?」


 そんなルーテシアに気を重くしていたリオナは、部屋の入り口で足を止めた堕神に怪訝な表情を浮かべる。


「ようやく帰ったか」


 そんな二人に室内から声をかけたのは、くすんだ金髪をオールバックにした精悍な顔立ちの男だった。


 中年と青年の中間ほどの外見は年齢不詳で、その顔に浮かぶ刺青を思わせる黒い紋章が危険な匂いを濃く演出している。

 一部の隙もなく鍛えられた肉体は鋼のような屈強さを感じさせ、無数の敵を屠ってきた剣を思わせる鋭利な存在感を漂わせている。金色の双眸を向けてルーテシアとリオナに険しい表情を向ける。


「……『ベルギオス』様……ッ」


 眉間に皺を刻み、金色の双眸を向けてくるその男――「ベルギオス」を見て顔を青褪めさせ、息を呑んだリオナとは対照的に、ルーテシアは自身の倍はあろうかという長身のベルギオスを見て不快気に顔をしかめる。


「何しにきた? 手を出すなと言っておいたはずだぞ?」


 低い位置から見上げていながらも、見下していることがありありと伝わってくるルーテシアの視線を受けた男――「ベルギオス」は、呆れたように嘆息して重い口を開く。


「少し、顔を貸してもらおうか、堕神ルーテシア様」




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