変身ヒロインが現れた(後)
「いくぞ! オオオッ!」
身の丈にも及ぶほどに巨大な鉈を振るうドミネシオンの鬼人の攻撃を、三人の光輝姫達は軽やかに跳んで回避する。
その一撃は風圧だけで周囲の物体を破壊し、斬撃の軌道にあったものは刀身の長さすら無視して数メートルにわたって両断されてしまうほど、圧倒的な破壊力を見せつける。
「なんて力……!」
「こんな力で暴れられたら、周りがひどいことになってしまうわ」
「そうだな」
その破壊を見たシャインセス・ハート、シャインセス・ムーン、シャインセス・エアルが順に言葉を発する。
「――力の制御も満足にできてないのか。まったく、とんだ木偶の坊じゃないか」
一方、その破壊の暴風に髪を靡かせるルーテシアは、ドミネシオンの怪人である鬼人の力に、眉を顰めて呆れたように言う。
「光よ!」
ハート、ムーン、エアル――三人の光輝姫達が、その胸から生み出した光を掴み取ると、一瞬にしてそれが美しい武器へと変化する。
「シャインソード!」
ハートの手には、身の丈にも及ぶ刀身を持つ巨大な両刃剣が。
「シャインロッド!」
ムーンの手には、身の丈にも及ぶ長杖が。
「シャインマグナム!」
エアルの手には、マスケット銃を彷彿とさせる巨大な銃が顕現する。
「おおっ!」
「やっぱり、美少女には巨大武器だよなぁ!」
その姿に物陰から戦いを見ていたタクトは感動に目を輝かせ、ルーテシアは満足気に頷く。
(負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ負けろ……)
そんな二人は、自分達の背後で三人のヒロインたちが敗北することを心から願っているリオナに気づくことはなかった。
「はっ!」
巨大な銃を手にしたエアルがその引き金を引くと、光の弾丸が空を貫いて鬼人へと突き刺さる。
「ぬうっ!」
寸前で鉈の剣を盾にし、弾丸の直撃を防いだ鬼人だったが、その衝撃はすさまじく、苦悶の表情を浮かべる。
炸裂した光の弾丸が相殺され、その衝撃で体勢を崩した鬼人に、空を蹴ったハートとムーンが肉薄する。
「はあっ」
ムーンの持つ杖が光で刃を形成し、斧槍のように変化し、斬閃を奔らせる。
月光の刃の閃きが鬼人の鉈とぶつかり合い、硬質な金属音と共に光の火花を散らす。
「うお……っ!?」
ムーンの斬撃で態勢が崩れたところへ、光を纏ったハートの大剣が袈裟懸けに振り下ろされる。
「やあっ!」
ハートの斬撃が鬼人の身体を斬り裂き、血液なのか、紫色の液体を噴出させる。
だがその斬撃は、鬼人の致命傷には至っておらず、数歩後ろに下がって苦痛と怒りに牙を食いしばる。
「ぐっ……よくも……!」
傷の痛みに激昂する鬼人は、三人のヒロインを睨みつけると、その口から炎を噴き出す。
「!」
尋常ならざる高温の炎を光輝姫達が各々の武器でかき消すと、そこには既に鬼人の姿はなかった。
「……逃げた?」
周囲を見回したハートは、追撃がないことを確認すると、深く安堵の息を吐く。
「よかった〜〜。怖かったよぉ」
普通の女子高生が神秘の力を得たとはいえ、怪人と武器を持って戦う。
怪我をするかもしれない戦いの恐怖、命を奪われる死の恐怖、命を奪うかもしれない殺傷の恐怖――それらが一気に押し寄せ、三人の光輝姫達は、各々に思い詰めた表情を浮かべる。
「うむ。初陣にしては見事だった」
「お前はどういう何目線なんだよ」
その様子を後方腕組みで見ていたルーテシアの満足気な言葉に、タクトは呆れたように言う。
「ママだが? あの子たちには私の力を与えているんだからな。
私のバブみに恐れ慄くがいい!」
しかし、そんなタクトの言葉に、ルーテシアはさも当然のことだと言わんばかりに、誇らしげな態度で答える。
(いや、力を与えたからママっていうのは……まあいいか)
確かに、光輝姫に力を与えたのはルーテシアだが、それと母親は関係ないと思いつつも、武士の情けでそれを言わなかったタクトは、しかしもう一つの意見をはっきりと告げる。
「バブみって、恐れ慄くものなのか? あと、今のお前にそんなものはない!」
「なんだと!?」
バブみ――女性的で母性的な包容力や安心感を否定されたルーテシアは、子供が駄々をこねるように声を荒げる。
そんな態度と反応からは、確かにバブみなどというものは一切感じられない。
「あ、あ……」
(駄目だった)
しかし、そんなタクトとルーテシアのやり取りなど意にも介さず、リオナは絶望に打ちひしがれていた。
「どうした? リオナ」
「いえ、なんでも、ありません……」
(大丈夫。まだ、一度退けただけ。これで終わったわけじゃない)
ルーテシア自身が力を与えて作り出した敵である光輝姫達の敗北と退場――必要ならばその死すらも願っていたが、その祈りは届かなかった。
鬼人は倒されたわけではなく、三人の光輝姫が敗北する可能性は先延ばしになっただけに過ぎない。
自分に言い聞かせ、ルーテシアの言葉に応じたリオナは、気持ちを切り替えてオルドナギアの秘書官としての役割を実行するべく、己を奮い立たせる。
「あっ」
そうしていると、少し遅れてパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
タクトはもちろん、三人の光輝姫達もそれに気づくと、軽やかに宙へと飛び去っていく。
「いいねぇ。正義のヒロインの正体は不明。しかるべき時まで明かされないのが王道だ」
「うむ! その辺もしっかり言い含めてあるから、まあ多分大丈夫だろ。ぶっちゃけ、バレたらバレたで問題ないし」
それを見て感嘆の声を漏らしたタクトに、ルーテシアが応じる。
「そうだな。じゃあ、俺も学校いくわ」
「おう! 気を付けてな」
三人の気配が完全になくなったのを見届けたタクトが荷物を担ぎ直すと、ルーテシアはその後ろ姿に手を振って見送る。
「ルーテシア様」
「皆まで言うな。気づいてるよ。私も、タクトも」
神妙な面持ちで口を開いたリオナを制したルーテシアは、先ほどまで浮かべていた子供のような無邪気な表情から、堕神のそれへと変化させていた。
「では、どのように?」
リオナの言葉に一瞥を向けたルーテシアは、学校へ向かうタクトの背を一瞥して口端を吊り上げる。
「これはタクトの侵略だ。あいつの好きにやらせるさ。お前も口を挟むなよ?」
「……分かり、ました」
興味がないわけではないが、無責任に言い切ったルーテシアに、リオナはそら恐ろしさを覚えて息を呑む。
「――さ。帰るぞ。まだ見たいアニメと特撮があるんだ」
そんなリオナの憂いを見透かしているかのように不敵な笑みを向けたルーテシアは、しかしどこまでも明るく声で言うだけだった。
ドミネシオンの怪人である鬼人と、三人の光輝姫、タクトたちが去ったその後に残されたのは、激しい戦いが行われた破壊の痕跡と、傷ついた男子生徒たち。
そしてその生徒たちは、やってきた警察と救急隊によって救出された。
そして、この事件は瞬く間にネットを駆け巡り、「侵略者の怪物が日本の街で暴れた」という事実を世界に広めたのだった。




