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堕神サマの侵略遊戯  作者: 和和和和
侵略開始
16/17

俺達の侵略はこれからだ!




 ベルギオスに勝利し、地球侵略の権利を守ったタクト、ルーテシア、リオナの三人は、その足でとある場所へと移動していた。


「ほぉ~。あれがお前が言ってた男か」


「ああ」


 興味深げに呟いたルーテシアの視線の先には、街の中を歩く制服姿の少年――「東亮太」の姿があった。

 ドミネシオンによって怪人に変えられ、ナイトメアの力で殺した同級生の友人の姿を見て、タクトは少し物憂げな声で答える。


「殺さなかったのですね」


失黒十字(ブラックロスト)の力で融合してた変な力だけを消滅させたんだ。ついでに記憶も消しておいたから、まあ大丈夫だろ」


 当然のように言うリオナの疑念に、タクトは淡々と自分が亮太にしたことを告げる。


 「闇黒神皇(ロードオブダークネス)・ザ・ナイトメア」――堕神ルーテシアの能力は、想像を現実に変えること。

 その能力を用いれば、人間の身体に融合した異形の力だけを分離して消滅させ、記憶を消去することすら可能になる。


「なんだ。情でも湧いたのか?」


「はぁ? 俺の侵略のためだ。クラスメイトがドミネシオンの怪人だったなんてことになれば、俺の正体が知られた時のインパクトが薄くなるだろ!

 仮にドミネシオンの怪人だってバレなくても、クラスメイトが死んだらシリアスモード突入しすぎるじゃないか。

 俺は、最初はちょっと緩い感じで話が進むのが好きなんだよ。

 だから、今は最低でも俺達のクラスや近しすぎる存在で下手に死人とか出るのは困るんだ。じゃなきゃ、わざわざあの三人に、怪しげな言動をしてみせたのが無意味になるだろ」


 亮太を助けたことをからかうように言うルーテシアの言葉に、タクトは不満を露わにして答える。


「そういうものですか?」


 ほんの少しくらいは照れ隠しがあるのかもしれないが、むしろその理由に真に迫る熱を感じたリオナは、理解も共感もできない理由に首を傾げる。

 そんなリオナの率直な疑問を受けたルーテシアは、辟易した様子で深いため息を吐く。


「分かってないな、リオナ。最初に襲われたクラスメイトはヒロインたちに危機が身近にあることを実感させる舞台装置としての役割がある。いわば演出上必要な存在だ。

 だが、ヒロインの知人やクラスメイトが死に過ぎるのはよくない。殺さずに済むならその方が都合がいいに決まってるだろ」


「分かってるじゃないか、ルー!」


 互いに分かり合っているタクトとルーテシアががっちりと拳を握るのを冷ややかな目で見ながら、リオナは呆れた様子で目を伏せる。


「んで、そのヒロインの方はどうしたんだ?」


「ああ、そっちはそっちで対処しておいた。できれば、こういうことはやりたくなかったんだけどな」


 ふと思い出したようにルーテシアが尋ねると、タクトは少しばかり渋い表情をして答える。


 光輝姫(シャインセス)に選んだ三人の動向は、ルーテシアとリオナも報告を受けている。

 女神エルファシアとして力を与えたルーテシアの助言とは裏腹に、世界を守るためにも正体を自分達の力を政府に明かそうと考えていた。

 それを妨害するために首相官邸にいたからこそ、タクトはシャインセス・ムーンと鬼人との戦いに居合わせることになったのだ。


「ちなみに、何したんですか?」


「決まってるだろ。政治家と官僚の頭に失黒十字(能力)ぶっこんで、あの子たちを利用しないように意識を書き換えたんだよ」


 念のために尋ねたリオナに、タクトは自分がしたことを事も無げに話す。


 タクトがしたことは至極簡単。首相をはじめとした国を動かす政治家と官僚たちに、片っ端から失黒十字(ブラックロスト)を使用し、シャインセス達が接触しても国として彼女達を利用しないように思考するように意識を書き換えたのだ。


「え? っと……その力を使えば、すぐにでも世界征服できてますよね?」


「そんなことして、なにが面白いんだよ」


 それを聞いて焦点の合わない目を向けてくるリオナに、タクトは呆れたような口調で応じる。


 タクトとルーテシアがしたいのは、普通の真面目な侵略などではない。

 為政者の意識を書き換え、自分達の傀儡にして征服するなどという真っ当な(・・・・)手段など、何の意味も価値もないのだ。


「~~っ」


「おい。リオナが遠い目をしてるじゃないか」

「こうなると思ったから、やらなかったのに」


 本当はいつでも、その気になれば今すぐにでも地球を征服できるくせに、自分達の楽しみのためだけに事態をややこしくかき回していることを理解したリオナが感情と言葉を失っていると、ルーテシアとタクトが言葉を交わす。


「むしろやってくださいよ」


 タクトの言葉に、リオナは疲れ切った声でそう言うと、がっくりと肩を落として項垂れるのだった。



※※※



「宝生さん」


 ドミネシオンが宣戦布告した日の夕方、スマホに連絡を受けた結乃と千景――二人の光輝姫(シャインセス)達は、先に人気のない公園で待っていた一早と合流する。

 政府に自分達が得た力のことを明かしに向かった一早を案じていた二人はその無事を見て安堵の息を吐き、小走りに駆け寄る。


「早かったね。どうだった?」


「それが、特に何も」


 こんなに早く連絡が来るとは思っていなかった結乃が開口一番に尋ねると、一早は率直に結果を告げる。

 その表情と声音からは、全く想定していなかった対応に困惑を隠せない一早自身の動揺が現れており、結乃と千景も思わず顔を見合わせて改めて確認する。


「何も?」


「ええ。これからも、地球(この星)のために力を貸してほしい、ドミネシオンが現れたらその情報は速やかに共有するからって」


 宇宙人から宣戦布告を受け、実際にその関係者と思しき鬼人が犠牲者を出し、目の前でシャインセス・ムーンへと変身してその力を見せたにも関わらずそんな答えが返ってきたことに、三人は信じ難い様子で視線を交わす。


「それだけ?」


「それだけ」


「……なんか拍子抜けだね」


 国に専属で囲い込まれて戦わされる。最低でも、その力を解明し、自分達も使えるように協力を要請されるくらいのことは想定していた三人は、この結果に何とも言えない表情を浮かべる。

 まるで国がこの事態を真剣に捉えていないようにも思える対応に疑問を覚えたが、それが結果であるのならこれ以上自分達にできることはないとも考えていた。


「それで、その時のことなんだけど――」


 これで一旦打ち切りとした一早は、政府に交渉しに行ったときの話――鬼人と戦ったことや、その時に言われたこと、そして自分の窮地を救ってくれた謎の存在について二人に話す。


「それって……」


「ドミネシオンって奴ら以外にも、別の宇宙人がもう来てるってことね」


 一早の話を聞いた結乃と千景が息を呑む。

 一対一でムーンと互角以上に戦った鬼人を圧倒した黒い衣の人物――名乗りはしなかったが、そんな存在がいることに、三人の心には不安の影が深く落ちる。


「ええ。敵か味方かは分からないけれど、注意しておいて」


「私達三人で、世界を守れるのかな?」


「とりあえず、今はやるしかないでしょ。私達しか戦えるのはいないんだから」


 不安を口にした結乃に、千景が自分自身に言い聞かせるように言う。


「そうだね。私達がやらなきゃ、だよね」


「ええ。とりあえずこれから三人で力を合わせて戦いましょう」


 自分を奮い立たせ、努めて明るい声で言う結乃に一早が同意を示すと、女神エルファシアに選ばれた三人の光輝姫(シャインセス)達は、互いに視線を交わして戦う意思を再確認する。



「――……」


 結乃と千景と戦う意思を共有し、帰路についた一早の脳裏には、自分を守ってくれた黒衣の男の後ろ姿が甦っていた。

 あの時、戦う意思を失い、命の危機にさらされた自分を助けてくれた後ろ姿と、その時に言われた言葉は一早の心に鮮明に焼き付いている。


「あの人、名前聞いてなかったわね」


 その姿を追って何もない空を仰いだ一早の声は、どこか寂しげに響いて夕焼けの空に溶けていった。




※※※



「まあ、予定外の出来事もあったが、とりあえずこれで当面の問題は解決。これから、当初の予定通り、俺の地球侵略が始められるってわけだ!」


 亮太の状態を確認した後、ルーテシア、リオナと共に小山内家に戻ったタクトは、夕飯を前に決意を新たにする。

 準備万端整えて侵略を始めようとした初日に別の組織に宣戦布告を横取りされ、その怪人、組織の重鎮と慌ただしい一日を終えたタクトは、解放感と共にやる気に満たされていた。


「俺達の侵略はこれからってことだ!」


「なんか、打ち切りマンガのお約束みたいなこと言ったな」


「様式美だろ」


 すでに慣れたやり取りをルーテシアと交わしたタクトは、その顔に笑みを浮かべる。


「二人とも、そろそろご飯ですよ」


 そんな二人に疲れ切った視線を向けるリオナは、半ば諦めた表情で用意した二人を呼ぶ。


「お~! 今日はハンバーグだぁ! 気が利くじゃないかリオナ」


「ルーテシア様が食べたいって仰ったじゃないですか」


「おい、タクト。私にハンバーグをよこせ」


「いやだよ! 代わりにこのニンジンをくれてやる」


「なら、私も私のニンジンをお前にやろう。とても惜しいがな!」


「それはただニンジン交換しただけだろ!」



「二人とも、好き嫌いはダメですよ」




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