お金は人を恐ろしいものに変える
壱は二子に小遣いをあげたい気持ちになった。
けれど、小さいこどもに小遣いを渡すことを、両親はよしとしないのだ。
お金を自由に使えるようになるのに、もう少し大きくなってからのほうがいいのだと。
壱は小学校の高学年から小遣いをもらったので、二子くらいのときは喉から手が出るくらい欲しかった。
でも、お金が怖いものだと知るようになって、壱は両親に感謝している。
お金は魅力的だが、それ以上に恐ろしいものを惹きつける。
「でも、二子はもうちょい大きくなってからな」
壱はふと昔を思い出す。
大きなお金を自慢げに持ち歩いていたら、変なおじさんに捕まった同級生を知っている。
物凄く恐ろしい人物だったと当時の彼から聞いた。
幸い、その子は怪我をするだけに留まった。
命を奪われなくて本当によかった。
その子は今も壱のクラスメイトで、大親友だ。
道を歩いていれば、変な人や悪い人は大勢いる。
そんな悪いやつをやっつけるために、壱は探偵になった。
運動神経のよさを生かして、武術を学んだ。
犯人をノックダウンさせることだってできると思っている。
大人になったら、壱は警察になるつもりだ。
探偵として有名になって、世の中を知る。
それが壱のアルバイトの目的だ。
だから学校側に認められ、壱は中学生探偵をやっている。
高い志を持った生徒として、教師たちから注目を浴びているのだ。
世の中がどんなものなのか、壱は興味がある。
歯磨きを終え、顔を洗い終わると、二子がてくてくと歩いて寄ってきた。
「にーに、ごはんは?」
団子パジャマの裾を引っ張られる。壱は丁寧な手つきで二子の手を離させた。
「朝飯か。俺は団子が食べたい。今日は三色団子がいい」
「ともぐいー」
二子は手をばふばふと叩いて軽快に笑っている。肩透かしを食った気分で壱は苦笑いする。
「どこでそんな言葉覚えたんだよ。どっちかというと、ナルシーだろ」
「なるしー?」
二子が首を傾げる。興味津々な体だ。壱は念を押しておく。
「覚えなくていいからな?」
「おしえて、にーに」
二子が潤んだ瞳で見上げてくるので、壱は言葉に詰まった。