朝の雑菌繁殖はニオイの元
「ご、ごめん。臭かった?」
朝の起きたての臭いは、とてつもない菌の繁殖による。
口には三億個の菌がいるとかいわれているので、大好きな兄といえど酔っ払いの父親同然の扱いを受けるのだ。こどもは素直。
「くさくても、にーにすきぃ」
「あ、ありがと……? あんま、嬉しかないけど」
壱は二子から団子コップと団子歯ブラシを受け取りつつ、苦笑いを浮かべる。
シャコシャコと歯を磨いて部屋に備え付けてある洗面台に行って口を濯ぐ。
二子の姿が正面の団子型の鏡に映る。
まだ団子ベッドで座ったままの二子が首をこてんと傾けて訊ねた。
「にーに、たんてーごっこする?」
「ごっこじゃないよ。お金もらってるから。立派なお・し・ご・とだって」
探偵はアルバイト扱いで、学校もきちんと通っている。
壱の通っている中学校は、よほどのことじゃない限りはアルバイトが禁止されない。
理由さえ明確にしていれば、ゴーサインを出してもらえる寛容な学校なのだ。
但し、利己的な理由でアルバイトをしようものなら、即刻却下される。
例えば、『お金欲しさ』、『他人もしているから自分もやりたい』など。
本人の欲望を満たすためだけにアルバイトをするのは違う、それは義務教育ではないと教えられている。
壱は探偵を仕事と言い張るが、事件を解決したことは一度もない。
事件に巻き込まれたことも一度もない。
中学生だからなのか、危険な仕事は一切舞い込んでこず、平和な仕事しか頼まれない。
猫捜しやら犬捜しやら。
顔も洗って、団子タオルで念入りに顔を拭いた。
目立つ前髪の癖毛を見て、眉根を寄せる。
手ですいてみても、直らない厄介な癖毛だった。
チャームポイントでもある。
「二子も大きくなったら、やってみればいい。こづかいになるし」
「おこづかい!?」
二子は目を輝かせている。食いついてきた。
「そうだよ。たまに諭吉もらえるんだ。いいだろぉ?」
ごく稀に、だが。
「いーな、いーな。にこもほしー!」
二子はまだ小さいので、小遣いをもらったことがない。