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第1話


辺りは12月、それも日が沈みかけているため、より一層寒さを感じさせた。仄かに日の光が残った空模様はなかなかに趣深いものがある。


彼の行きつけの「タナー珈琲店」は彼の学校の最寄り駅近くにある。それほど遠くもなく、ひっそりしていて人も少ないため、彼は気に入っているのだ。


今日も例の如くカフェへと向かっていた。街灯が歩道を照らし、照らされた空間はモヤっとした水蒸気が薄く見える。


こういう日のコーヒーは体を芯から暖めてくれる。彼は気持ちを高ぶらせていて、それは微かに柔らかく微笑んだ顔からも伺える。


駅へ近くなるほど都会の喧騒が大きくなる。行き交う人々の足音や車のエンジン音はそれだけで彼を不快な気分にさせる。普段から駅近くまで来るのを避けるのは、こうした人混みが苦手だからだ。


15分ほど歩くとタナー珈琲店に着いた。アンティークな木製の取っ手に手を掛け、扉を開けようとしたその瞬間。


「ひったくりよ! 誰か捕まえて!」


突如として女性の悲鳴が聞こえ彼が後ろを振り向くのと同時に、黒ずくめの服を着た男が彼の真横を通りすぎるのはほとんど同時だった。


不気味な笑みを浮かべ、服越しでもわかる強靭な肉体を持った男は行き交う人々を押しのけて走り去っていく。




彼の見開いた目が街灯の光に照らされギラリと光る。童顔の彼からは考えられないほどするどいその目が、行き交う人々に消えかけていた男をしっかりと捉える

と、地を蹴り飛ばし走り出した。


歩道から車道に隔てるガードレールを軽く飛び越え、車道を走り出した彼の速さは時速70キロで走る車に並走するほど速い。


30メートルほど離された距離は3秒と経たず追いつき、男が入っていった裏路地へと飛び込むと、左右の壁を蹴って男の真上へと飛び上がる。


男は彼が自分の真上にいるのを確認すると仰天するが、すぐに持ち直して懐からフォールディングナイフを取り出した。


男がナイフを取り出すのを見た彼は、胸ポケットからシャープペンシルを取り出し、男がナイフを持っている右腕に投げつけた。弾丸のようなスピードで投じられたそれは、狙いを寸分違わずに突き刺さり、男は一瞬だけ動きを止める。


その隙を彼は逃さなかった。


壁を蹴って真下へと急降下すると大きく体を捻る。男はそれを見て持っていたナイフを彼に斬りつけるが、それよりも速く彼の蹴りが男の頬に突き刺さる。

男の体は、それこそ竹とんぼのように回転し、顔面から壁へ激突した。


彼は華麗に着地を決めるとそっと男の顔を覗き込み、意識がないことを確認してから、深く安堵の溜め息を吐く。落ち着いてから、リュックのサイドポケットに入ったスマートフォンを取り出し110番へ電話をかけたのだった。



警察署で事情聴取をされ、ようやく解放されるともう7時半を回っていた。辺りはすっかり真っ暗で、ビルやお店、家々から漏れた光と街灯が街をキラキラと光らせている。


タナー珈琲店の営業時間は10時から20時と決まっており、現在の時刻は19時半すぎ。


もう夜遅くで、かつ閉店時間まで30分となかったが、ここまで苦労しておいてタナー珈琲店のコーヒーを飲めないことなど、とてもじゃないが我慢できなかった。


息を荒くしてタナー珈琲店の前まで走る。思ったよりも警察署からタナー珈琲店までの距離が長く、彼が全力で走っても10分ほどかかってしまった。


時刻は19時45分近く、マスターがコーヒーを入れてからすぐに飲めば閉店時間までには出られそうだ。


息を整えた後、店のドアを開いた。


内装は扉と同じ木製で窓際には色とりどりの植物が置いてある。自然を感じさせる優雅な佇まいで、小さな音で流れているJ-POPの曲は小気味よく、彼を落ち着かせた。


「マスター、ブラックコーヒーを一つお願いします」


「かしこまりました」


ダンディーな声で返事をするタナー珈琲店の店長。

程よい筋肉とほどよく蓄えられた口ひげが彼の男らしさをさらに引き立てている。ちなみに本名だけは何度聞いても教えてもらえず、これもまた彼の魅力を引き立てている一因だろう。


彼はいつも外の景色がよく見える窓際に座って読書をする。窓から町を観察すると自分が世界から断絶された気分になり、それを彼は気に入っているのだ。


彼はコーヒーが来るまでの間、外を見ていた。長くタナー珈琲店の常連をやっていた彼も、この時間に来るのは初めてで、なんだか新鮮な気持ちだった。


飲み会へ行くサラリーマン一行、ポッケに手を突っ込んで歩くチャラチャラした風貌の男、夜デートに待ち合わせしているであろう清楚そうな若い女性。 

夜の町は様々な人が行き交っており、興味本位で高校生が入っていいような領域じゃないと彼は感じた。


外を眺めていると、ふと向かいの道路から視線を感じた。よくよく観察してみると、通りに並んでいた有名ブランドファッション店の横にある裏路地に、人のような影が立っている。


なぜだか鳥肌がたって、店内に視線を逸らす。だが、どうしても気になって再び視線を道路へと移した。しかし、今度はなにも居ない。


今日の騒動で疲れているのだと自分自身に言い聞かせ、自身の眼球を右手で解していると、横合いから足音が聞こえ目を開ける。


「お待ちどうさま」


そう渋い声で言ったマスターはブラックコーヒーを彼の座っていたテーブル席に置いた。


彼は一礼し、マスターがカウンターの方へと戻っていくのを確認すると、ブラックコーヒーにミルクと角砂糖を入れ、ふーっと冷ましてから飲んだ。


風呂に入った時のようななんとも言えぬ心地よさが彼の体を癒していく。彼はひたすらに熱々の淹れたてコーヒーを飲んでいた。


影のことなど、とっくのとうに忘れていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分が書いてる小説と形式が真逆で驚いた。 なろう育ちの俺からしたら、説明文が多くて「ワオびっくり」状態。 普通にこういう小説が売ってそう。 [気になる点] 説明文が多いから仕方ないけど、時…
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