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十九話

「オークの上位種が数体も!?そんなの定例の報告にはありませんでしたよ!?」


「あー……あれです。喋る前に殺してるから気づかなかった的な……」


「庇おうとしても駄目ですよ!?流石にオークの上位種を喋る暇もなく殺せるわけ_____いや、Bランク上位の、ましてや戦闘能力だけならAランクに引けを取らないあの人なら有り得なくもないですね……」


 明らかに疲労が見えるリアさんが、状況を整理するようにテーブルを手に持ったペンでトントンと叩いた。


 それにしても、そこそこの強敵であるオークの上位種を瞬殺出来るって……Bランクの冒険者怖い。シスターは素行に問題がある為昇格試験は程遠いらしいが、実力的にはこの街トップクラスのBランクパーティーとどっこいレベルの実力を持っていると聞いたことがある。俺なんか、通常のオークですら逃げるので精一杯なのに、瞬殺ってなんだよ。


「……あぁ、よりにもよって何で今なんですか。ギルドマスターは野暮用とやらで何処かに消えちゃいましたし、魔族も何だか不穏な動きをしているらしいんですよ」


「魔族……確か『アリアドの森』を挟んで、この国と隣接している領域に住む種族の名前でしたよね?確か、閉鎖的で自分達の領域から全く出てこないと聞きますが……」


 リアさんの言葉にハルが俺の持ちうる知識と変わらない説明をしてくれる。……頑張ってこの世界について学んでおいてよかったと心底思う。


「それが一般的な魔族への認識ですね。彼らは魔王と呼ばれる存在が居た頃……凡そ三百年前くらいに世界を支配しようと暴れ回った種族です。彼らが暴れ回った事で出た被害はそれは凄かったそうで……その時だけは、今も尚仲が悪い人族と亜人族も手を組んで魔王打倒を目指したそうです」


「魔王ですか……やはり強いのでしょうか?」


「……そりゃ、強いだろ。なんて言ったって『魔王』だぞ?俺から見たらお前も理解不能レベルに強いんだ……魔王なんかと出会ったら腰抜けて動けなくなる自信がある」


「だ、大丈夫ですよ!今、魔王国はそれぞれの種族の長が王の座を争って内部分裂をしているらしいので、『魔王』が生まれるなんてことはありえません!」




 異世界最強キャラの称号である『魔王』にビビり散らしている俺を元気にする為にリアさんがそんなフラグめいた事を言う。……本当に我ながら情けない限りだ。まぁ、オーク……いや、ゴブリンやスライムにすら真正面から勝てるかどうか分からない俺が『魔王』なんて単語にビビるのは仕方がないんじゃないだろうか?


「あ、安心して下さい!もしも魔王がマワル殿を攫いに来たら拙者が守ります!」


「『何で俺が魔王に攫われるの?』とか、『役割逆じゃない?』とかツッコミどころは沢山あるけど、その気持ちだけは受け取っとくよ」


 いや、寧ろ俺が攫われるだけで済むのなら貴重な戦力であるハルは逃げて欲しい。俺はもしかしたら人畜無害すぎて開放されるかもしれないからな。握力も平均程度はあったはずなんだけどな。この世界に来てから、なんだか身体能力が弱体化してるイメージがある……と思ったら、周りがヤバすぎるだけだった。


 それにしても、ハルは何故ここまで俺に優しくしてくれるのだろうか?……何か裏があるのだろうか?


「……」


「………?」


 チラリとハルの方をみると、ハルは黒の瞳を此方に向け、自分が見られていることに気付いたのか首を傾げる。見た目は良いため、ちょっとドキッとしたが戦闘時のドジっ子部分を思い出して冷静になる。


 ……思い出せ、調査の度に武器を破壊したハルを。……思い出せ、落とし穴やら簡易警報やらに悉く引っかかったハルの姿を。俺はハルのやらかしでどれだけ貞操の危機を感じたか。


 まぁ、全部【逃げ足補正】とハルの圧倒的な身体能力のお陰で助かっては居るのだが。いや、戦闘面においては本当に頼りになるんだよ?でも、戦闘時以外のスイッチの切り替えが下手というか。


 ……今はそんなことはどうでもいいか


「因みに明日の朝イチにシスターにはギルドに来て貰えるように頼んでます。もし、討伐に出なきゃ行けないのなら、今から教会まで俺が走って伝えてきますけど」


「いえ、必要ありません。明日の朝に緊急クエストとして冒険者の募集を募り、明後日に一気に全ての巣を破壊します」


 彼等の繁殖力は強いですし、と付け加えるとリアさんが依頼書を書き始める。丁寧ながらも報酬まで書かれ……俺とハルが一斉に目を見張った。


「「オーク一匹につき銀貨三枚!?」」


「あっ、そう言えば二人ともギルド発注の緊急クエストは見たことないんでしたっけ。緊急クエストは他のクエストと違って危険度も段違いなので、これでも少ないくらいなんですよ?」


 前に換金したオークは素材も全部合わせて売ったのに銀貨一枚にも達さなかっ何でも、素材の多くがロクな使用用途の無いものばかりらしい。


「あ、あのオークが銀貨三枚……」


「そんな報酬ウチのギルドにあるんですか?……まぁ、得体もしれない俺をあんな大金で雇うくらいだしあんまり心配はしてませんが」


「大丈夫ですよ。これでも結構大きな組織ですからね。と言うか、緊急クエストに関しては国から補助金も出ますからね」


 へぇー、そうなんだ。ギルドは国家から独立した組織だと聞いていたが、そういう補助金は出るのか。……まぁ、そうじゃないと、殆どの冒険者が働いてくれなくなるか。


「リア殿、拙者もその依頼を受けることは可能でしょうか?」


「うーん……最低でも三人でパーティー組んでもらわないと厳しいですね。Bランクなら文句は出ないんですけど……せめて索敵が出来る人員ともしもの時に回復出来るようにヒーラーくらい入れてもらわないと……」


「やはりパーティーは必須ですか?」


「必須ですね〜。最悪回復はポーションで代用すればOKですから、人数さえ揃えてくれれば別に良いですよ」


 ハルがそんな言葉と共にチラリと此方を向く。……まぁ、言わんとしてる事は分かる?


「……なんだよ」


「えっ、いや……出来ればパーティーを組んで欲しいな、と………」


「俺、ギルド職員なんで。ほら、俺が居なくなるととリアさんの負担が」


「あっ、別に行ってきても良いですよ?多分準備は明日の内に終わるでしょうし、当日は比較的暇になりますし」


 俺がハルのお誘いをやんわりと断ろうとすると、リアさんがニッコリしながら『行ってこい』と目で圧をかけてくる。


「……ヒーラー足りてないじゃないですか。いやぁ、もしメンバーがちゃんと揃ってればオーク討伐に行くんだけど……残念だなぁ!」


「ヒーラーに関しては大丈夫です。マワル君の護衛にもなるメンバーを助っ人として配置しますから!ヒーラーも出来るし、戦闘力も高い超絶助っ人ですよ」


 ……あれ?なんか淡々と逃げ道が塞がれてる気がする。おかしいなぁ……俺って別に冒険者なわけじゃないんだけど?てか、リアさん、俺の事を嬉々として死地に送ろうとしてない?

「……何か、俺の事殺そうとしてません?」


「いえ、そんなつもりは無いですよ?……ただ、今回の依頼はマワル君が行っていた方が良いと私のスキルが言ってるんです」


「スキルですか……【予知】的な奴ですか?」


「当たらずとも遠からずって所です。それにこの依頼を受ければ、マワル君憧れのマイホームに大きく近づきますよ」


「……。……行きます」


 その言葉に俺の意思が揺らぐ。マイホームを取るか、自分の安全を取るか。どちらを選んでも間違いではない。だが、この世界で一番交流があるであろうハルの頼みを断るのは俺の精神衛生上あんまり良くない。一応これまで調査の護衛をしてくれたって言う恩もあるしな……。


 そんなこんなで俺はオークの討伐依頼に行く事になったのだった。

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