~人を〇した俺でも子供は立派に育てられるでしょうか?~
「つまらん」
神歴564年、シュバルツ牢獄での50年という長い時間をカタは過ごした。彼の牢獄生活は50年前の人殺しから始まった。牢獄は彼の手によって破壊され、シュバルツ牢獄で初となる脱走犯を作り出した。
「よし、出ていこう。住むなら、田舎がいいな」
そんな一言と共に彼は森の奥に過ごす事になる。その生活が平穏から崩れ去るのはまだ先の話である。
魔法大陸レムナントの端にある森の中に住むカタは自給自足の毎日を過ごしていた。
「私にはどうやら狩りの才能があるようだ」
「数年この生活を暮らしているが毎日食料や水には一度も困ったことがない。なんて生活が理想だったのだが、実際は少し、いやかなり違う」(カタの心の声)
狩りの才能を持ったのはカタ本人ではなく、カタが初めて森で出会ったヤギのサムである。ここで注釈入れるならば、決してヤギが喋るのは当たり前ではない。
「狩りの基本は目ですよ先生」
カタはそんな小生意気な言葉を師と仰ぐ人間に使うヤギを有効に使い、自給自足またの名を他給他足の贅沢を尽くしている。
そんなある日、まるで雷鳴の如く地を駆ける音と共に有能であるサムの大声が私の耳を襲った。
「先生、ボサっとしていないで早く起きてください!巨人が突進してきます」
「ヤギって焦っても、人間の言葉を話す事ができるんだな」
そんな流暢なことを考えながら、窓の外を見てみると巨人がこちらを除いている。
「なんだお前は。私に何か用か」
質問の返事にしばらくの間が空いて、巨人はこう返す。
「わしと勝負をしろ」
「なんで私がお前のような種族を殺さねばならん。無益な殺傷はなるべく避けたいから帰れ」
「言ってくれるではないか。虫けらの大きさ程度の生物に挑発されたのは何千年ぶりか。面白い」
虫けらという私のコンプレックスである身長を槍のように鋭く刺したこいつに私の怒りは爆発した。
「殺す、お前だけは絶対に殺す。ただその前に理由を教えろ。死ぬ前に聞いといてやる」
少し不思議そうな顔をしてこちらを見ながら巨人はこう答えた。
「わしの名はシュド。この大地に生れ落ちて数千年の間、大地の縛りに取りつかれた純潔精霊の一人である。昨日、目覚めたばかりで近場から強いやつを探す旅をしている」
理由のショボさに呆気にとられながらも私はこう返した。
「そうか、つまりは私が運が無かっただけか。ひとまずそのよく分からん勝負は受けてやる。私は優しいからな。但し、その前にお前の魔法を教えろ。戦士としての礼儀で互いを知ることは重要だろ。ちなみに私の魔法は肉体の強化魔法だ。」
「それは奇遇だな。わしも大地の力を源にした肉体強化魔法だ。だが純潔精霊であるからそこら辺のやつの強化と同じにするなよ」
私は一つ嘘をついた。私の魔法は肉体強化ではない。というか私も私の魔法については詳しくは知らない。
≪解説≫この世界において魔法の性質を知るという行為は教会で行われる。一般の子供は10歳の年に教会でその性質を調べることで自分の能力を知れる。教会は犯罪者本人については立ち入りを禁止している。実質的な管理から排除され、国からの半永久的追放を受けることとなる。大きく魔法には二種類存在する。一つは肉体や火などの物理現象系、二つ目は人の心や内側に干渉する精神現象系の魔法である。
私の魔法は肉体を人よりある程度柔軟にするぐらいの能力だと認識している。理由は二つある。自分の骨が人と違い様々な方向に曲がることが一つ目。またそれに伴った筋肉量以上の身体能力が二つ目である。
戦いは終始一方的な形となった。シュドの攻撃をカタは受け流し、反撃を入れる。それが幾度も繰り返された。
「シュドお前に勝ち目はない。今なら見逃す位で許してやるから、早く失せろ」
「お前さん、気に入った。わしが勝った暁にはお前に一つ言う事を聞いてもらおう」
「瀕死の姿で何を言うかと思えば、そんな戯言をほざく余裕があるのか。まあいいだろう、私の勝ちは揺るがない」
「その言葉は承諾とみなしていいのだな。お前にはわしのとっておきを使ってやろう」
言葉と同時に大地が揺れ、カタの足元は大地に飲み込まれる。そして足が膝まで飲み込まれた時にシュドの拳がまるで隕石のような力で殴り掛かると、カタは叫んだ。
「私の負けだ。」
シュドは言葉と同時に顔の数センチ前で手を止め、満面の笑みでカタの顔を見つめてこういった。
「よし、ならば願いを聞いてもらうぞ。お前にはわしの子供を育ててほしい。というのも精霊は自分の命が終わりに近づくと自分の子供が生まれるのだが、今は私が眠っていた場所に置いてきている。わしは上手く生きても子供が一歳に満たない段階で灰となり消えてしまう。あと数か月の命だから人探しの旅に出たのだ」
「私は人殺しだぞ。それでもいいのか?」
「いやお前さんの心が住んでいる事は精霊の目を使わずともわかる。気にするな」
「そうかでは私の誠心誠意を尽くして、子供を育ててやろう」
それから二人はシュドが眠っていた場所に戻り、子供を抱え、カタの住処である木の家に戻った。戻るとサムは手の込んだ料理を用意し、楽しそうに彼らの帰りを迎えた。
「それで、子供はどこですか?先生が連れて帰ったという子供は」
「それならここだ。サイズは巨人ではない分育てるのはある程度は大丈夫だな。基本的な食事や生活はサムに任せる。私はそいつの実戦をサポートしよう。それでいいなシュド」
「承知した。まあ暫くは一緒に過ごせるから倅についての説明はまた明日にしよう。」
「そうだな。今日は夜も遅いし、私も疲れた。」
カタ、サム、シュドの息子は木の中で、シュドは木の横の地べたに体を横にし、疲れ切ったその心身を休めた。