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8 荒ぶるオヤジ達

読んでいただきありがとうございます。

 武器を振り上げながらやって来た非童貞のオヤジ達。


 な、なんというニオイ――!!

 こ、これはあれじゃないの。世界一臭いと評されるシュールストレミング並みのニオイっ!(前世でも嗅いだことないけど。)


 自分が武器を持った大人数に囲まれ討伐されそうになっている状況も忘れ、私は臭さで気絶しかけた。

 

 駄目だ! これはテロ! イケメンの匂いで中和しないと殺られる! と、思った私は身体ごと吸い込む勢いで鼻先を思い切りイケメンに押し付けた。


「おわっ!?」


 これよ、これ! このイケメンフレグランスよー!!!


 しかしそんな様子を見たオヤジ共は私がイケメンを仕留めに掛かったと勘違いを加速させたらしい。


「マルス様っ! 今お助けをっ!」

「お前達! 何が何でもマルス様をお助けするのだ!」

「おのれ魔物めぇええええええええ! 成敗してくれるッ!」


 え? 何、ユニコーンて問答無用で討伐対象なの? 

 この人達が知る訳もないのは仕方ないが、私は一応イケメンの命の恩人……いや、恩ユニコーンなのよっ! 折角生まれ変わったのにまたバケモノ扱いされるなんて嫌よッ!


 私の複雑な乙女心を察したのか、マルス様、と呼ばれたイケメンが慌てて声を張り上げる。


「みんなッ、落ち着いてくれ! 俺は無事だから!」

「し、しかしマルス様ッ! そやつは危険です。今にもマルス様を額の角で刺し殺そうと――」

「違うんだって! 取り合えず、武器を下ろせ」

「何故魔物を庇うのですか! 見れば大怪我を負ってらっしゃるご様子! その怪我もソヤツにやられたのでしょう!? 角にべったりと赤い血がついておりますわ!」


 しかし、やたらと血気盛んなオヤジ(達)は中々引かない。

 イケメン、改めマルスは自身が大怪我を負っていたことを忘れていたとでもいうように、ローブの血を見て、あっと言う表情を浮かべた。


「この血は殿下を暗殺者からお守りした際にやられた傷で、こいつじゃない! 信じられないかもしれないが、コイツは俺を助けてくれたんだ。その証拠にほら、服にこんなに血がついているのに、俺はこうして生きているだろ?」

「むぅ……しかし、そやつの角についた血は……」

「これ? これは血じゃなくて果物だ。俺のためにトマトンの実を採って来てくれたんだ」

「な、なんと……」


 言いながら、マルスが私の頭を撫でる。うふっ、人前で照れるッ!

 オヤジ達はなんとか納得してくれたらしい。


「しかし驚きましたな。確かマルス様はテイマースキルはお持ちでなかったと思いましたが」


 先陣を切って斧に似た武器を振りかぶっていたオヤジ(非DT)が顎鬚に手をやりながらこちらを見てくる。


「うん、持ってないよ。血を流し過ぎて地面に倒れて、目を開けた時にコイツと目が合った時は俺も流石に死んだと思ったよ」


 ハハハって爽やかに笑うマルスは素敵。

 でも、ちょっと待って。今のニュアンスって、確実にポジティブな感じではなかったわよね。


 ――えーと、とにかく助かったよ。目を開けて俺を覗き込んでいるお前を見た瞬間、死んだと思ったよ。まさかユニコーンにこんな力があって助けてくれるなんてな……。


 運命の出逢いに落ちた後、言われた言葉。

 

 私はてっきり、


 「目を開けて俺を覗き込んでいるお前を見た瞬間、(こんな美しいユニコーンがいる場所は天国かと思って)死んだと思ったよ」


 って意味だと思っていたのだけれど。


 もしかして、


「目を開けて俺を覗き込んでいるお前を見た瞬間、(ユニコーンに喰い殺されると思って)死んだと思ったよ」


 って意味だったってこと? え、そういうこと? 普通に落ち込むわ。転生して僅かな日数しか経っていないのに、私ったらもうすっかり自らの美に無意識に自信を持ち過ぎていたのね。前世散々ブスと呼ばれた弊害なのかしら。


 私とマルスのディスコミュニケーションが発覚したところで、マルスは私の身体を撫でつつ、簡単な経緯を説明し始めた。


 どうやらマルスは、自国の王女殿下の護衛として行動を共にしていた所を暗殺者に狙われたらしい。不意を突かれた最初の攻撃で、馬車に繋がれていた馬と馭者が殺され、馬車は横転。馬に乗って場所と並走しながら警護していたマルス達は、馬車を背に庇いながら必死に戦った。

 暗殺者は複数いて、殆どを倒したものの、その時点で護衛の殆どは息絶えているか、致命傷を負っていて、マルスともう一人の護衛だけが残った。

 幸い、王女殿下は侍女に庇われ、馬車の中で気を失っているだけだった。王女殿下を自分たちの乗っていた馬に乗せ出発しようとしたところ、二度目の襲撃。今度は単独で、かなりの手練れだったらしい。

 これは今度こそまずい、と思ったマルスは、残ったもう一人の護衛に王女殿下を抱えて安全な場所まで逃げるよう指示し、その場に残って戦ったそうだ。

 後は私の知る通り。暗殺者からなんとか逃げたマルスは湖に辿り着き、私と運命の出逢いを果たしたのである。


「殿下はどうした? それにお前達は何故ここが分かったんだ」

「王女殿下は幸い無事でございます。此処から近い、伯爵家の館で一時的に保護されたそうです」

「ああ、ヤルセン伯爵の所か……ニールの奴、いい判断だ」

「ええ、本当に。それで伯爵家の遣いから連絡が届きまして」

「だとしても、うちのカントリーハウスから此処までかなり距離があるだろ? 一体どうやって」


 マルスが戸惑いを浮かべると、斧を振り上げていたオヤジが口の片端をにやりと吊り上げた。


「そこはですな! ホレ、いるでしょうお身内にお一人、権力と膨大な魔力をお持ちのお方が」

「なっ! まさかアイツを頼ったのか!?」

「フハハハハハ、ビンゴですぞ」


 楽しそうに笑うオヤジとは逆に頭を抱えるマルス。

 あいつって誰よ! それより私のマルスを困らせるなんて、この非童貞オヤジ許すまじ!

 

 ゴスッ! ゴスッ!


 鈍い音が土煙と共に足元から響く。え、何の音かって? 私の蹄が地面を踏む音よ!


「お、どうした? もしかして俺を守ろうとしてる?」


 鼻息荒く今にもオヤジを殺りそうな私に気付いたマルスが、どうどう、と私の鬣を撫で、ついでに角についた果汁や果肉をハンカチで綺麗に拭ってくれた。

 すると、少し離れた場所に立っていたモノクルを装着しているオヤジ(こいつはヤリ〇ンのニオイがするわ!)が突然ぐんぐん近づいて来たかと思うと、はっ、と何かに気が付いたように息を呑んだ。


「ま、マルス様っ! もしや、この七色に輝く角を持つ白銀のユニコーンはっ! かつて、かの英雄エルフリート様に仕えた伝説のユニコーンなのではっ?!」

「え?」

「な、なにぃっ!?」


 その瞬間、誤解が解けた後解散状態になっていたオヤジ達が凄い勢いで集まり、私を凝視し始めた。





ちなみに、シュールストレミングの缶詰はスウェーデン大使館の自販機で買えるらしいです。

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