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4 初めてのモテ期……?

 女神様にさらりと独り立ち認定を受けた私は、ひとまず周囲を探検してみることにした。

 魔法の存在する異世界だけあって、見慣れない植物や果物があちこちになっている。


「う~ん、まさに楽園、といった風景だわ」


 あ、そういえばユニコーンって何を食べるのかしら?

 私はずっと眠っていたらしいけれど、今のところお腹は満たされているし、喉の渇きも感じない。

 

 試しに、近くになっていた赤く熟れた(様に見える)洋ナシに似た形の果物に噛り付いてみる。

 麗子だった時の私は慎重……というより臆病な性格だったので、得体の知れない果実にいきなり噛り付くなんてワイルドな行動は取らなかった筈だけれど、生まれ変わった私は警戒心よりどうも好奇心が上回っていた。

 身体の年齢が幼いせいなのかしら。もしかしたら、幼い身体に精神が引っ張られているのかも知れない。


 果実は普通に美味しかった。

 なんて名前なのか知りたくて、中二心が疼くままに「鑑定!」とか高らかに叫んでしまったけれど、当然の如く何もわからなかった。

 ついでに人目が無いのをいいことに異世界転生で定番の「ステータス・オープン!」も試したけれど、ステータスウィンドウが表示される、なんてミラクルは起きなかった。残念!

 ステータスは兎も角、鑑定が使えたらとても便利だろうけど……現実は甘くないということね。


 そんな風に気の向くままに足を進めると、ふと目の前に透明な膜のようなものがあるのに気が付いた。シャボン玉のようなそれは、触れると柔らかく押し返してくるけれど、力を入れて押せば通り抜けられそうだ。試しに額の角でつついてみたら、簡単に向こう側に出れた。


 そういえば、目覚めてからというもの、自分以外の生き物に出逢っていない。勿論、女神様は別よ。

 女神様はここを、私の父親が私のために作った"揺り籠"だと仰っていたことから推察するに、この透明な膜は私の父親が私を保護するために張ったもの、ということかしら。

 ユニコーンの本能というやつか、この膜の内側にいる限りは安全である代わりに、自分以外の生き物に出逢うことは無いだろう、と確信があった。


 前世で散々ブスと罵られた私は、他人と深く関わることが怖かった。他人と繋がりを持てば、それだけ傷付く機会も増えるから。

 それ故に出来る限り他人と関わらない生活を至上の幸福としていたが、折角女神様の御慈悲で生まれ変わることが出来たのだから、今世ではそんな生き方はしたくない。


 今の私に、"揺り籠"から出ることを躊躇わせるものは無い。

 膜に角を押し付け、そのままぐいっと前に押し出ると、薄い膜が一瞬全身に張り付いて抵抗するようにした後、そのまますっと消えていく。

 どうやら、無事に外に出られたみたい。


 外に出ても、美しい花々や植物に囲まれているのは変わらなさそうだ。恐らく森の中なのだろうが、日本の山中のような鬱蒼とした雰囲気はまったくない。空気はからりと清浄で、木の葉の隙間から差し込む光が心地良い。


 誰か、いや、何か?に出逢えるといいのだけど。


 期待に胸を膨らませながら、呑気にポクポクと歩いていた私は、一時間も経たない内に度肝を抜かれることになる。

 何故なら、歩き始めて暫くすると何処からか湧き出たようにやってきたユニコーン達(推定♂)が鼻息荒く、あっという間に私を取り囲んだから。見るからに荒ぶっている彼等は、我先にとこちらへ鼻先を寄せ、皆が皆凄い勢いで尻尾を揺らしたかと思うと、瞳をギラつかせながらその場で華麗なステップを踏み始めた。


 軽やかなステップと裏腹にドスッ、ドスッという鈍い音と共に舞い上がる土煙。


(えっ? ええっ?! これは何? 何なの?!)


 激しく踊り狂うユニコーン達の姿……これって、もしかしなくても求愛行動? 

 教えてドラ〇もん!



 想像してみて欲しい。

 あなたはユニコーンです。自分より二回りは大きい身体のユニコーン達に四方を囲まれ、激しい求愛ダンスを見せられています。さて、どんな行動をとりますか?


 ①逃げる

 ②挑む

 ③求愛を受ける



 私は無論、 ▶①逃げる を選択した。

 だって、怖いんだもの!!!

 会話を試みようとしたけれど、私が言葉を発した瞬間、更なる興奮状態に陥って状況が悪化したのよ! とても会話が成立する状況では無かったわ!


 荒ぶるユニコーン(♂)包囲網を強行突破し、混乱しつつもどうにか一息ついた私は、ふと思い違いに気が付いた。


 女神様は、前世の私に同情しこの世界に転生させてくれた。

 転生先は想定外の生物(ユニコーン)だったけれど、前世で読んだライトノベルではスライムやフェンリルなんかの魔物に転生する小説も多くあったから、ユニコーンに生まれ変わったこと自体は割とすんなり受け入れて、女神様がプレゼントしてくれた新しい人生を送るんだ、って思ってた。


 私は気付いていなかった。

 前世、私が死の間際に願ったことは『異世界に転生すること』ではない。異世界に転生したのは、あくまで私の願いを叶える手段であって、それが目的ではなかったのだということに。


 前世、死の際に私が願ったのは『来世は可愛く生まれたい』だった。

 そして、女神様は魂ごと異世界に引っ張ってまで、その願いを叶えてくれた。そう、たとえ生まれ変わった先の種族がユニコーンだとしても――。


 それに気が付いた時の私の心境は……言葉では言い表せない。

 

 つまり、私は多分、ううん、絶対、ユニコーン界の美女に生まれ変わっていたのだ!

 

 冷静になって、先程踊り狂っていたユニコーン達の姿を思い浮かべると、そういえば彼らの角はつやつやしていたが色は一色で光ってはおらず、毛の色も、黒や白、青、黄、茶……と様々だったが、女神様と同じ、輝く銀の毛並みを持つ者はいなかった。


 対して、改めて水面で確認した私の姿は一線を画す美しさだった。

 オパールのように角度によって色を変える七色の角。陽の光に輝く白銀の鬣。艶々の毛並みに、イエローダイヤモンドにも負けない輝きを内包した金色の瞳。その瞳を縁取る睫毛は驚く程長く、バランスの良い体つきは彫刻のよう。


 ……なるほど、これはユニコーンのオス共が色めき立つ筈である。


 私の母のことを、女神様は自分の眷属とも言っていたから、女神様そっくりのこの神々しい白銀の毛並みは、その影響かも知れない。


 容姿が大事なのは、ヒトでもユニコーンでも変わらないのね……。


「はぁ、これからどうしよう」


 麗子だった時、小説や漫画を読むのが好きだった。アニメも時々見たわ。特に好んでいたのは、SFやファンタジー。あれって、今から考えれば多分一種の現実逃避だったのよね。

 そんな麗子は、空いた時間によく空想していたものだ。

 もし美人に生まれ変わったら何をしよう、だとか。

 突然、世界が美醜逆転したら!? とか。


 今世での鬱憤を晴らすようにブイブイいわせるのもいいし、美貌を利用してタレントやアイドルを目指してもいい。でもやっぱり、一番は素敵な人と素敵な恋をしたい、って思っていた。


 空想していた状況とはちょっと、いや、かなり違うけれど、折角美人(美ユニコーン?)に生まれ変わったのだから、前世で夢見た素敵な恋がしてみたいわね。


 人間だった記憶を持つ私がユニコーンを恋愛的な意味で愛せるかはとりあえず置いておいて、そのためには怖がらずにユニコーン(♂)と仲良くならないと……って、思ってはいるのよ!

 しかしながら、現状は息を潜めて隠れている……。


 だって、奴らと来たら、私の姿を見た途端、「ピュー!」って高い声を出したかと思うと、猛烈な勢いで走って来て、求愛ダンス始めるのよ! 少しでも気のある素振りをした日には、その場で繁殖活動が始まってしまいそうなのよっ!


 どうやらユニコーンというのは、情熱的な種族らしい。

 何故父が私を"揺り籠"に隔離していたか、嫌という程分かってしまったわ。


 私がいるのはユニコーンの里のようで、今のところ他の生き物はリスやウサギなどの小動物しか見ていない。しかも小動物は私が近づくとあっという間に逃げてしまうので、会話が成立するかどうかすら不明。

 美人になっても避けられることはあるのね。

 そして反比例するように、何故か日が経つごとにユニコーン(♂)の数が増えているような気がする。むしろ、私を目当てに集まっているような。


 駄目元で女神様に話しかけてみたりしたけれど、当然の如く返事は無かった。

 そうよね、女神様だもの。普通はそんなに軽々しく口を利ける存在でないのは分かっていた。


 何度も何度も沢山のユニコーン(♂)に囲まれては逃げる、を繰り返すこと三日。

 転生して(意識が覚醒して)僅か三日だというのに、私は早々に音を上げた。

 

 もう、此処で暮らすのは無理っ!


 そうして、私はユニコーンの里(仮)を爆速で出奔した。

 

読んでいただきありがとうございます。次話、ヒーロー登場予定です(*´ω`)

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