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2 目覚めたらユニコーン(♀)

 目覚めたらユニコーンだった。


 ……え? 意味が分からないって? わかる。私にも信じられない。


 私、久能麗子、三十六歳。麗しい子なんて大層な名前を付けられたのに、生まれたのは玉のようなブス。そこからはブスに起因するありとあらゆる不幸を背負った人生を送っていたわけだけど、ある日子どもを庇ってトラックに轢かれて死んで、ジ・エンド。


 何のためにも、誰のためにもならない人生だった。

 私の人生はあの時、あの場所で確かに終わった筈だった、のに!


 目が覚めたら、神話の生き物、ユニコーン(♀)になっていたのよ!!!


 なぜ分かったかって?

 気付いたら花や植物に囲まれた見知らぬ場所にいて、近くにある水晶のような不思議な素材で出来た噴水に、ユニコーンが映っていたの。そう、あの漫画やアニメでしか見たことの無い、角の生えている馬よ! ユニコーンと言えば、マイ〇トルポニーよね。中二心が疼いてちょっと確認したけど、翼は生えてなかったしキューティーマークも無かったわ。がっくし。


 水面に映るキラキラしい姿のユニコーンは、私が右を向けば左を向き、左を向けば右を向く。

 舌を出せば同じようにあっかんべーをして、くしゃみをすれば同じようにくしゅん、と顔を歪めるんだもの。

 そんなの、認めざるを得ないじゃない。ああ、これが私の姿なのね、って。それで理解したわ。


 それにしても、此処は一体どこかしら。

 瑞々しい花や植物が溢れ、太陽が露に反射しているのか、あちこちキラキラと光っている。麗子だった時はあまり自然と触れ合う機会が無かったけれど、此処の澄んだ空気と比べたら、前世(?)で吸っていた空気は毒ガスよ、毒ガス!


 それにしても、なんだって私がこんな御伽噺の生物に――!?


 密かにパニックになっていると、どこからか不思議な声が聞こえて、とんでもなく美しい女の人の姿が頭に浮かんできた。


『レイコ、目覚めたのですね』

「ふわぁっ!?」

『ふふふ、驚かないで。我が名はイシュタル。この世界の女神です』

「めがみ、さま……」


 なんでだろう。疑い深かった前世の麗子()のままなら、きっと自分の頭がおかしくなったか、とんでもないスピリチュアル詐欺に巻き込まれているに違いない! と、思う所だけれど、恐らく転生した影響なのか、今の私にはその言葉が何の疑いもなく、ストン、と受け入れられた。


 後から思えば――目の前に姿があるわけでない女神様の姿が浮かび、会話が成立している時点で不思議に思うべきなのだが、この時の私はそれをごく普通のこととして自然に受け入れていた。


「女神様……イシュタル様……私は人間の女で、車に轢かれて死んだ筈なのですが、生まれ変わったのでしょうか」

『ええ、そうよ。たまたまダーリンを追いかけてあちこち異世界旅行していた時に、とてつもなく強い思念が飛んできたので、観光がてら気になってちょっと覗いてみたのです。そうしたら、今にも亡くなりそうな女性が血だらけで倒れていて、強い思念は彼女のものでした。興味本位でうっかり()()しまった女性(あなた)の半生があまりにも悲惨で……可哀想なので、最期の願いを叶えてあげることにしたのです』


 あ、前世の麗子()、女神様から見ても悲惨な人生だったのね。なんだかヘコむ。

 それにしても、女神様ってばちょくちょく好奇心旺盛さを出してくるわね。意外とお転婆なのかしら。


『ただ、生憎私はあなたの生きていた世界には存在しない神なので、本来なら干渉出来無いのです。あなたの願いを叶えるためには、あなたの魂を私の力が及ぶこちらの世界に持ってくる必要がありました』

「つまり……ここは女神様がいらっしゃる異世界、ってことですね」

『その通りよ。あちらの神とちょっとした取引はあったけれどね』

「まさか、私のことで女神様になにかご負担が……?」

『負担という程でもないから、気にしないで。あちらの神もあなたには同情していたもの』


 ………地球の神よ、同情してたのかい! "同情するなら金をくれ!"、って、こういう時に使うのかしら。あちらの神に会う機会があったら是非とも叫びたい気分だわ。


「あの、魂だけこちらの世界に、ということは、私はもしかして、このユニコーンの身体を乗っ取ってしまったということでしょうか?!」


 そう、実はそれが一番気になっていたの。

 前世、私が生きていた頃は異世界転生ものの小説が一大ジャンルを築いていた。中でも悪役令嬢に転生するのは定番のひとつだったけれど、後から記憶を思い出すパターンもあれば、本来の悪役令嬢の魂とは別に、異世界から来た主人公の魂が入ってしまったパターンもあったのよね。その場合、本来の身体の持ち主の魂を乗っ取ったような場合もあって……だから、自分が以前とは違う身体(違いすぎるけどね!)になった上に、この身体で生まれた記憶が無いのが不安だった。

 もしかしたら、私の魂がこの身体を乗っ取って、本来のユニコーンの子を追い出しちゃったんじゃないかって……。


 そんな私の不安をよそに、女神様はあっけらかんと笑って教えてくれた。


『ああ、折角生まれ変わったのに不安そうにしていると思ったら、そんなことを気にしていたのですね。それは大丈夫。その身体はあなたのために用意したものですから』

「えっ! ではこのユニコーンの身体は女神様が!?」

『あーうん、多分あなたが想像しているのとは違います。用意した、と言っても、きちんとあなたに両親はいますから。私の眷属……大事なお友達でもあるのだけれど、とっても可愛いユニコーンです。その子、長年片想いしていた子と漸く結ばれて、長い蜜月期間を送っていたのですけれど、そろそろ子どもを作ってもいいかな、ってお話していたので、あなたの事情を話して彼女のお腹の子として育てて貰ったのです』

「そうなのですか……」


 女神様の説明は、わかるようで、よくわからない。とりあえず私が誰かの身体を乗っ取ってしまったわけではないようで安心した。


 転生させてくれただけで感謝すべきとわかっているけれど、ひとつ聞きたいわ。


 女神様、ユニコーン以外の選択肢はなかったのですか?!

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