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現代を知るのは大変です!!

時は平安時代から、

ひょんなきっかけで平安時代から現代の日本へタイムスリップしてしまう。


〜序〜

時は平安時代。

魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)し、人と妖怪の類が共存していた頃、

「いま何時ぞ?」

柱に背を預けつつ、貴族らしい艶やかな衣に身を包んだ姿で、顔は目筋鼻筋が通った、美男という言葉はとはこの男のためにあるようなようなこの男が、甘く香る酒を杯に満たしながら問いかけた。

「いまか?そうさなぁ、、巳の刻を過ぎた頃ではないか?」

対面する形で横になっている狩衣に烏帽子姿で、顔立ちは、朝露に濡れたサンカヨウの様な儚さと凛とした佇まいを兼ね備えた男が答えた。

「そろそろ屋敷に戻るとしようか」

柱に背を預けていた男が杯をぐいっと呑み干し、立ち上がろうと右足に力を入れた。

「まぁ、、待て正雅。」

立ち上がろうとしていた男を呼び止める。

「晴明よ。俺はいま良い気持ちで帰ると言っているのだ。それに今宵は満月で妖の類でも寄ってこられては敵わん。」

男は言いながら長い廊下を歩き始めた。

「まぁ、待てと言うに!あと半刻もすればおもしろいものが見れるかもしれぬぞ?」

うすら笑みを浮かべながら、晴明と呼ばれた男が呼び止める。

「おもしろいもの?お前が言うおもしろいものはいつだって妖の類いばかりではないか!毎度付き合う私の身にもなってみろ!私は、生きている者以外は嫌なんだ!」

いささか酒の勢いもあって、言葉がきつくなる。

「いいか?晴明よ!都の陰陽を司るお前なら何とかなるから良いものの、私の刀では妖の類いは斬れないんだ!そのあたりお前も分かってるだろうが!」

正雅が怒っているのが声色からはっきりと伝わってくる。

「妖の類いも存外に悪くない事もあったろう?それにお前の懐に入ってる札もちゃんとお前を守っているだろうよ。なにせ俺自身が真剣に印を結んだ札なんだから。」

涼しげな眼差しを向けてそう言い放つ。

「いやそれはそうだが。。」

さっきまでの威勢が収まりつつある。

先程からお前呼ばわりされているこの男は源正雅(みなもとのただまさ)

時の醍醐天皇の実子であり、遊び人。愛し君へ逢瀬に行く最中で百鬼夜行に出会(でくわ)し、あわや(あやかし)のエサになる所を安倍晴明(あべのせいめい)に助けられる。

それからは事あるごとに晴明、晴明と家へやってくるようになった。

最初は貴族で位の違いもあり、正雅様と呼んでいた晴明だったが、正雅から、

「お前の屋敷内では私も肩肘張らず居たいのだ」

との申し出により、正雅、最近ではお前呼ばわり。。

当の本人はそんなに気にしてないからか、はたまた呆れているのかどうでも良いらしい。

「おっと。そろそろか?」

煌々(こうこう)と月明かりに照らされている庭に目を向け、晴明は言う。

「なんだ?いつもと変わらぬではないか?」

正雅が目を細めて晴明の見ている方向に視線を向ける。

屋敷に似合わぬ色とりどりの草花が生い茂ってる中に、小さな池に月が照らさせているだけである。

「!?」

一瞬ではあるが水面が揺らいだ。

「晴明よ!池に何ぞ魚がいるのか??」

目を見開き、驚きつつも正雅は問いかける。

「いや?何もいないのはお前も知っているだろうよ」

今更何を聞いているのだと言わんばかりに晴明は答える。

「でもいま水面が揺らいだぞ!」

驚きを隠せない正雅はその場に立ち尽くしたかと思えば、急いで晴明の元へ向かう。

「今日はな、10年に1度だけ門が開くのだよ」

晴明は淡々と話す。

「門とは?」

正雅は、真っ当な意見を口にする。

「正確には異相門と言ってな?この世とあの世の狭間にある門なのだが、この半刻に限って言えばどこに繋がってるか分からん門なのだよ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。なぁ楽しいだろ?」

晴明の口角が上がって、さながら子供が新しい玩具を手にした様だった。

「どこがだ!!」

正雅は怒鳴りながら晴明に言い放つと同時に脇に差している刀を抜く。

しかし、腰から下はガタガタ震えている。冷や汗もかき始めていた。

そのまま時間にして5分程だろうか。正雅にはその5分が1時間にも感じていただろう。

「。。。はて?何も出てないな?星を読み違えたか?」

晴明はなんとも言えない表情で呟いた。

「晴明でも間違うことはあるのだな。まぁ、良いさ。何事もないのが一番さ!」

先程の正雅とは別人の様に納刀し、安堵の表情を浮かべる。

「いや、間違うはずがないんだがなぁ。。」

訝しげに池へと近づく晴明

「晴明のせいで帰りが遅くなった!何も起きぬうちに私は帰るぞ!」

踵を返し正雅が廊下を歩き始めた瞬間、

「正雅!!」

晴明が柄にも無い大きい声を上げた

「!!」

突然の晴明の声に正雅は、びくっと反応した。

「どうした!!」

正雅は刀に手を掛けつつ振り向いた

「これ見てみろ!」

晴明は左手で池を指差しつつ、右手で正雅を呼ぶ

「何か出たのか!!?」

おそるおそるではあるが、しっかりと刀に手を添えつつ晴明のもとへ向かう。

「ほら早く!」

晴明の語気が強くなる。

分かってはいるが、正雅も怖い。じりじりと池まで向かう。

池の中全体が見える場所までやってくると、

「正雅よ、これはなんだか分かるか?」

水面に写っているのは月ではなく、見た事もない人や建物

おおよそ、宮中でも見た事のない物ばかりが映し出されていた。

「いいや。宮中でもこんな者たちはいないし、第一に晴明が分からないものが私に分かるわけがないだろう?」

「すまん。聞いただけだ。」

「だろうな。」

こんなやり取りをしながらも晴明はおもむろに何やら懐から人型の紙を取り出し、一緒に持っていた筆を池の水に付けて人型へ書き出した。

「もしこれが黒く染まれば、あの世だ。染まらなければ、あの世ではない。」

書き終えた晴明は何やら呪文を唱え、その人型を池のほとりの石の上に置いた。

「。。。何もおきないな」

正雅が呟く。

すると何の前触れもなく晴明が池へ顔を突っ込む。

突然の事に正雅は言葉も出ず、ただ池に顔を入れている晴明を見ていた。

「!?おい!!」

晴明の肩を掴み引き上げる正雅。

「正気か!晴明!」

ずぶ濡れになった晴明の肩を揺らしながら正雅が問いかける。

「すごいぞ正雅!箱が動いているぞ!見た事もない景色があるぞ!」

逆に正雅の肩を揺すりながら晴明が答える。

「はぁ。。とうとう夢と現実まで分からなくなってしまったのか晴明よ。私は悲しいぞ。」

「いやいや正雅も見てみろ!この世の物とは思えないぞ!」

瞳をキラキラさせて、まるで童心にでも還ったかの様な振る舞いに正雅も若干興味が出てきていたものの、

「ならあの世ではないか!危うく騙されるところだった」

正雅がそう言うと、

「先ほど人型で確認したであろう?あれはれっきとした現実だよ!」

自信満々に晴明は答える。

それでも俄かには信じられない正雅に対し、

「なら一緒に顔を入れてみよう!」

晴明が正雅の首根っこを掴んだと同時に顔を池に入れる

「!?」

一瞬の出来事で目を瞑っていた正雅だったが、目を開いた次の瞬間

「なんだこれは?!」

正雅の目に映ったのは、紛れもない人、動く箱、見た事もない高さの建物だった。

「なぁ?言ったであろう?」

横にある晴明の顔がそう言っているようだった。

池から顔をあげ、お互いの顔を見る

「見たか?」

「あぁ、たしかに見た」

お互いに今まで見た事も聞いた事もない人や物に驚きを隠せない。

おもむろに晴明から、

「行ってみないか?」

ふと声が出ていた。

「は?」

正雅には晴明の言っている事が分からなかった。

「だから、あの世界に行くんだよ!お前と一緒に!」

「。。。はぁ?!」

正雅は半ば呆れたような声で反応する

「はぁ。。第一にあの世界が仮にあったとする。行けたとしよう。で、どうやって戻ってくるのだ?あちらの世界で何をする?それに晴明よ、言っていたではないか!10年に1度しか門が開かないと!」

ごもっともな意見だ。

仮に行けたとしても還ってこれる保証などどこにも無い。

更に言えば命の保証もない。

しかし晴明も馬鹿ではない。

「確かにお前の言う通りだ。保証はない。だがお前の事だ、見たであろうあちらの女子を!」

確かに見た。

いや、見入っていたと言う方が正しい。

晴明は正雅という男は、生粋の女子好きであるという事を忘れていなかった。

「それは。。そうだが。。」

正雅と正対した晴明は真剣な眼差しで、

「お前にも利があるであろう?俺はあの世界そのものに、お前は女子に」

言っていることは下衆である。

ただその言葉に正雅は嫌だと言えなかった。

「条件がある!必ずこの現世に2人で帰ってくる事。これが条件だ。」

晴明は二つ返事で

「分かった!必ず帰ろう!」

俄かには信じ難いが、そこは最強の陰陽師たる所以の安倍晴明。

嘘偽りがない事を、正雅は知っている。

それだけ信頼できるものが2人の中にはあったのだ。

「なに、少し遠出するくらいだ。案ずるな」

晴明の顔から笑みが溢れる。

「じゃ参るとするか!」

晴明が池へと足をかけた瞬間

「待て!行くからにはそれなりの準備というものがあるだろう!」

行こうとする晴明を引き止める。

「無理だ!まもなく門が閉まる!準備の暇などないし後の事はあっちで考えろ!」

またもや正雅の首根っこを掴んで無理やり池に投げ込み、自分も入る

「ばかやろうぅぅ。。。」

そんな声が響き渡っていた。

かくいう晴明は、いつ何かが起きても良いように準備はしているのであった。

池に入るとまるで底なし沼の様に、先程の光景とは真逆の何も無い、いや見えないと言った方が正しいだろう。

月明かりも何も無い真っ暗闇。

正雅は必死に水面へ上がろうとしていた。

「死」というものを直感的に感じたのである。

しかし、いくら泳いでも手足をバタつかせても上へ上がれない。何かが引っ張っている。

人間という生き物は、ダメだ、見てはいけないと頭の中では思っていても見てしまうのが必定である。

恐る恐る下へ視線を向けるとそこには、、

おおよそ人とは思えないモノ、異形ともはたまた仏とも取れる何かが引っ張っていた。

必死に抗って(あらがって)みたものの、土台無理な話。

晴明はというと、されるがままに水底へ連れてかれている。

正雅の意識が遠のきつつある中で、絶対に死んだら晴明を祟ってやると心底決意して気を失うのであった。

〜序終〜

〜いきなりの危機?!〜

「正雅!起きろ!」

そう呼ばれてはいるが、日差しが瞼を開ける事を許さないかの様に照りつけている。

「おい!早く起きろ!」

ゆっくりとではあるが、少しずつ瞼を開けつつ、

「なんだ?俺は死んだのか?」

無理もないだろう。

つい先ほど確実に「死んだ」と思っていたのだから。

「馬鹿なこと言うな!それより早くその目を開けないか!!」

頭にガンガン響く声。

あぁ、晴明の声だ。

はっと我に返った正雅が目を開く。

そこには見た事もない、いや1度確かに目にした景色が眼前に広がっていた。

「正雅よ。見てみろこの景色を!おおよそ(みやこ)とは全くかけ離れているではないか!!」

開いた口が塞がらないとはまさにこの事と言わんばかりに正雅は呆けていた。

「確かに」

それしか言葉が出てこない。

夢じゃなかろうか?そう思って頬を叩く。

痛い。どうやら夢じゃなさそうだ。

「本当に来たんだ」

実感が沸々と湧いてくる。

正雅と晴明の2人は顔を見合わせると、自然と笑みが溢れていた。

しかしながら、場所も時代も何もかも、ここがどこなのかさえ分からない。

喜びも束の間、2人の前に男が2人やってきた。

「あなた達ここで何やってるの?」

「なんでこんな暑い日にこんな濡れて、、ってそれコスプレ?」

「?」

晴明と正雅は見たこともない服装の男に質問されていた。

「私を知らぬと言うか!源正雅であるぞ!其方達も名乗らぬか!!」

正雅が凄んでみせたが、

「警察ですが、何か?」

「?」

けいさつ?

なにそれ知らない!

あたふたしている正雅をよそに晴明は何も言わずにその場で立ち尽くしている。

「とりあえず、道の真ん中で2人倒れてるって通報が入ったから来たけど、あなた達大丈夫なの?何か身分を証明出来るもの持ってる?」

「身分などこの装いでわかるだろう!貴様らとは生まれが違うのだ!」

「貴方のその脇にあるの刀?模造刀?」

話が噛み合わない。

「これは真守が一振り銘を綱抜という」

おもむろに正雅が抜刀した瞬間、

「!?今すぐ地面に置きなさい!!」

警官が後退りしながら正雅に対して、警官が睨みを効かせつつ怒気のある声に変わった。

その間にもなんだなんだと人だかりができ始めつつあった。

流石にまずいと感じた正雅は晴明へ視線を、

「ん?」

晴明が居ない。

先程まで隣に居たはずなのに、

代わりに地面には人型があるだけ。

「晴明のやつどこへ行った!!」

あたりを見渡すが当然のごとく姿は見当たらない。

「無駄な抵抗はやめて大人しく刀を置きなさい!!」

気付くと先程と同じ服装の人達に囲まれている。

6、7人は居るだろうか?

このままだと得策ではないと悟った正雅は、納刀しそのまま地面へと刀を置いた。

なだれるように警官全員が正雅の事を取り押さえる。

「8時37分銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕!」

「待て!私が何をしたというのだ!!」

こうして訳もわからず、正雅は警察の厄介になる事となった。

その時晴明はというと、正雅が抜刀した瞬間全員の視線が正雅に向けられた時に呪文を唱え、気配を消していた。

もちろん消えたわけでも、その場から離れたわけでもない。

ずっと正雅の隣に居たのだ。

ただ誰も晴明という人物を認識出来ないだけで、そこに居たのだ。

手錠を掛けられパトカーに乗せられていく正雅を見送りつつ、

「まぁ、あとで助ければ良いや。命に関わる事なら人型が護ってくれるし!」

と呑気に考えていた。

ただ、正雅がパトカーに乗せられる際、刀も押収される訳だが、警官が刀を手にするほんの一瞬だけ邪気を感じた。

「。。。まぁ、大丈夫だろう!それより今を楽しもう!」

晴明の頭にはそれしか無かった。

〜いきなりの危機?!終〜

〜晴明は現代を楽しみます?〜

晴明は感動に打ちひしがれていた。

見るもの全てが新鮮だからだ。

人にしろ物にしろ、ありとあらゆる全てに対して好奇の眼差しを向けていた。

「なんだあの衣は?!」

「いくら暑いとはいえど、まるで農奴のような格好ではないか!」

照りつける太陽。確かに暑いといえば暑い。

特に狩衣なども快適性など皆無に等しい。

自身の格好は平安の世であれば官職であり、言わば制服なのである。

自身の仕事にもそれなりの自負はあるがしかし。。

「暑い。。」

それに見渡せば、皆が薄着である。

「同じ物を着ねば逆に怪しまれるか。。」

しかし困った。

服など買ったことがない。

「みな式神にやらせていたからな」

「。。!!」

そうだ!!式神に頼めば良いんだ!

晴明は人型を両手で挟みつつ印を結び、

「我と契約せし式よ。手となり足となり顕現せよ。」

そう晴明が唱えると、人型がみるみるうちに狐へと変わっていった。

「霊狐よ、あの物に化けよ。」

指差す先に、通りすがりの男性の中から背丈が自分と同じくらいであろう者に化けさせた。

そのまま霊狐に対し、

「化けたあの者以外に衣装が欲しい、どこに売っているか聞き、買ってこい。」

そう命令して、懐にあった銭を渡す。

男に化けた霊狐は深々と晴明にお辞儀をして、人の流れのある通りへ走っていった。

霊狐が買い物に行っている間、晴明は自身の持つ符や占星術を駆使して吉兆の方角や自身のいる場所を確認することにした。

どうやら、都とは離れた場所にいる事は違いない。

そして、西の方角から悪しき気が流れつつある事も同時に確認していた。

本業だから楽なもんだ。

そうこうしてる間に、霊狐が帰ってきた。

だいぶ身軽だが本当に買えたのだろうか?

不思議に思っていると霊狐が、

(あるじ)、大変でございます。通貨が違うございます。

これでは買うことができません!」

晴明は失念していた。

ここは平安時代ではない事を。同じ貨幣では無い可能性を。

「これはすまない事をした。もう戻っていなさい。」

そう言って手をパンパンと叩くと元の人型に戻っていった。

「はぁ。。面倒だが仕方ないか。。」

そう晴明が言いながら袖から2本扇を取り出して広げると何やら呪文を唱えた。

すると、扇子だった物が形を変えてTシャツと短パンに変化した。

「子の刻までしか維持できないし、そもそも霊力使い続けるから嫌なんだよね。。」

ぶつくさ言いながら作り出したTシャツと短パンに着替え始めた。

「狩衣は、持ち歩くのもなぁ。」

ため息混じりに晴明は悩む。

「よし!売ろう!」

先ほど通貨が無い事で痛い目を見ているのだ。

「しかしどこで売れば良いのか。。?」

悩んでも仕方ない。そう意気込んで、先程まで式神に行かせていた通り方へ足を向ける。

しばらく歩いていると、壁に背を預けつつ、暑さにうなだれる様に何やら待ち合わせをしているような、1人の女性が目に止まった。

「もし?この服を売りたいのだが、どこへ行けば買ってくれるだろうか?」

唐突に晴明はその女性に話しかけた。

女性は、怠そうに顔を晴明の方向へ向けると、

「あそこの角を右に曲がって信号を左に曲がって、突き当たりをまた右に行けばあるよ。」

気怠そうに女性が答える。

「信号とはどういう物だ?」

きょとんとした表情で晴明は聞いた。

「は?信号は信号でしょ?あんたまさか信号知らないとか言わないよね?」

まさかと思いながらも女性は聞き返す。

「あぁ、知らぬ」

当然だ。平安に信号など有りはしないのだから。

「嘘でしょ?!あんたいつの人よ!新手のナンパ?」

女性は驚いた様な、しかし笑ってもいる。

ころころと表情の変わるこの女性を見ながら晴明は、正雅を女性にしたらこんな感じか?と全く見当違いな事を思っていた。

「すまぬが、おおよそ検討もつかぬので、そこまで連れていってはくれぬだろうか?」

凛とした顔で晴明は女性に問いかける。

「。。ナンパじゃないんだね?」

ジッと女性が晴明の顔を見つめる。

「そのナンパとやらはなんだ?」

少し困った様な表情で、晴明は女性に聞き直す。

「ぶっ。はは、良いよ。お兄さん悪い人じゃなさそうだから、付き合ってあげるよ!ちょっと待ってていま連絡だけするから。」

女性がそう言うとおもむろに鞄から何やら板を出し、それに向けて話しかけている。

「ん!そう。なんか困ってるっぽいから店まで連れてったらそっち行くからどっか適当な所入って待ってて!そんじゃ!」

そう言い終わると板を鞄に入れる。

「気になるのだが、歩いていると皆がその板の様な物を見つめてたり話しかけているが、それは一体なんなのだ?」

晴明は鞄へ視線を向け、訝しげに見ている。

「。。あんたマジで言ってる?本当にいつの人よ?」

逆に怪訝な視線を女性は晴明に向ける。

「平安の世から参ったのだが?」

「ちょっと待って意味がわからん。いま令和よ?もう少しまともな嘘言ったら?」

晴明はいたって真面目に答えたというのに、女性は軽くあしらうように返した。

「まぁ、いいや。暑いしこのままだと埒があかないからさっさと行くよ!」

女性はそう言うと、てくてく歩き始めた。

晴明はその女性の後をついて歩く。

歩いて10分ほどだろうか。目的のお店までたどり着いた。

女性は扉を開けて、少し中へ進むと

「店長ー!お客さんだよー!」

女性が大きな声でそう言うと、何やら奥から40代くらいの男性が出てきた。

「いらっしゃいませ〜!ってあれ?美帆ちゃんじゃん?今日は友達と遊ぶって言ってなかったっけ?」

店長と呼ばれた男が問いかける。

「そうなんだけど、さっきこの人から声掛けられてさ?服売りたいんだって場所聞かれて、分からないって言うし、悪い人じゃなさそうだったから連れてきたんよ。」

美帆は店長に聞かれたことに素直に答えた。

「そうなんだ〜!ありがとね美帆ちゃん!」

にこっと笑みを浮かべた店長は受付のカウンターへ回ってそう言った。

「じゃあ後の事宜しくお願いします〜」

そう言いながらお店を後にしようとした美穂に対して、

「すまぬ!礼は後ほどするでな!」

と晴明は軽く会釈をしつつ美帆へ手を振った。

「また会う事があればね!期待してるよ」

笑みを浮かべながら美帆はその場を後にした。

「さて、お客様!売りたい服ってどれ?」

店長が営業モードで対応する。

「これなのだが、、」

と先程まで着ていた狩衣をカウンターへ置く。

「コスプレ?にしては生地じゃ上等ですね?少し待っててもらえます?」

そういうと店長は狩衣を持って、店の奥まで入っていった。

その姿を晴明はジッと見つめている。

店長の姿が見えなくなった所で改めて店内を見渡す。

見渡す限り色々な服が置かれている。それにしても外はあれだけ暑いのにこの中はどうだ?心地よい風が吹いているぞ?上を見上げると羽根のついた物がブーンと音を立てながら右に左にと動いている。

晴明には奇怪な物ばかりだ。

そうこうしてる間に、

「お客様!お待たせしました!」

そう呼ばれて晴明が振り向くと、カウンターに先程の店長がいた。

「上下で3万円ですね。どうします?売りますか?」

店長は、晴明に対しお伺いを立てる。

「すまないが、この世のものに疎くてな、その3万円とやらが分からぬのだよ。」

「えーっと、、本気で言ってます?」

「無論だ」

「店長とやら、少し時間をくれないだろうか?」

晴明は店長に問う

「まぁ、お客さんも居ないですし少しなら良いですけど。。」

「すまぬ」

そう言うと、晴明は印を結んで、呪文を唱える。

「これでここには何も入って来られないから話せるな」

店長は、自身のお店でありながらいつもの雰囲気ではない事に直感的に気が付いた。

「あんた何者?」

店長はキッと晴明を睨むが、その目の奥は怯えている。

「まぁ、そう睨まないでくれ。店長とやらが信用に足るのはさきほど視ていたからわかっている。ただ、他のモノに聞かれるのはまずいのだ。」

そう言うと近くにあった椅子に腰をかける。

「店長よ、今から言う事は全て事実であるが、決して他言しないでほしい。」

晴明がそう言うと、

「話の内容のよります」

もし、犯罪だの厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだからだ。

「心配かもしれないが、悪い事ではない。安心してくれ」

晴明が店長に居直り言い直す。

「わかりました」

店長がそう言うと、

「言質は取ったぞ?」

と、晴明の口角が少し上がった。

それから店長に事の顛末を話し始めた。

平安時代から来た事

安倍晴明という陰陽師である事

源正雅と一緒に来たが、警察官に連れて行かれた事

ここに辿り着くまでの一通り全てを話した。

「にわかには信じられない話ですね。。」

店長は静かに口を開けるとそう言った。

「であろうな。店長の気持ちは分かる、が真実なのだよ」

そう言うと、短パンのポケットに入れてあった人型をおもむろに取り出し、先程の式神を呼び出した。

「キツネ?!」

霊狐は店長に向かってお辞儀をして、

「主に仕えております。(びゃく)と申します。」

「キツネが喋ったぁぁぁ!!」

店長は腰を抜かしその場にペタリと座り込んだ。

白が心配そうに店長の顔を覗き込む。

「まさに狐につままれた様であろうよ」

晴明は笑みを浮かべながら店長に言った。

「マジかよ。。」

店長はなんとも言えない表情で呟いた。

「まぁ、話は分かった。で、なんで俺に話した?」

店長の問いに対し、

「信用に足る人物だと言うのが分かっていたからな。私の目には、善い人間と悪い人間の区別がつくのだよ。」

奥に向かう店長を見つめていたのは、真偽を確認するためだった。

「顔では笑っていても、腹の中では逆のことを考える様なやつも多くてな?店長を視たが純白だった。だから信用して話したのだ。」

続けて晴明はこう切り出した。

「この世界のことを教えてはくれないだろうか?」

と。

店長は少し悩んだ後、

「分かりました。良いですよ。その代わりと言ってはなんですが、そちらの時代の事も教えて下さいよ!」

そう言うと店長はおもむろに入口まで行くと、看板を閉店に切り替えた。

「こうすれば誰も来ないですから。もう良いですよ。その結界?みたいなの解いても」

店長は晴明に対しそう言った。

「ありがたい。こうみえてもなかなかに疲れるのだよ。」

晴明が手を叩くと、いつもの雰囲気に戻っていた。

改めてすげ〜と感心していた店長であった。

その後は、今の世が約1200年先の世界である事。

今いる場所が東京という場所である事。

他にも通貨や人、物、忘れもしない板が携帯という離れた場所でも会話ができる物だということも教えてもらった。

代わりに晴明は、

陰陽師という官職や妖の類を退治したり、使役することができる事、星の吉兆を占っている事も色々な話をした。

時間にしたら3時間はゆうに経っていただろう。

時間も忘れて晴明と店長は色々な話をした。

陽も傾き始めた頃、おもむろに店長が切り出した。

「そういえば、友達はいいの?」

はっとした表情の晴明。

「いかん。忘れてた。」

まぁ、命の危険は今のところ無いようだからと放っておいたが、流石に気になり始めてきた。

「晴明さんの友達は刀持ってたんでしょ?」

「そうだな」

「マズくね?」

「なにが?」

「この時代で刀を持って外歩いちゃいけないし、逮捕されるよ?」

「いけないことなのか?」

「だいぶね。。」

そう言うと携帯を取り出し、店長が調べ始めた。

正当な理由がない限り携帯してはいけないと記載されている。

「店長よ、正雅が居る場所は分かるか?」

「多分だけど、本庁だろうからここから車で20分くらいの所かな?」

晴明にマップ機能で案内してみる。

「それと店長でも良いけどさ、従業員じゃないから忠志(ただし)って名前があるからそう呼んでくれない?」

「分かった。忠志。色々すまなかったな。おかげで少しはここが分かった気がするよ。」

そう言うと晴明は店に入ってきた入口へと向かう。

「あぁ!待って!」

晴明を呼び止める。

「これ持っていって!」

と渡されたのは、服代の3万円と1台の携帯だった。

「自分2台持ちなんだけど、結果的にこっちの携帯使ってないから持ってて!」

「使い方は、ここを押してこのボタンを押せば俺に繋がるから。何か困ったら連絡してきなよ!」

若干のドヤ顔で忠志は言った。

「本当に何から何まで申し訳ない」

晴明は深々と頭を下げた。

「役に立つか分からないが白をおいていくよ。もし仮にだが、手に余る様なことがあったら白が助けになるはずだ。」

晴明は白に対し、

「忠志の言う事をよく聞いて、この世界の事を学んでくれるね?」

「かしこまりました主。忠志の言うこと聞いています。ただたまには呼んでくださいね?」

耳が少し垂れて寂しそうである。

「分かっているよ。それと狐のままだと何も出来ないから変化しておきなさい。」

「分かりました」

そう言うと白は、瞬く間に18、9歳の切れ目でどこかのモデルかと見紛う様な女性へと変化した。

「忠志よ、すまぬが白に服を見繕ってくれるか?金はある!」

「いいよ。金なんか!服なんて売るほどあるんだから。

ってか売ってるけどさ!!」

「それにこんだけ美人なら客寄せになるかも。。」

ボソっと忠志が言ったが、

聞かなかったことにしよう。晴明はそう思った。

「では迎えに行ってくる。」

そう言って晴明は店を後にした。

〜晴明は現代を楽しみます?!終〜



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