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#幸せと人外の明日を  作者: 夜風 邑
第一章 『人外の学校』
9/11

9. 『幕間』


――夢を、見た。

姉達との会話、華音や沙月の幼き頃の姿。

父と母の、前の姿。

――昔の夢を、見た。


凛雨は浮かべた涙を拭い、ベッドから這い出る。

メゾットタイプのマンションなので、部屋一つが、凛雨の自室の様なものだ。


「しかし、まさか龍斗だけでなく、櫂達もこのマンションだったとは……」


凛雨の家は、この高級マンションの一棟全てであるが、3人はそうでも無いらしい。

実家から自立し、ここでそれぞれ、一人暮らしをしているのだとか。

高校生なのに、生活の大変さを悟る。


「凛雨ー?学校遅刻するわよ〜?」


華音の声と同時に、部屋のドアが叩かれる。

朝食は出来たのだろう。


凛雨の家族……木舟一家は、毎日3階の部屋で食事を取る。

如何に一人一部屋とて、家族団欒が出来ない訳では無い。


白い掛け布団を剥ぎ、洗顔と身支度。

洗面所の白い器は、凛雨の潔癖症やシンプル思考を、丸ごと再現しているのである。

白を基調にした部屋は、落ち着いているのか、逆に落ち着かないのか。

シンプル・イズ・ベストを掲げる凛雨にとっては、天国に値するが。


「凛〜雨〜?」


「分かってる。すぐ行くよ」


制服を着た凛雨は、先程から黙って支度を手伝っていたメイドを一目見、外で待っているであろう姉の元へ行く。


――昨夜の嫌な夢が、再び今夜に現れない事を願いながら。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「楽しかったのか?」


即座にそう聞かれた。

彼に、何と答えたら良いのか。

悪い受け答えをすれば、どの様な事が待っているのか。

限りなく未知数に近い。


尖った耳をその細い指でなぞり、彼は不敵な笑みを浮かべる。

青年は――綾は、困った様に眉を顰めた。


「はい。とても。凛雨さんもですが、ご家族の方も大変お優しく」


「そうか」


自分から聞いておいて、興味のない素振りを見せる。

しかし、綾が注目したのは、薄暗い部屋の中で光るゲーム画面だった。


「またゲームを夜遅くまでやっていたんですか?――梨都」


「……違うさ。徹夜かな」


少しも悪びれずに舌を出す姿に、綾は溜息を吐いた。

昨日は顔を出さず、部屋に籠りっきりだったので来てみればこの様子。

10年以上の付き合いでも、未だに慣れない事が多い。

大体、綾は潔癖症では無くとも綺麗好きではあるのだ。

その彼に、ゴミ屋敷の様な梨都の部屋は、目を覆いたくなる光景である。


「梨都。体を悪くします。早く寝ろとは言いませんが、せめて徹夜は避けて」


「うぃー」


何度も言った台詞を口にして、嫌気が刺す。

梨都はいつの間にか、パソコンのゲーム画面に目を戻していた。

一体どこから聞こえるのか、器用にヘッドフォンをしながらの会話。

大方、精霊の力でも借りているんだろう。

彼と契約している精霊は、多数いる。

綾は呆れ顔でもう一度、溜息を吐いた。


「なぁ、綾」


「何ですか?」


「凛雨って奴、どうだった」


「凛雨さんですか?とても綺麗な方でしたよ。華音さんとお母様似らしく、茶髪で素敵な顔立ちです」


「あっそ」


虫を追い払う様に手を扇いだ梨都を、綾は軽く睨む。


「もう学校が始まります。急いで用意を。次は、遅刻したら許しませんよ」


「分かったよ。ご丁寧にご苦労さん」


尖った声すらも肩透かし。

梨都を止められる人材は、依然としていないままである。


「――保護者役だからって、世話焼いてんじゃねーよ」


「そうですか。なら、結構です。僕は先に行きます」


ご機嫌斜めになった梨都をおいて、綾はドアを開ける。

後ろから聞こえるスマホの通知音や着信音。

恐らく、瑠衣達からのメールだろう。

聞こえているくせに、梨都は聞こえないふりをする。


「あの子が瑠衣達と話さなくなって2年。いい加減、話してくれないものでしょうか」


綾の虚しさすらも、梨都は聞こえないふりをする。

ガチャン

ドアが閉まり、周りは静寂に包まれた。

その中で一人、綾が言葉を漏らす。


「誰か……。いえ。あの方なら」


彼は今もこのマンションにいるであろう、木舟凛雨に賭けたいと願った。

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